第104話 下が丸く四つ膨れている

 〈アコ〉と〈クルス〉は、椅子から腰を浮かして、食入るように見本の鞄を見ている。

 中腰になっているから、お尻が付き出されて、柔らかそうな丸を二つ作っているぞ。


 腰から下に丸く膨れている形が可愛いな。二人合わせて可愛いのが四つだ。

 〈クルス〉は、プリッと小振りで、〈アコ〉は、ブルンと大きい。


 胸も良いけど、お尻も触らない手は無いな。お尻と胸の触り心地は、どう違うんだろう。

 お尻と胸を同時に触ったら、〈アコ〉と〈クルス〉はどうするだろう。ムフフフ。

 楽しい妄想は、止まらないな。


 お尻(ただし、制服に隠された)を見ていたら、二人が後ろを振り返って、こっちへ来いとの、視線をまた送ってきた。


 はいはい、今参ります、僕は二人のお尻の直前まで接近させて頂いた。

 いっそのこと、今、触ってしまおうか。

 〈アコ〉が右手で、〈クルス〉が左手だ。後、十センチ手を動かせば届くぞ。


 「〈タロ〉様、鞄の形がどうしても、ピンとこないの。何か案は無いですか」


 まあ、良いか。この後にもチャンスはあるんだ。グフフフフ。 


 「うーん。そうだな。下が丸く四つ膨れている形が可愛いんじゃないかな」


 「えっ、下に丸く四つ、ですか。よく分からないですわ」


 「おまけに、膨れているのですね」


 「おー、伯爵様、画期的な形かもしれません。言われたのは、今まで全くない形の気がします。

 紙に書いてみますね」


 紙におばちゃんが、鞄の案をスラスラ書いていく。

 商売だけに上手いこと書くな。


 「伯爵様、これは良いですよ。

 丸くて柔らかい感じが、お嬢様方の瑞々しさを引き出しますよ」


 「本当だ。形が可愛いですわ」


 「優しい鞄になりそうですね」


 おばちゃんの鞄の案は、僕が思ってた、お尻の丸が四つとは、少し違うものだ。

 でも、言わないでおこう。せっかく、話がまとまりかけているんだから。


〈アコ〉と〈クルス〉が、「感性が良い」「すごい」と尊敬の目で見て来る。

 忍耐が良かったのか。

 僕の心は晴やかだ。


 鞄屋のおっちゃんは、眼を細めただけで、何も語らない。


 おばちゃんと〈アコ〉と〈クルス〉は、鞄の案を見ながら、ああだこうだ、そうだあれだと話が止まらそうにない。

 僕の心は曇ってきた。


 それから、小一時間かかって、やっと鞄の詳細が決まった。

 試着の手間が無い分、服よりは早かったかも知れない。まだましだと思っておこう。


 鞄屋のおっちゃんと、おばちゃんに、丁寧に見送られて店を出た。

 二人とも、嬉しそうに微笑んでいる。


 おばちゃんは、五月蠅いくらいにお礼を言っている。

 おっちゃんは、やっぱり無言だ。


 〈アコ〉と〈クルス〉も、思っていた以上に良い鞄が出来そうなので、少し興奮気味にはしゃいでいる。

 皆、笑顔だ。これで良かったのだろう。


 〈アコ〉と〈クルス〉が、おばちゃんから聞いた話では。

 この店は、老舗の鞄屋で長年働いて溜めたお金で、独立開業したようだ。

 今でも、老舗の手伝いを頻繁にしている。だから、品質は確かだと力説していたらしい。

 手伝いと言うと聞こえは良いが、ようは下請けだな。

 我が裏通り商店街は、こんなのばっかりだ。


 お次は、僕のリュートを買いに行く。


 〈ヨヨ〉先生に、お願いされたら、買うしかないだろう。当たり前だ。

 裏通り商店街では、さすがに楽器まで売ってないので、表通りの店に入った。


 色んな楽器が陳列されているし、リュートも数本置いてある。

 その中に、一際目を引くリュートがあった。運命の出会いだ。


 胴が、女性のボディの型をしている。〈ヨヨ〉先生の胸とお尻が、リュートだ。

 ようは、ひょうたん型をしているってことだが。


 これを買うしかない。毎日、撫でまわすしかないだろう。頬ずりしても良いかも知れないな。


 喜び勇んでお金を払うと、思った以上に安い。滅多にない、変な形なので売れ残っていたらしい。


 「よく買って下さいました」と店員さんに感謝されたよ。

 これを買って、本当に良かったのか。


 〈アコ〉と〈クルス〉は、「見たことも無い、変った形ですね。くびれてますね」と、何か疑わしげな言い方だ。

 なんて鋭いんだ。〈ヨヨ〉先生のボディの型だから買ったのが、何故分かる。

 二人とも超能力者かよ。


 リュートを店に置きに帰って、昼食を食べたら、新しい店を見に行こう。


 「〈シーチラ〉、ご苦労様。準備は順調かい」


 「あっ、ご領主様、いつもお世話になっております。順調です。

 十日後には、店を開けられると思います」


 「そうか。そうか。良く頑張ったな」


 「いいえ。たいしたことは、していませんよ」


 「いや、頑張ったよ。ちょっと、店の中を見るよ」


 「分かりました」


 新しい店は、学舎町の左隅にある三階建ての細長い建物だ。

 一階を改修して、茶店に模様替えを行った。


 普通じゃ流行らないと思って、個室っぽいレイアウトにした。

 一方は壁で、二方は背の高い衝立で囲っている。

 三方は囲まれて、一方だけ開放されている造りだ。


 一方だけは開けておくのは、給仕が大変なのと、十八禁なことをするヤツが出てきたら、マズイからだ。

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