第128話 世話をやかせますね

 「〈アコ〉、そろそろ、「跳舞旋楽」の方の練習をしないか」


 「はい。〈タロ〉様。分かりました」


 「跳舞旋楽」は、四拍子の曲に合わせて、飛び跳ねる踊りだ。

 男女が一緒に駆けまわったり、スキップしたりするのが特徴となっている。

 名前に「旋」があるとおり、素早く回転もする。


 若者向きの踊りで、お年寄りが踊ることはまずない。

 激しい動きをするので、ぶつかったり、転倒する危険が多いからだと思う。

 どれだけ楽しく、軽快に回って、元気に跳ねるのかが、この踊りの見せどころになる。


 「〈アコ〉、行くぞ。用意は良いかい」


 「はい。〈タロ〉様」


 部屋が狭いから、旋回が目まぐるしくなる。足運びが通常より難しい。

 それでも、〈アコ〉は良くついてきている。跳んだり、回ったり、息つく暇も無い。


 〈アコ〉に笑う余裕は無いようだ。顔が真剣だ。僕の目を一心に見詰めている。

 「輪舞旋楽」より回転速度が速いから、〈アコ〉のスカートは高く翻って、白い太ももがチラチラ見えている。

 ただ、僕にそれをじっくりと見る余裕が無い。

 僕も飛び跳ねて、回っているからだ。大変遺憾に思う。


 「〈タロ〉様、休憩にして下さい」


 「ごめんよ。疲れた。もっと前に中断したら良かったな」


 「私こそごめんなさい。〈タロ〉様に気遣ってもらえて、嬉しいです。

 久しぶりだから、少し疲れました」


 「そうか。休憩しよう」


 「はい。〈タロ〉様」


 僕達は、ソファーに座って、またお茶を飲んだ。


 「〈タロ〉様、汗が凄いです。汗を拭いてあげますね」


 「おっ、そんなに出ている。でも、その汗拭きを使うと〈アコ〉が拭けなくなるよ。良いのかい」


 「これでも、拭けないことは無いのですが、ちゃんともう一枚用意しておりますわ。

 〈タロ〉様は、必ず持ってないと思いましたので」


 「ははは。世話になるね」


 「ふふ、世話をやかせますね」


 〈アコ〉は笑いながら僕の汗を拭ってくれた。その後、自分の汗も拭った。

 〈アコ〉が拭うために広げた、白いうなじが色っぽい。


 「何とか踊りも様になってきたな。これで、舞踏会も何とかなりそうだ」


 「そうですね。舞踏会が楽しみですわ」


 「僕は〈アコ〉のドレス姿を見るのが一番の楽しみだよ」


 「まあ、〈タロ〉様。本当に、そう思っていますの」


 「当然だよ。〈アコ〉は国中で一番の美人だから、《白鶴》の一年生では相手にならないけどな」


 「もお、〈タロ〉様はいつも褒めすぎです。それでは、返って嫌味になりますわ」


 「嫌味じゃ無いよ。〈アコ〉は僕の特別だからな」


 「私は、〈タロ〉様の特別なのですか」


 「そうさ。他の人では変えられないよ」


 「〈タロ〉様、私、嬉しいです」


 〈アコ〉が、僕の方へ顔を向けてきたので、首の後ろに手をやって引き寄せた。

 手に〈アコ〉のフアフアした髪の毛が、纏わりついてくる。

 〈アコ〉の汗と仄かな香水が合わさった匂いも、纏わりついてくる。


 〈アコ〉を見詰めると、目を閉じたので「チュパ」とキスをした。

 一度、唇を離して、もう一度「チュッ」とキスをした。

 今度は長くしようと思ったが、〈アコ〉が顔を離してしまう。


 「〈タロ〉様、今私、汗臭いから」


 「〈アコ〉は、汗も良い匂いだよ」


 「もう、〈タロ〉様。私の匂いを嗅いじゃいけません。恥ずかしいですわ」


 「悪い匂いじゃ無いから、気にするなよ」


 「気にします」


 「仕方が無いな。それじゃもう一度練習する」


 「そうですね。狭い場所で怪我をするといけませんから、「輪舞旋楽」にしましょう」


 また、〈アコ〉の腰に左手を添えて、〈アコ〉の左手を僕の右手で握りながら、ステップを踏む。

 〈アコ〉は楽しそうに踊っている。


 「〈アコ〉は、この踊りの方が好きなの」


 「そうです。優雅な気持ちになりますし、〈タロ〉様との一体感も強いですわ」


 「そうだな。〈アコ〉の言うとおりだ」


 僕達二人は、動きに波のような抑揚をつけて、揚羽蝶が空を舞うように踊る。

 〈アコ〉のスカートは、蕾が開くように膨らみ、白いメシベのような脚を覗かせている。


 〈アコ〉との時間は、もう直ぐ終わりだ。

 〈アコ〉は、僕の目を熱っぽく見詰めてくる。

 僕は、〈アコ〉左手を離し、両方の手で〈アコ〉の腰を抱いた。

 〈アコ〉も、僕の背中に手を回した。


 〈アコ〉の腰を軽く引き寄せ、目を見詰めた後、〈アコ〉に長いキスをした。

 〈アコ〉は、「んんう」とくぐもった声をあげたが、僕の背中は離さない。

 僕は、手を下げて〈アコ〉のお尻をゆっくりと触る。


 「もお、〈タロ〉様。そんなに私のお尻が触りたいのですか」


 「そうなんだ。すっごく、柔らかくて気持ちが良いんだよ」


 「はー。あまり強く揉まないで下さいね」


 「分かりました」


 〈アコ〉のお尻に手があるから、もうダンスとはいえない感じになっている。

 それでも僕達は、簡単なステップを踏んで、その場で回りながら、断続的にキスを続けている。


 身体を密着しながら、キスをする、いやらしい大人のダンスだ。

 前から、やってみたかったんだ。興奮するな。

 小動物がモコモコ大きくなるぞ。

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