第126話 スイートポテト

 後で〈アル〉に、《赤鳩》の従妹の子の名前を確かめておいた。


「〈タロ〉、同じ組だぞ。覚えて無いのかよ。〈ソラ〉だよ。

〈ソィラギン〉だよ」と呆れられた。

 十人もいないんだ。深く反省だな。


 本日の休養日は、鞄屋と靴屋と〈ベート〉の店に、ドレスを取りに行かなくてはならない。

まず、「南国果物店」へ向かう。


「南国果物店」には、もうバナナとライチが、店頭に並んでいる。

バナナの熟した甘い匂いが漂っている。南国だな。良い感じだ。

値段が高いから、それなりにだけど売れ行きは好調だと、報告を受けている。


次に隣の靴屋だ。ちゃんと出来ていた。当たり前か。

靴を店に置いて次は鞄だ。


鞄屋は、今日もおばちゃんが、機関銃のように喋って、すごい活気がある。五月蠅いとも言う。

鞄屋のおっちゃんは何も言わない。

これで、おっちゃんが喋ったら、五月蠅すぎて、この店はお終いだな。


お金を払って店を出ると、二人は新しい鞄を嬉しそうに持っている。


「うふ、〈タロ〉様、ありがとうございます。すごく嬉しいですわ」


「ふふ、〈タロ〉様、高価な鞄を買って頂いてありがとうございます。大事に使いますね」


次に〈ベート〉の店で、ドレスを受け取る。


「お嬢様方、きちんと出来ておりますよ。念のため着てみて下さい。

ベルトの締め方も説明します」


僕は店から追い出され、二人はドレスの最終調整だ。

終わったとの合図があり、店に入って見ると、もう元の服に着替えている。


「うふ、〈タロ〉様、ありがとうございます。早く〈タロ〉様に見せたいですわ」


「ふふ、〈タロ〉様、嬉しいです。私のドレスになりました。ありがとうございます」


「ドレスを着たところを見なくても良いの」


「それは、舞踏会でのお楽しみにしておいて下さい」と二人とも、キャッキャッと笑っている。

何が可笑しいのか分からない。


二人は、早速新しい鞄へ、ドレスを大事そうにしまって、ますます嬉しそうだ。

喜んでいる二人を見るのは良いもんだ。


お金を払おうとすると、〈ベート〉が呆れたように言った。


「ご領主様、ご自身の燕尾服をまだ渡しておりません」


紙袋に入った服を〈ベート〉が渡してくれた。僕は調整がいらないようだ。

良いんだけど、扱いに差があるように感じてしまう。


 〈ベート〉に代金を払うと、


 「お買い上げ、おありがとうございます」


 といつもと同じく、深々と頭を下げてお辞儀をしてきた。

 次はどうして金を毟ろうと、企んでいる悪だくみが、下げた顔に張り付いているに違いない。


「南国果物店」に帰ると、店の皆で「南国茶店」のメニューの開発をしている。


 僕が、頭から絞り出したお菓子のメニュー、スイートポテトの試作品を作っている最中だ。

あやふやな作り方しか、思い出せなかったので、色々試しているみたいだな。

家庭科で一回しか作ってないので、しょうがない。


この世界にある材料、砂糖、バター、牛乳、卵黄の分量を変えながら試作しているようだ。

香りづけに、〈ウルセー〉という《インラ》国特産の蒸留酒も加えている。

焦がしたような香りと甘みがある酒で、ラム酒みたいなものだ。


「皆、精が出るな。上手くいきそうか」


「ご領主様、上手く行きそうですよ。茶店の名物になると思います」


〈カリナ〉が自信ありそうに言う。


 〈リーツア〉さんも、

「〈カリナ〉ちゃんを先頭に皆頑張りましたもの、きっと一杯売れますよ」

と〈カリナ〉を持ち上げている。


 心配していたが、嫁予定者と姑の仲が良いのは良いことだ。

 面白い見世物が無くなったのは残念だけど。


 〈カリナ〉には、もっとカニみたいに、プクプク泡を吹いて欲しかったな。


 それと、プレゼントの歩行器が、店先でオブジェと化している。


 〈リーツア〉さんが元気になって、足を引きずりながらも歩けるようになったからだ。

 目出度いことだが、明るい色に塗られた歩行器が何故か悲しげだ。


 僕達も試作品を勧められた。

 待ちかねたように、〈アコ〉と〈クルス〉が一つ取って、口に運んでいる。


 「〈タロ〉様、甘くてすごく美味しいですわ」


 「本当に美味しいです。思ったよりあっさりしていますよ」


 「そうなの。僕も食べてみるよ」


 僕が食べたのは、バターも砂糖も少ないようで、少し水っぽい味がした。

 試作品だから、味がバラバラのようだ。

 〈アコ〉と〈クルス〉は、二つ目だ。


 「こっちのは、あまり甘くないですわ。甘い方が美味しいですね」


 「私が今食べたのは、バターが少し多いですね。沢山食べると胃にもたれそうです」


 「皆さんが食べているには、試行錯誤中のものです。

 こちらが、完成品ですよ。食べれば違いが分かって頂けると思います」


 〈アコ〉と〈クルス〉は、嬉しそうに完成品を食べている。

 スイートポテトを気に入ったようだ。


 「完成品も美味しいですわ。あまり、甘くは無いのですね」


 「断然、完成品の方が美味しいですね」


 〈アコ〉は甘いのが好みのようだな。僕も一つ完成品を食べてみるか。


 「完成品は、ちょうど良い甘さだな。イモの味が引き立っているぞ」


 「皆さんに褒めて頂いて良かったです。結構当たると思っているんですよ」


 〈カリナ〉が自信ありげな様子だ。売れて儲かれば良いな。

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