第129話 take it easyだ

 「あぁ、〈タロ〉様。私のお腹に押し付けないで下さい」


 僕の大動物が、〈アコ〉のお腹に悪さをしているらしい。もっと押し付けよう。

 大動物は暴れ者だ。


 「ごめん。何か固い物が当たった」


 「固くは無いですが、そんなに押し付けられたら、恥ずかしいですわ」


 あぁぁぁ、柔らかくて、ごめんなさい。小動物はふにゃでした。


 「うぅ、生理現象なんだ。ふにゃなんだ」


 「なっ、〈タロ〉様、急にどうしたのですか。泣かないで下さい。

 もう、押し付けても良いですから。恥ずかしいのは我慢しますわ」


 僕の小動物は、心を抉られるような告発を受けても、踏みとどまった。

 元気を失って、萎むようなことは無かった。まだ、堅さを維持している。

 何と言われようと固さを維持しているんだー。意地でも維持しているんだー。

 take it easyだー。

 イジイジといじけてないで、はじめよう。


 思ってもない攻撃を受けて、熱くなってしまった。冷静になろう。


 「〈アコ〉、悪いけど我慢してくれ。〈アコ〉が魅力的だからこうなってしまうんだよ。

 〈アコ〉に感じているんだ。〈アコ〉の責任でもあるんだよ」


 「えぇ、そんなことを言われても、私、困ります」


 〈アコ〉の顔は、桃色になっていく。少し困ってもいるようだ。そりゃ、そうだろうな。

 〈アコ〉のお腹を大動物でグニュグニョしながら、〈アコ〉にキスをした。


 両手でお尻を掴み、お腹にあそこを押し付けた状態でのキスだ。

 〈アコ〉を色々な場所で堪能していると言えるぞ。〈アコ〉をまんきつだな。


 「はぁ、んんぅ、〈タロ〉様。ちょっと待って、そんなことされたら、もう踊れませんわ」


 僕達二人は抱き合ってままだが、〈アコ〉は僕の胸に顔を埋めて踊りを止めてしまった。

 ちょうどそのタイミングで、鐘が聞こえてきたから、ダンスの練習は終了だ。


 〈アコ〉は、店を出るまで、顔が桃色だった。

 でも、恋人繋ぎで階段を降りたから、怒ってはいないのだろう。

 「ふー」って、何回か吐息をついていたけど。


 続いては、〈クルス〉との時間だ。

〈クルス〉を呼び出すと、直ぐに門を出てきた。

 手には、鞄と紙袋を持っている。


 「〈クルス〉、お待たせ。紙袋を持とうか」


 「〈タロ〉様、そんなには待っていませんよ。

 それでは、せっかくですので、紙袋をお願いします。

 紙袋には夕食が入っているので、楽しみにしておいて下さい」


 「そうか。楽しみにしているよ。さあ、行こう」


 「はい」


 〈クルス〉は、料理が得意だから自信を持っているな。何が食べられるのか楽しみだ。

 「南国茶店」の扉を開けると、〈クルス〉は待っていたように、僕の手を握ってきた。

 良い感じだ。


 部屋着に着かえたあと、ソファーに座ろうとすると、


 「〈タロ〉様、今日は踊りのおさらいをしても良いですか」


 と聞いてきた。


 「あれ、〈クルス〉の舞踏会はもっと先じゃなかったの」


 「もお、〈タロ〉様。逢えるのは今日が最後ですよ。分かっていますか」


 そうだ、次の休養日は〈アコ〉と舞踏会だ。


 「ごめん。〈クルス〉の言うとおりだな。おさらいをしよう」


 〈クルス〉の左手を僕の右手で握って、〈クルス〉の腰に左手を添えた。

 いや、お尻に添えた。


 「ヤッ、〈タロ〉様。そこはお尻です。触らないで」


 「違うよ。まだ、腰だよ。良いだろう」


 「もー、どうして、〈タロ〉様は私のお尻を触るのですか」


 「それは。〈クルス〉のお尻が、魅力的過ぎて抵抗出来ないんだよ。誘っているんだよ」


 「魅力的ですか。私は誘ってはいませんよ」


 「でも、〈クルス〉のお尻は、形が良くて柔らかくて触り心地が良いんだよ。

 触りたくなるのは当然だろう」


 「もー、そんなに褒められても。私のお尻はそんなに良いものでは無いですよ、〈タロ〉様に、褒められるのは、悪い気はしませんけど。どうしても、触りたいのですか」


 「そうだよ。どうしてもだよ」


 「うーん、しょうがないですね。二人の時だけですよ。舞踏会では絶対ダメですよ。いいですか」


 「当たり前だよ」


 僕は、〈クルス〉のお尻を少しモミモミしてみた。

 〈アコ〉よりは一回り以上小さいけど、お餅みたいに柔らかい。

 大きいの良いけど、小さいのも良いぞ。


 「んぅ、もう。〈タロ〉様、ちゃんと踊って下さい」


 「分かりました。最初は「輪舞旋楽」で良いかい」


 「それで、構いません」


 僕は、〈クルス〉をリードしながら、ステップを刻み始めた。

 〈クルス〉は、始め付いてこれなかったが、段々調子をあげてきた。

 踊りの勘を取り戻してきたんだろう。


 僕は、〈クルス〉をクルッと回して、大きくホップとランを繰り返す。

 〈クルス〉は軽いから、大きな動きも簡単に出来る。


 〈クルス〉は、部屋着のスカートを翻しながら、頑張ってステップを踏んでいる。

 それほど勢いは無いから、スカートはあまり翻らない。口惜しい。


 〈クルス〉は、真剣な顔つきで必死に踊っている。

 僕の動きが大きすぎたのかもしれないな。お尻を触れて調子に乗り過ぎた。


 歩幅を小さくすると、〈クルス〉は余裕が出来たのか、顔を上にあげて微笑んできた。

 僕も〈クルス〉に微笑んで、僕達は互い見つめ合いながら踊るラブラブな雰囲気になってきた。

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