第127話 踊るバカ
「南国茶店」は次の休養日から開店することに決まった。
舞踏会があるので、いつもより賑やかになるだろうとの読みだ。
〈アコ〉と〈クルス〉は、また完成品に手を伸ばしている。
特に〈アコ〉は、ニマニマと顔がにやけている。
「二人とも、そんなに食べたら昼食が食べられないぞ」
「〈タロ〉様、もう遅いですわ。このお菓子がお昼ごはんです」
「私も、もうお昼ごはんは食べられません」
「そうだ。ご領主様、このお菓子の名前はどうします。良い案はありますか」
〈カリナ〉が僕に意見を求めてくる。スイートポテトでは意味が通じないしな。
「えーとだな。「南国イモ」でどうだ」
「えー、それはちょっと。「南国イモ」では、かっこ悪いです」
せっかく考えたのに、文句を言われた。
「〈タロ〉様、甘いのが美味しいお菓子ですから。「甘いおイモ」でどうですか」
〈アコ〉は、本当に甘いのが好きだな。
「それ。それが良いですね。女性は甘いものが好きですし。名前で分かるのも重要です。
ご領主様のより、圧倒的に良いです」
〈アコ〉は、命名のお礼にと、またスイートポテトを貰っている。
今までも結構食べていたけど、まだ食べられるのか。
「〈タロ〉様、お願い。もうお腹が一杯で食べられないの。残りを食べて」
やっぱり、想像通りだ。前にもあったぞ。わざとなのか。
「〈アコ〉、またか。甘いのを一杯食べて太っても知らないぞ」
「うぅ、ごめんなさい。食べないようにします」
僕も〈アコ〉の残りを食べたら、もう昼ご飯は無理だな。
店でお茶を貰って休憩しよう。
〈リーツア〉さんが、「睾丸をジャガイモと間違われた男」の大人のジョークを飛ばして、〈テラーア〉と〈シーチラ〉を笑わせている。
横で聞いていた〈アコ〉と〈クルス〉は、顔が少し赤くなっているぞ。
このくらいのジョークで、顔を赤くしているようではダメだな。
もっと、僕のジャガイモを触らせて、耐性を付けなくてはいけない。
よく見ると〈カリナ〉まで赤くなっているぞ。〈リク〉は何をしているんだ。
いや、何もしてないのか、だ。
休憩が終わって、「南国茶店」の二階に行く。
前回と反対で、最初は〈アコ〉と二人切りだ。
「〈タロ〉様、舞踏会が近いので、ダンスの練習をしましょう。おさらいが必要ですわ」
えぇ、そうなの。イチャイチャしないの。
「残念だけど、分かったよ」
「〈タロ〉様、気を落とさないで、踊れば楽しくなりますわ」
確かに、舞踏会で恥をかくのは、僕も避けたい。悲しいけど、おさらいは必要だな。
ソファーとテーブルを隅に退けて、練習を開始する。
〈アコ〉の腰に左手を添えて、〈アコ〉の左手を僕の右手で握りながら、ステップを踏み出した。〈アコ〉の右手は、僕の肩か、背中に添えられている。
最初は、「輪舞旋楽」の練習だ。
三拍子の曲に合わせて、男女が位置を入れ替えながら。優雅に舞う踊りだ。
名前のとおり、クルクル回るのだが、どれだけ滑らかに回るかが、この踊りの上手い下手の分かれ目だ。
最初はぎこちなかったが、段々調子が出てきた。練習したことを身体は覚えているもんだな。
狭いから、一か所で回ることになる。部屋着のスカートを翻しながら、〈アコ〉を回転させる。
ゆっくりだから、それほどスカートは翻らない。遺憾に思う。
「〈タロ〉様、一度休憩しましょう。お茶を飲みましょうよ」
僕達は、片隅に寄せたソファーに座って、〈アコ〉が用意してくれたお茶を飲んだ。
「〈アコ〉、ありがとう。お茶が美味しいよ」
「ふふ、どういたしまして、普通のお茶ですよ」
「〈アコ〉は踊りが上手いな。合わせてくれるので踊りやすいよ」
「うーん。合わせにいっている意識はあまり無いのです。
私は、基本的に〈タロ〉様の目を見ていますから、自然に合うのだと思いますわ、〈タロ〉様」
「そうか。以心伝心だな」
「はい。〈タロ〉様の動きや、考えが、段々分かってきましたわ。
私は、いつも〈タロ〉様を見ていますから」
「僕は、いつも〈アコ〉に見張られているの」
「ふふふ、見ているだけですよ。見張ってなんかいませんわ」
「お手柔らかに頼むよ」
「もう、どういう意味ですか、〈タロ〉様」
「ハハハ、もっと練習する」
「しますけど。その前にお願いがあるのです」
「なに」
「変な警戒していますね。心配しなくても大丈夫ですよ。
今度の舞踏会で、私のお友達の〈ヨー〉、〈ヨーコラウ〉とも、一回だけ踊ってあげて欲しいのです。
誰にも誘われなかったらですが。
良い子なのですが、大人しくって、引っ込み思案な子なのですよ」
願ってもない話だ。言いやすくなったな。
「分かった。了解だよ。
ただ、僕の方も頼まれているんだ。〈ソィラギソ〉と言う名前で、大人しいヤツなんだ。
一回だけ踊ってやってよ。頼むよ」
「まあ、一緒ですね。当然、私も了解です。
〈タロ〉様に頼むのが心苦しかったのですが、すごく楽になりましたわ」
休憩を終えて、練習再開だ。
言いにくい頼みも解決して、踊りも余裕が出てきたのか、〈アコ〉はにこやかに笑いながら、優雅に舞っている。
「こんなに、踊りが楽しいなんて思いませんでしたわ」
「僕も思いどおり踊れるから楽しいよ」
「〈タロ〉様が、お上手だからですわ」
「〈アコ〉の方が上手いよ」
「ふふふ、二人で褒め合っていると世話がないですね」
「本当だ。傍から見るとバカみたいだろうな」
「ふふふ、踊るバカですか。酷いですね。踊るあんぽんたん、くらいで済みませんか」
「少し可愛らしさが出たけど、それも相当間抜けだな」
「ふふ、そうですね」
〈アコ〉は、笑い声をあげなから、クルクル回っている。
舌を噛まないか心配なくらい口を開けて笑っている。
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