第124話 少女のままで

 僕の目を真直ぐ見つめて、正座をしている。


 「〈タロ〉様は、私の心のベールを、すでに何枚も、破られています。

 もう何枚も残っていないのですよ。

 私に勝ち目はないのですが、もう少しの間待って欲しいのです。

 今しか持てない、純粋な思いを大切にしたいのです。

 〈タロ〉様に抱きしめられて、胸が熱くなり、〈タロ〉様にキスをされて、心が震える、私がいとしいのです。

 だから、〈タロ〉様、もう少しだけ、私を少女のままでいさせて下さい」


 女の子の気持ちは分からないな。

 本当のところは、何が言いたいのだろう。

 今が幸せだから、先に進みたくないのかも知れない。

 僕が、〈アコ〉のことを本当に好きか、確かめたいのかも知れない。

 僕が〈アコ〉のことを、ただ欲望を満たすだけの存在、単なる性欲のはけ口としか思っていないか、心配しているのかも知れない。


 そうでも無いんだが、少し自分の欲望に走り過ぎていたかな。


 学舎で、直ぐに身体を許すのはいけないと、恋愛の駆け引きを学んだのかも知れない。

 身体はもう大人だけど、よく考えたら、〈アコ〉はまだ十六歳にもなっていない。

 中学三年生なんだな。


 「〈アコ〉、分かったよ。〈アコ〉が良いと思うまで待つよ」


 「〈タロ〉様、ありがとうございます。私を大切に思ってくれているのですね」


 「何度も言うけど、〈アコ〉は僕の一番大切な人だよ」


 「〈タロ〉様、私嬉しいです。

 それと少しだけなら、触っても良いですよ。

 今日、私が許したことは、これからもして頂いて良いです。

 でも、スカートに手を入れるとかはダメです」


 「抱きしめるのと、キスはどうなの」


 「それは、一杯して下さい。二人切りの時は、ずっとしてて欲しいです」


 〈アコ〉は、僕の胸に飛び込みように抱き着いてきた。

 僕は〈アコ〉を抱きしめて、音を立てて〈アコ〉にキスをした。

 〈アコ〉の唇に吸い付いて「チュッ」っていう音を出した。


 「あぁ、〈タロ〉様」


 〈アコ〉は僕の顔を見て、僕の胸に顔埋めてしまった。

 僕は目の前にある〈アコ〉のフアフアの髪を、両手で愛しむようにゆっくりと撫でるしかない。

 今の〈アコ〉の気持ちはどうなんだろう。


 遠くで鐘がなっている。


 〈アコ〉は、ガバッと顔を上げて、

 「〈タロ〉様、サンドウィッチを食べなきゃ」と慌てたように言った。


 〈アコ〉が、紙袋からサンドウィッチを取り出して、僕に勧めてくれる。


 「〈タロ〉様、今日のは、土はついていませんので、安心して食べて下さい」


 「前のも美味しかったよ。でも、今日のは、それ以上に美味しそうだね。

 僕のために作ってくれたんだね。遠慮なく頂くよ」


 「お口に合うと良いのですけど」


 〈アコ〉が、作ってくれたサンドウィッチは、大きさもまちまちで、料理に慣れていないのが一目で分かる。

 でも、僕のためのサンドウィッチだ。食べる前から、美味しいに決まっている。


 それに、サンドウィッチは誰が作っても、そんなに不味くはならないだろう。

 賢い選択をしている。


 「おお、すごく美味しいよ。〈アコ〉は料理も出来るんだな。

 このサンドウィッチはどこで作ったの」


 「料理というほどでは無いですわ。

 でも、美味しいって言ってもらえて、安心しました。とても嬉しいです。

 寮の厨房を借りて作りましたわ。

 お料理が趣味な子もいますので、頼めば使えるのですよ」


 〈アコ〉は、僕の横で嬉しそうに笑っている。

 不味いと言うはずが無いのに、味を心配していたんだろう。

 気を利かせて、お茶も入れてくれる。


 こんな風に世話をやいてもらえるのは、心の奥が温かくなって、泣きたくなる感じがする。

 何かに、心の隙間が満たされていく。


 「へぇー、厨房を貸してくれるのか。僕が言うのも変だけど、〈アコ〉も食べなよ」


 「そうですね。頂きますわ」


 サンドウィッチの三分の二は僕が食べて、〈アコ〉は三分の一だ。

 〈アコ〉が僕に「食べて」「もっと食べて」と言うからこうなった。


 〈アコ〉が、「〈タロ〉様が一杯食べて嬉しい」って言うから、これで良いんだろう。

 お腹はキツイけど。


 夕食が終わって、帰る時間になった。

 最後にキスをしようと思ったが、サンドウィッチを食べたばっかりだ。


 「〈アコ〉、食べたばっかりだけど、キスがしたいんだ。でも、嫌だろう」


 「バカなことを言わないで、〈タロ〉様。私、一杯キスしてて言いましたよね。

 してくれなかったら、怒りますよ」


 〈アコ〉は、僕の目も前に来て、口を尖らせて怒っている。

 いや、怒っている演技だ。目は嬉しそうにキラキラしている。


 〈アコ〉の尖らせた口に、僕も口を尖らせて、小鳥のようなキスをした。


 「〈タロ〉様、今のはダメです。もっとちゃんとして下さい」


 僕は両手で〈アコ〉を抱きしめた。


 「〈タロ〉様、今は二人切りだから、手はもっと下でも良いですよ」


 〈アコ〉は、僕の両手を握って、自分のお尻に持っていった。


 「良いの」


 「人がいる時はダメですよ」


 僕は、〈アコ〉の柔らかくて、丸いお尻に手を添えて、ほんの少しだけ揉んでみた。


 「あっ、〈タロ〉様、少しくすぐったい」


 〈アコ〉の目を見詰めると、〈アコ〉はゆっくりと瞼を閉じた。

 〈アコ〉の唇に、僕の唇を押し当ててから、〈アコ〉の下唇を挟んで軽く吸った。

 続いて上唇だ。「チュ」と音を立てながら何回も繰り返した。


 〈アコ〉は、「んっ」「んっ」「んっ」って、僕が唇を吸うたびに声を漏らしている。


 もう長いことしているな。

 いつもは〈アコ〉から止めるのに、今日はキスを止めようとしないぞ。


 「〈アコ〉、もう帰らないと」


 「ふぁ、〈タロ〉様、もうそんなに経ちました」


 「そうだよ。結構長い時間、キスしてたよ」


 「そんなに時間が、経ったとは思えなかったんです」


 〈アコ〉は、少しぼーとしているようだ。


 「そうなんだ。〈アコ〉、もう遅いから帰るぞ」


 「はい。分かりました」

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