第118話 〈クルス〉にキス
「そうだな。早朝稽古を一緒にやっている騎士爵の子がいるよ。〈ロラマィエ〉って名前だ」
「早朝稽古ですか。凄いです。頑張っていらっしゃるんですね」
「〈リク〉が真面目過ぎるんだよ。困っているんだ」
「うふふ、〈リク〉さんらしいですね。お友達は一人だけですか」
「本を貸してくれる〈アル〉っていう男爵の子もいるよ」
「本は良いですね。どんな本なのですか」
「「《青燕》と《赤鳩》と《春息吹》」という題名で、臨場感がある描写で人生の示唆に溢れているんだ。学舎性活の経典と言える本なんだ。おまけに挿絵があって実用性的でもあるんだよ」
「良い本なのですね。私にも貸して下さいね」
「うーん、又貸しになるからな。〈クルス〉に貸すのは、たぶん〈アル〉がダメって言うと思う」
「そうですね。又貸しはあまり良くないですものね。他にはお友達はいないのですか」
「もう一人〈フラン〉っていう男爵の子がいるよ。
〈フラン〉はすごく可愛い顔をしているんだ。女の子と間違えたこともあるんだ」
「そんなに、可愛い人なのですか」
「〈クルス〉も見たら吃驚するよ。女の子以上に可愛いんだよ」
「そうですか。羨ましいですね。私も可愛ければ良かったのですが」
「ハハ。何言っているんだ。〈クルス〉の方が可愛いに決まっているだろう。
〈クルス〉は、王国で一番美人だし、薔薇の花のように綺麗だからな」
「もう、〈タロ〉様は、私を褒めすぎです。何度も言われると、少しだけ本気にしちゃいますよ」
〈クルス〉は、少し赤くなった顔を僕に近づけてきた。
そうか、もっと褒めてくれということか。
「それに〈クルス〉は、頭が良くて、おしとやかだし。すごい頑張り屋さんだよ」
あれ、一杯褒めたのに、〈クルス〉はあんまり喜んではいないぞ。
近づけていた顔を元に戻して、視線を落として自分の手を見ている。
「〈タロ〉様、王位継承者争の関係で何かありました。
確か、違う組に要注意の人がいるのですよね」
「今のところ何もないな。
質問とは少し外れるけど、違う組には、すごく偉いヤツがいるんだ。
そいつは、見てる方が気持ち悪くなるくらいの大量の汗を流しながらも走りで一番を目指すんだ。
異常な向上心があるんだな。
それに、皆の模範のため馬鹿みたいに同じ技を何度もするんだよ。
自分が恥をかいても、他人のことを優先する凄い人間だ」
「そんなに偉い人がいるんですね。お名前は何と言うのですか」
「違う組だから名前が分からないんだよ。
ところで、王位継承者争の関係で〈クルス〉方は何かあった」
「私の方も何もありません」
話し込んでいたら、遠くで鐘が鳴った。
「〈タロ〉様、触るのを止めて下さい。もう時間になりましたよ」
〈クルス〉と別れて、〈アコ〉を迎えに行く時間だ。早くいかないと〈アコ〉がむくれるぞ。
「そうか。もっと一緒にいたかったのに」
「私もです」
僕達は着替えをして、帰る準備をする。
「〈タロ〉様。しばらく逢えないのですね。私、寂しいです」
〈クルス〉が、部屋の扉の前で立ち止まって、僕を見詰めてきた。
そうか。そういうことだったのか。
僕は、髪の上から〈クルス〉耳を両手で抱えて、優しく〈クルス〉の身体を引き寄せた。
〈クルス〉は、「ぁぁ」って濡れたような声をあげたけど、僕の身体に、自分の身体を引っ付けてきた。
僕は〈クルス〉の目を見詰める。〈クルス〉の濃いブラウンの瞳は、僕を見ている。
少し顔を傾けて、〈クルス〉の唇に僕の唇を重ねた。「チュッ」と音が鳴る。
しばらく押し付けた後、唇を離して、〈クルス〉をもう一度見詰めた。
〈クルス〉は、「嬉しい」と言って、今度は自分からキスをしてきた。
また、「チュッ」と音が鳴った。
〈クルス〉は直ぐに唇を離して、僕を見詰めてきた。
「僕も嬉しいよ」と言って、〈クルス〉にまたキスをした。
今度は長く。〈クルス〉の唇を吸うように。「チュッ」と音が鳴る。
〈クルス〉は、「あん」って可愛い声を出した。
〈クルス〉の唇を離すと、〈クルス〉の顔は真っ赤になっている。でも、微笑んでいる。
「行こうか」と言って、二人で部屋の外に出た。
二階の部屋から店の入口までの短い時間も、〈クルス〉と手を絡まして階段を降りる。
店の出入り口の扉の鍵を開けた時、横で待っていた 〈クルス〉を横から抱いた。
〈クルス〉は、僕の方へ振り向いて、
「〈タロ〉様。急にどうしたの」という言葉を、〈クルス〉が言い終わらなうちに、〈クルス〉の唇を僕の唇で塞いだ。
〈クルス〉は、「んんんぅ」って声を出して、僕の唇から逃れるよう顔を動かす。
僕は、〈クルス〉の顔を逃がさないように手で押さえて、もう一度キスをした。
「もう、〈タロ〉様。急にされたら吃驚しますよ。まだ、胸がドキドキしています。
どうしたのですか」
「〈クルス〉としばらく逢えないからさ」
「そうですけど。強引にされると、私、心が揺さぶられます」
〈クルス〉は赤く染まった頬で、僕の腕を胸に抱いている。
胸の鼓動を鎮めているのかな。
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