第133話 負けているわよ

 〈メイ〉は、〈メィカーナ・ルョサル〉という男爵家の娘だ。

  朗らかでぽっちゃりしている。

  緑色のドレスを着ているので、少しだけカボチャっぽい印象を与えてくる。

  温厚そうで怒ったりしそうにない感じだ。


 〈ラミ〉は、〈ラミターシ・サドエイ〉という騎士爵の娘で、すごく綺麗な顔をしている。

 背は高くないけど、スタイルも抜群そうだ。

 千人に一人の美少女といえるんじゃないかな。

 ピンク色のドレスに白いレースの髪飾りで、可憐なお嬢様という感じだ。


 でも、〈アコ〉の方が、ふっくらと愛嬌があって可愛いと思う。

 胸とお尻の大きさは、大差で〈アコ〉が勝っているぞ。


 〈フラン〉以外の僕の友達は、この子の顔をチラチラ横目で見ている。

 〈アコ〉の胸も見ているぞ。怪しからん奴らだ。


 〈ヨー〉は〈ヨーコラワ・サドカリ〉という、こちらも騎士爵の娘だ。

 〈ヨー〉は、〈ラト〉以上に人見知りが酷くて、小さな声で何かゴニョニョ言っていた。

 聞き取れなかった。ずっと〈アコ〉の後ろに隠れていて見えない。

 ちゃんと踊れるか心配だな。


 ただ、チラッと見えた胸がもの凄い。まさかの〈アコ〉より大きい子だ。

 ゲェっと思って、二度見をしたら、〈アコ〉が睨んできた。


 顔は童顔なのに胸が大きい。すごくアンバランスな感じを受けてしまう。

 本人には悪いが、性犯罪者を引きつけそうな雰囲気がある。

 僕は、〈アコ〉がいるからしないけど。


 紹介が終わったら、躊躇なく〈フラン〉が〈ラミ〉に踊りを申し込んでいる。

 〈フラン〉は身長が低いから、確かに身長では〈ラミ〉が一番合っているな。

 〈ラミ〉は恥ずかし気に笑いながら返事して、「健武術場」の真ん中の方へ二人で歩いていった。

 何か腹が立つ。〈アル〉〈ソラ〉〈ラト〉見ると同じ思いのようだ。


 次は〈アル〉だ。

 こいつはちゃっかりしているから、一番誘いやすい〈メイ〉を誘った。

 〈メイ〉は誘いを断るような子じゃないから、ケラケラ笑いながら誘いを受けている。


 そうしているうちに、〈ロロ〉は一組の男子に誘われてしまった。

 〈ソラ〉と〈ラト〉は何をしているんだ。


 〈ラト〉は〈アコ〉と踊れるから、全く女の子を誘う気が無いようだ。

 キョロキョロと周りを見ている。

 どうせ、この機会に、女の子の姿を目に焼き付けているんだろう。

 〈ヨー〉は隠れていて正解だな。


 〈ソラ〉は、二回目の時に踊ってくれと〈メイ〉を誘っている。

 〈メイ〉はまたケラケラ笑いながら「良いよ」と快諾しているようだ。

 気っぷが良いカボチャ娘だな。


 そろそろ踊りが始まるので、〈アコ〉と「健武術場」の真ん中の方へ行こうと思ったが、〈ヨー〉が〈アコ〉から離れない。困った娘だ。泣きそうな顔をしている。

 〈アコ〉が、係の先生にところに連れて行ってやっと離れてくれた。


 「美しいお嬢様、わたくしと踊っていただけますか」


 僕は大げさにお辞儀をして〈アコ〉を踊りに誘った。


 「まあ、嬉しいですわ。喜んでお相手させて頂きます」


 〈アコ〉は、ドレスを手で摘まみ軽く膝を曲げてお辞儀を返してきた。

 右手を差し出すと、〈アコ〉は僕の手を取って、満面の笑顔だ。


 そのまま、二人で手を繋ぎ「健武術場」の真ん中の方へ進む。

 真ん中にはもう殆どのペアが集まって、踊りが始まるのを待っているのが見えた。


 「あら、〈アコーセン〉さん、随分と豪華で綺麗な髪飾りね。負けているわよ」


 おっ、「先頭のガタイが良いやつ」が横にいるぞ。この子は「先頭のガタイ」のパートナーか。

 パートナーも人間が出来ているな。


 「自分から負けているとは、なんて謙虚な人だ。美しさは人それぞれだと思います。

 そんなに自分を卑下することはありませんよ」


 「えっ、ええー、そういう意味なの」

 〈アコ〉が吃驚して僕を見た。


 「先頭のガタイ」はポカーンとした顔で僕を見ている。

 パートナーは「うっ」って言って顔を歪めている。


 まあまあの顔なのに、すごく容姿を気にしているな。

 〈アコ〉は何だか肩を震わせているし。


 思春期の女の子の考えていることは、よく分からないな。


 変な空気を吹き飛ばすように、踊りの音楽が始まった。最初は輪舞旋楽だ。


 「さあ行くぞ〈アコ〉。練習の成果を見せよう」


 「はい。〈タロ〉様。まいりましょう」


 僕達は踊り始めた。練習の甲斐あってすこぶるスムーズに踊れている。

 他のペアはあまり上手くない。ましなのは「先頭のガタイ」のとこだけだ。

 僕達は上手だと自画自賛したい。


 皆下手なのは、何故だろう。良く考えたら、答えが出た。急造ペアなんだから当たり前だ。

 初めての相手とそんなに上手く踊れるはずがない。

 練習はいらなかったんじゃないの。


 「〈タロ〉様、練習の甲斐がありましたね。私達が一番上手ですよ」


 〈アコ〉は、嬉しそうに笑っている。〈アコ〉が喜んでいるからそれで良いか。


 〈アコ〉のドレスは、薄い青というより、水色だ。清らかで潤いのある泉を連想させる色だ。

 胸元はハート型に浅い切り込みが入っている。


 切り込みから見える肌に、母親の形見のネックレスの青い輝きが見えた。

 両耳にもイヤリングが小さく光っている。


 袖は肩口から大きく広がったもので肘まではない。

 腰のベルトは黒色で太く、背中側は大きな変形の蝶々結びにしてある。

 ベルトの黒色は僕の服の色に合わせてあるんだろう。

 ドレスの丈はふくらはぎまである長いものだ。


 全体的に、上品で落ちついた女性をイメージにしているみたいだ。

 それに、今日は薄くお化粧をしている。

 どんな化粧をしたかは良く分からないが、〈アコ〉の小振りで少し厚い唇が、いつもより赤く光っているは良く分かった。

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