第119話 〈アコ〉が部屋着に着替えたら

 《白鶴》に〈アコ〉を迎えに行くと〈アコ〉は直ぐに出てきた。

 〈クルス〉との時間が長引いて、遅くなったので、準備を整えて待っていたのだろう。

 手には鞄と紙袋を持っている。


 「〈アコ〉、お持たせ。一つ荷物を持とうか」


 「〈タロ〉様、待っていましたよ。鞄も紙袋も、軽いから大丈夫です。片手で持てますわ」


 店の鍵を開けて、〈アコ〉と店の中へ入った。

 〈アコ〉と手を繋いで、二階へ上がっていく。

 〈アコ〉は、積極的に指を絡める恋人繋ぎにしてきた。嬉しそうに笑っているな。


 「着替えるから、〈アコ〉も部屋着に着替えてよ。すごく快適だよ」


 「快適なのですか。楽しみですわ」


 「どうしたの、着替えないの」


 「〈タロ〉様、窓の方を向いて下さい。見られていると、着替えられませんわ」


 まあ、ごねてもしょうがない。


 「分かった。窓の方を向いてるよ」


 窓の外を見ると、さっきより人が減っている感じだ。もう寮に帰った人が多いんだろう。


 背中の方から、シュシュと〈アコ〉が、服を着る衣擦れの音がする。

 今振り返ったら、〈アコ〉はどうするかな。少し後ろを見てみるか。


 「〈タロ〉様、残念でした。もう着替え終わりましたわ」


 「心外だな。後ろを見たりしてないよ」


 「そういうことに、しておいてあげますわ」


 「それは良いとして、〈アコ〉は部屋着でも、美人なのは隠せないな。

 何を着てもすごく綺麗だよ」


 「もお、〈タロ〉様。私を褒めて誤魔化そうとしているでしょう」


 そう言いながらも、〈アコ〉は頬を少し桃色にしている。満更でもないようだ。


 改めて思うけど、〈アコ〉は胸が大きい。部屋着の胸の部分の盛り上がりがすごい。

 盛り上がり過ぎて、おヘソの辺りで、下着の白いスリップが少し見えている。


 「心から、〈アコ〉を美人と思っているよ。疑うなら、僕の目を見てくれよ」


 「はいはい。〈タロ〉様、分かりました。けれど、褒められ過ぎるのも困るのです。

 勘違いしてしまいますわ」


 「信用無いな。まあ、良いか。立ってるのも何だし座ろうか」


 「そうですね。それから、夕食にサンドウィッチを作ってきました。

 お味の自信は無いのですが、後で食べて下さい。お茶もありますわ。二人でゆっくりしましょう」


 「わぉ、素晴らしい考えだ。〈アコ〉、ありがとう」


 これは良いぞ。店に食べに行かなくていいから、ゆっくり出来る。

 〈アコ〉とぎりぎりの時間まで過ごせるぞ。色んなことが出来るんだ。やったー。


 僕は、〈アコ〉の脇を両手で掴んで、〈アコ〉を持ち上げた。

 〈アコ〉は、少しふっくらとしているけど、所詮は女の子だ。案外軽い。


 「あっ、ちょっと待って。〈タロ〉様、何をするんですか」


 「〈アコ〉、嬉しいんだよ。嬉しさの表現さ。〈アコ〉を天に掲げるんだ」


 僕は腕を伸ばして、〈アコ〉を頭の上まで持ち上げた。


 〈アコ〉は足をバタバタさせて、大変元気に動いている。

 僕の直上にある〈アコ〉胸も、ボヨンボヨンと猛烈に動いている。

 恐ろしいほどの躍動だ。もっと見たい。もっと動け。


 「ヤー。ダメー。〈タロ〉様、くすぐったい。降ろしてー」


 僕は〈アコ〉を頭の上まで持ち上げたまま、その場で数回回った。


 「〈アコ〉、楽しいな。サンドウィッチが楽しみだ」


 「やっ。やっ。やだー。くすぐらないでー。回さないでー。

 〈タロ〉様、目が回ります。お願いー」


 良く見ると〈アコ〉は、ぐったりしている。胸も、ボヨンボヨンとは動いていない。


 「そうなのか。ごめん。降ろすよ」


 僕は〈アコ〉を降ろして、胸に抱きかかえた。


 「〈タロ〉様、酷いですわ。急に持ち上げるなんて。脇の下はくすぐったいのですよ」


 「ごめん。悪かったよ。くすぐったいとは、思わなかったんだよ」


 「昔、同じようにされている女の子を見て、羨ましいと思いましたけど、現実は違うのですね。

 こうして、〈タロ〉様に抱きしめられている方が百倍良いですわ。

 悪気は無かったのですから、怒っていないですよ。もう謝らないで下さい」


 「そうか。そうだ、お詫びに何でも言うことを聞くよ」


 〈アコ〉は僕の胸に抱かれながら、真剣に考えているようだ。

 眉間に少しシワが寄っているのが、何だか可愛い。


 「うーん、そうですね。

 それじゃ、〈タロ〉様が、私のことをどう思っているのかを聞きたいですわ」


 〈アコ〉は顔を桃色にしながら、恥ずかし気に聞いてきた。


 「どうって、許嫁だよ。僕の婚約者だよ」


 「そういうことでは、ありませんわ。〈タロ〉様の気持ちです」


 〈アコ〉の顔はもっと桃色に染まって、首まで桃色だ。

 そうか。そういうことか。ここでさっきことを、挽回しろということだな。

 僕は〈アコ〉の首の後ろに両手を回して、〈アコ〉の目をじっと見ながら言った。


 「僕は〈アコ〉が大好きだ。世の中で一番大切な女性だ。いつも一緒にいたいと思っているよ」


 「〈タロ〉様、私嬉しいです。私も〈タロ〉様が大好きです」


 〈アコ〉は「本当ですか」とは、聞かなかった。僕が真剣に言ったのが分かったのだろう。


 今この時は、本当に思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る