第116話 胸じゃないよ。脇だよ

 「〈タロ〉様、もう良いですよ」


 くだらないことを考えているうちに、着替えが終わったようだ。


 「〈クルス〉は何を着ても似合うな。簡単な服だけど、とても美人だよ」


 「もう、〈タロ〉様。見境なく褒めますね」


 「心外だな。本当に美人と思っているよ。それより、一緒に座ろうよ」


 「〈タロ〉様、その前にもう一度ちゃんとお礼を言いたいです。

 大切なお母様の形見のドレスと、《紅王鳥》の髪飾りを頂いて、心の底から嬉しいです。

 ありがとうございます。一生大切にします」


 〈クルス〉は、僕の正面に立って、深々とお辞儀をしている。

 律儀だな。礼儀正しい良い子だ。でも、堅いな。

 僕は目の前にある〈クルス〉の頭を思わずポンポンと撫でた。


 「〈クルス〉は、お利口さんだな。

 だけど、そんなにかしこまらないで、もっと甘えたらいいのに」


 「「お利口さん」と言って、頭を撫でられている子を、昔、見たことがあります。

 実際に、今〈タロ〉様にされたら不思議な感じがしますね」


 「悪い。子供にすることだよな」


 「言い方が悪かったですね。勘違いしないで下さい。悪い気はしていませんよ。

 それと、私は、もう〈タロ〉様に十分甘えています」


 「そうかな」


 「学舎の費用も出して頂いていますし、制服も鞄も靴も、何もかも買って頂きました」


 「それは経済的な話だろ。

 精神的とか。心の部分でも、甘えて良いじゃないのか」


 「それも、形見のドレスと髪飾りを頂きました。

 お母様の形見を頂いた私が、どれほど感激しているか。

 髪飾りの羽は、〈タロ〉様が命を懸けて取ってこられたものです。

 私のことを、かけがえがない存在と思われている、証では無いのですか」


 「そうだよ。〈クルス〉は、僕の一番大切な人だよ。

 それはそうなんだけど、難しいな。

 僕が言いたい甘えは、どう言ったら良いんだろう」


 「私が一番なのですね。

 〈タロ〉様のおっしゃりたいことは、こういうことですか」


 〈クルス〉は、僕に近づいて、おでこを僕の頬に摺り寄せてきた。


 「それだよ、〈クルス〉」


 僕は、両手を背中に回して、〈クルス〉を強く抱き寄せた。


 〈クルス〉も僕の背中に手を回してきた。

 〈クルス〉の身体は、吃驚するくらいか弱いけど、ほんのり暖かくて柔らかい。


 今は薄い部屋着だから、柔らかい胸が当たっているが心地よい。

 林檎のような甘い匂いも立ち昇ってくる。〈クルス〉の匂いだ。


 「うふ、〈タロ〉様の謎かけに正解出来て良かったです。何か、正解のご褒美を頂けるのですか」


 〈クルス〉は、悪戯っぽく微笑んで、僕の方へ顔を向けてきた。

 僕と〈クルス〉は、一呼吸の間見つめ合う。


 〈クルス〉の頬は、ほんのり赤くなっている。

 僕は、〈クルス〉の薄い唇にキスをした。


 〈クルス〉唇は、薄いけど弾力もあって、やっぱりプリッと柔らかい。

 〈クルス〉の唇に唇を押し付けたあと、ずらしながら、〈クルス〉の上唇を挟んで軽く吸ってみた。

 〈クルス〉は、「あん」と甘えたような声を出して、もっと強く抱き着いてきた。

 またずらして、今度は〈クルス〉の下唇を挟んで軽く吸ってみる。


 〈クルス〉は、時々「あっ」って言いながらも、目を固く閉じている。


 しばらく、上と下の唇を交互に吸っていると、〈クルス〉は、回していた手を外して、僕の胸を軽く押した。


 僕が唇を離すと

 「あぁん。〈タロ〉様、ご褒美は十分です。もう息が続きません」

 と上気した赤い顔で呟いた。


 「そうなの。少し息が苦しそうだな。椅子に座ろうか」


 ソファーに並んで座ると、〈クルス〉は身体をピッタリ引っ付けてきた。

 僕は、〈クルス〉の脇の下に手を差し込んで、〈クルス〉の胴を抱いている状態だ。


 少しだけなら怒らないだろう。


 〈クルス〉の右胸に手を持っていって、サワサワと触ってみる。

 〈アコ〉より、一回り以上小さな胸なので、僕の掌にすっぽり収まる。

 まるで、僕の手に誂えたような胸だ。


 以前よりも大きくなっている気もする。嬉しいな。

 プニュっと柔らかい。プルンプルンしている。楽しいな。


 「あっ、もう、〈タロ〉様。ダメです。胸を触らないで」


 〈クルス〉は、これ以上触らせないように、僕の腕を握ってきた。


 「少しだけ良いだろう」


 「でも恥ずかしいです。私のは小さいです」


 「小さくなんか無いよ。丁度良い大きさだよ。

 ほら、〈クルス〉の胸は僕の掌にピッタリだよ。僕のためにある胸なんだよ」


 「〈タロ〉様、そんなことを言って、胸を鷲掴みしないで下さい。

 私の胸は〈タロ〉様のものですけど、お願いです、今は無理です」


 〈クルス〉が、少し涙目になってきた。


 「それじゃ、胸の周りなら良いかな。豊胸効果もあるらしいよ」


 「豊胸効果。本当なのですか。それは、周りなら良いですけど」


 僕は、部屋着の裾に手を入れて、〈クルス〉の横乳を触り出した。

 脇の下と乳房の間部分を、下からゆっくりと押すようにした。


 「キャー。〈タロ〉様。服の中に手を入れるなんて聞いていませんよ。

 少しくすぐったいですし、そこは胸ですよ」


 「いや、胸じゃないよ。脇だよ」


 「本人が言っているんですよ」


 「〈クルス〉の胸のことは僕の方が分かっている」


 「もう、〈タロ〉様。何言っているんですか。もう、そこから上は絶対ダメですからね。

 下着の上からだけですからね。分かりました」


 「はーい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る