第122話 みぞおち周りと脇だよ 

 〈アコ〉の胸は大きいから、乳房を押し上げるようにしないといけないのが難しいな。

 どうしても、乳房の下の部分を触ってしまうことになる。不可抗力だ。しょうがない。


 「きゃ、服の中に手を入れないで。〈タロ〉様、そこは確実に胸です。触っちゃダメです」


 「胸じゃ無いよ。みぞおち周りと脇だよ。ここがすごく効くんだよ。

 おまけに将来胸が垂れなくなる効果もあるんだよ。

 服の上からだと効果が薄いから仕方がないんだ」


 「〈タロ〉様、本当ですか。垂れなくなるって、誰に聞いたんですか」


 「〈サヤ〉だよ。〈サヤ〉が訓練の時に言ってたよ」


 「ふーん。怪しいですわ。私が自分で胸だと言っているんですよ。

 これ以上確実なことはないでしょう」


 「〈アコ〉の胸のことは、僕の方が良く知っている」


 「そんなわけありませんわ。もう、仕方が無いですね。もう良いです。

 ただし、下と横の胸だけですよ。それ以外は絶対触らないで下さいよ」


 「分かったよ。だけど、胸じゃ無くて、みぞおちの周りと脇だ」


 「はー。〈タロ〉様。まだ言い張るのですね」


 まあ、良かった。一応の了解は得られた。

 このまま、〈アコ〉の下乳と横乳をゆっくり、ねっとりと触り続けよう。

 胸を揉むと言うより、乳房の脂肪の下に隠れている部分を優しく触るという感じだな。

 脂肪の所は、いくら触っても、気持ち良くはならないらしい。


 ただ黙々と下乳と横乳を触るだけでは、単に気持ちが悪いヤツだ。何か話そう。


 「〈アコ〉、《白鶴》での生活はもう慣れたかい」


 「そうですね。かなり慣れましたわ。日課も授業も、それなりにこなしていますよ」


 「他の学舎生はどんな感じなの」


 「《黒鷲》も同じだと思いますが。騎士爵の子と、男爵以上の子の間では、随分雰囲気が違いますね。

 騎士爵の子は、優等生で真面目ですね。

 男爵以上の子は、勉強はあんまり出来ませんし、あまり真面目とも言えないですね」


 「へぇー。男爵以上の子は、不良なの」


 「不良じゃないですわ。皆さん、良家のお嬢様ですよ。

 ただ、もう将来がほぼ決まっているから、今を楽しみたいっていう感じです。

 騎士爵の子は、就職する子も多いですから、将来は自分次第っていう面が多いのだと思いますわ」


 「〈アコ〉は、男爵以上だから、今を楽しんでいるの」


 「ふふ、だから、今、こうして〈タロ〉様と逢っているんじゃないですか」


 〈アコ〉は振り向いて、僕を見詰めながら、悪戯っぽく微笑んだ。


 「他の学舎生とは上手くやっているの」


 「えっ、〈タロ〉様。また質問ですか。

 えーと、同じ組の人達とは、仲良く出来ていますわ。

 特に〈ロロ〉と〈メイ〉という子とは良いお友達です。いつも寮で笑い転げていますよ。

 たた、前に言ったとおり、一組に嫌な人がいますわ」


 「そうか。そう言ってたな。何か辛いことがあったら直ぐに言ってよ。

 出来ることは何でもするから」


 「ありがとうございます。私は、〈タロ〉様を頼って良いのですね」


 「もちろん良いさ。頼らなかったら怒るよ」


 「〈タロ〉様、私嬉しいです」


 〈アコ〉は振り向いて、僕を見詰めてきた。何かを訴えているようだ。

 少し伏せた目に長いまつ毛が揺れている。


 「授業はどんな感じなの」


 「もお、〈タロ〉様は。質問は、もういいですわ。

 今度は〈タロ〉様に聞きますね。お友達は出来たのですか」


 「そうだな。早朝稽古を一緒にやっている騎士爵の子がいるよ。同じ組で〈ロラマィエ〉って名前なんだ」


 「まあ、早朝稽古をされているのですか。〈タロ〉様は、人知れず努力されているのですね」


 「〈リク〉が、くそ真面目なんだよ」


 「ふふふ、その言い方は〈リク〉さんが、可哀そうですわ。他には友達の方は、おられないのですか」


 「〈アル〉っていう男爵の子がいるな。この子も同じ組だ。本を貸して貰っているよ」


 「どんな本なのですか」


 「「《青燕》と《赤鳩》と《春息吹》」という題名なんだ。

 人生の教訓が一杯詰まっている良い本なんだ。ためになるんだよ」


 「うーん、怪しい本じゃないでしょうね。《黒鷲》と《白鶴》は、出てこないのですね」


 「怪しい本じゃ無いよ。実用書だよ。

 《黒鷲》と《白鶴》は、人数が少なくて、需要が少ないんじゃないかな」


 「需要が少ないのは、そうかも知れませんね。女子の本も少ないですわ。

 違う組の方はどうですか。要注意の人がいるはずですけど」


 「違う組で知っているのは、一人だけだな。ただ、名前はまだ知らないんだ。

 そいつは、すごいヤツで、見てる方が気持ち悪くなるくらいの大量の汗を流しながらも、走りで一番を目指す漢なんだ。

 それに、皆の模範のため、馬鹿みたいに同じ技を何度も繰り返すことも出来るんだ。

 自分が大恥をかいても、他人を優先する見上げた漢なんだよ」


 「そんな立派な人がいるのですね。ただ、話を聞くだけですと、少し変わった人のようですね。

 嫌がらせとかしてくる人はいなのですか」


「そうだな。人の出来ないことをあえてするので、変わっているとも言えるな。

今のところ、嫌がらせは無いよ」

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