第115話 〈クルス〉が部屋着に着替えたら
昼食も終わったので、〈南国茶店〉に行こう。二階にいくぞ。
〈南国茶店〉は、準備不足なため、開店を伸ばすことにした。
開店が伸びたのはどうでも良いが、〈南国茶店〉に行く大義名分が著しく弱くなった。これは困る。
それで、今回は〈リク〉を早く解放してあげるために、早いうちに学舎町へ帰るということにした。
理由は、母親の引っ越しの手伝いのためだ。すごく正当だな。文句のつけようが無い。
一方、〈南国茶店〉に入る理由は、難しい。開店していないからな。
文句のつけようが無い理由は思いつかなかった。どう理由を付けて、二人を連れて行こう。
門で〈リク〉と別れて、楠広場まで行くと〈アコ〉が、
「今日の午後の前半は、〈クルス〉ちゃんが〈タロ〉様と過ごします。
後半は私と過ごすことになりました。必ず迎えに来て下さいね」
と言い出した。
こんな大切なことを自分達だけで決めるとは。伯爵様は大いに許すぞ。
腹の下から有難い。下は下品だ、底だった。
「午後の半分、寮にいるのは問題ないの。一人で寂しくは無いの」
「えぇ、問題ありませんわ。今は一日寮にいる子もいます。
入学当時ほど買い揃える物がありませんから」
「今の《赤鳩》は、半分くらいの人が、ずっと寮にいるみたいです。
一日外に出かけている人は少なくて、出ても半日らしいです」
「舞踏会とかの買い物はどうしているの」
「午前中で済ますか。一回で沢山買っているのか。
王都に家がある子は、家から持ってくる場合もあるみたいですわ」
「《赤鳩》の場合は、護衛を雇ったり、配下の人に護衛として付いてもらうのも、家の負担になりますので、外に出る回数は少なくなるようです。
お金持ちの家は違うと思いますが」
そうだったのか。
休養日は毎回一日中外へ出ていたから、《黒鷲》の状況すら分からない。
そんなに外出しなくてもよかったのか、買い物の回数も、もっと少なくてよかったのか。
そうとは知らなかった。
「こほん、〈タロ〉様。頻繁に外へ出すぎている。
買い物をし過ぎていると、万が一思っておられたら、それは違いますからね。
私達は、同学年で婚約者という特別な関係でしょう。
他の学舎生の方とは、大きく事情が異なっておりますわ」
「そうですよ。〈タロ〉様も私達と一緒にいたいでしょう」
「〈タロ〉様と、もっとお話をしていたいと、思うのは止められませんわ」
「分かったよ。僕も一緒にいたいし、話もしたいよ」
「うふ、良かったですわ。さすが〈タロ〉様です。今までどうりですね」
「ふふ、これからも〈タロ〉様と一緒にいられる時間が、長くもてて嬉しいです」
二人は満面の笑みを浮かべて、喜んでいるようだ。
何かおかしい。
僕は休養日に二人と外出しないとは一言も言っていない。言うはずが無い。
それなのに、僕が休養日に二人と外出したく無いと言ったようになってしまった。
どこでこうなった。
「買い物をし過ぎている」と言う言葉に鍵があるようだ。
二人はいつ示し合わせたんだ。
午後を前半と後半に分けるのも、どういう意図で言っているのだろう。
不思議ではない気もするが、気になるな。
「さあ、〈タロ〉様。問題は解決しましたので行きましょう」
〈クルス〉が元気よく僕を促す。行先は〈南国茶店〉の方だ。
展開が上手く行き過ぎて怖い。
店の鍵を開けて、意気揚々と〈クルス〉と二階へ向かう。
店に入るなり、〈クルス〉と手を繋いだ。
〈クルス〉は嫌がらずに握り返してきた。大変順調だ。
部屋に入って暖炉の火を点けた。
もう暖かくなってきているが、薄着になるからだ。
寒いから着替えませんと言われたら、辛い。すごく悲しい。
「僕も着替えるから、〈クルス〉も部屋着に着替えてよ。座ると制服が皺になるだろう」
「そうですね。分かりました」
僕はテキパキと早速部屋着に着替えた。
〈クルス〉に着替えない選択肢を与えないためだ。
部屋着は、ベージュ色に近い、木綿の生成の色だ。
素朴な風情があって、これはこれで良いぞ。結構だぶだぶで、すごくゆったりとしている。
色んな所の隙間から、手が突っ込めるぞ。ガハハハハ。
上下に分かれていて、ズボンは紐で結ぶようだ。この世界にはゴムは無いんだろうな。
〈クルス〉のは、ちらっと見たところ、膝丈のスカートだった。
「どうしたの。〈クルス〉は着替えないの」
「〈タロ〉様、向こうを向いてて下さい。この間一杯見たでしょう」
何回でも見たいんだよ、〈クルス〉。でも時間は限られているんだ。
最初からごねて、無駄に時間を潰すわけにはいかない。
「分かったよ。窓の外を見ているよ」
窓の外を見ると、《青燕》が多い、その次は《赤鳩》だ。人数の関係で当然だな。
皆、目的を持って歩いているんだろうな。ここから見る動きでは、読み取れない。
背中の方から、シュルシュルと〈クルス〉が、制服を脱ぐ衣擦れの音がする。
女の子が、服を脱ぐ音は感情をざわつかせる。気持ちが浮き上がっていくような独特な感じだ。
今振り返ったら、〈クルス〉はどうするかな。試したい気持ちもある。
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