第101話 バナナはフフフフ

 今日はまず、〈華咲服店〉に〈アコ〉の外套を取りに行くのが最初の用事だ。


 店主の〈ベート〉の髪型は、前と一緒だけど、今日は真っ赤なバレッタで結った髪を止めている。

 服はギンガムチェックのワンピースで、ミモレ丈に変わっていた。


 丈がふくらはぎまであるので、そこは大人しいのだが、ワンピースの胸元に涙型の窓があって、胸の谷間を大胆に見せている。

 〈ベート〉の胸は普通の大きさだが、涙型の窓から見える谷間が、やけに煽情的だ。


 〈アコ〉と〈クルス〉が、僕の両側で、猫みたいに「フー」って威嚇している感じになっている。

 〈ベート〉が、僕を誘惑しようとしていると、思っているのだろう。

 困ったもんだ。


 「伯爵様、お早うございます。今日も一段と凛々しいお顔ですね。

 お嬢様の外套はもう仕上がっていますよ」


 凛々しいときたか。


 〈アコ〉は、早速、出来上がった外套を嬉しそうに着て、自分の目で確かめている。


 「〈タロ〉様、どうですか。似合っていますか」


 「〈アコ〉、良く似合っているよ。まるで雪のお姫様のようだ」


 「まあ、〈タロ〉様。雪のお姫様ですか。いやですわ。お姫様は言い過ぎです」


 自分ではそう言っているが、満更でも無いようだ。

 言っても無いのに、クルっと回って、〈クルス〉にも「とっても可愛い」と褒められて、ご満悦だ。


 顔がニマニマとにやけている。

 溜まっていた、ストレスは消え失せたようで、良かったよ。


 「それと、部屋着を頼みたいんだけど、良いかい」


 「部屋着ですか、伯爵様」


 「そうだよ。軽くて過ごしやすいやつだ。

 ダブってしてて、腕も脚も首も腰も、締め付けない。ゆるゆるのが良いな」


 「なるほど。ゆるゆるの部屋着ですか、確かに楽そうですね」


 「三人分を作ってくれよ」


 「分かりました。簡単に作れそうな服です。

 十日後には、確実に出来上がっていますよ」


 制服が皺になると言われて、手を動かせないのを防ぐための秘密兵器だ。

 兵器ではないな、秘密装備だ。


 〈ベート〉に外套のお金を払うと、

 「お買い上げ、おありがとうございます」

 といつもと同じく深々と頭を下げてお辞儀をする。


 見えないところでは、チョロい客で儲かったと、舌なめずりをして笑っているのが透けているぜ。


 店の外に出ようとして、思い出した。


 「前に頼んでいた古着はどうなった」


 「そうでした。そうでした。かなり集まってきましたよ。

 今は倉庫に預かってもらっています。どうしたら良いですか」


 「そうか。ありがとう。今ある分を 〈南国果物店〉に運んでおいてくれないか」


 「分かりました。お任せ下さい」


 この古着分のお金を払っても、〈ベート〉は、深々とはお辞儀をしなかった。

 金額が安かったからな。


 お金の大小で、お辞儀の角度が変わるのか、〈ベート〉よ。

 商人として、それで良いのか。貧乏がこうさせてしまったのか。


 次に〈南国果物店〉にも寄って、三人とも着替えを済ませた。

 〈アコ〉は着替えを持ってきたようだ。

 買ったばかりの外套も、ここに置いていくようだ。


 「汚したら、一生後悔します」と大げさことを言っている。


 さすがに、一生は無いだろう、店で何度でも買えるのに。

 けど、目が真剣なので、何も言わないでおこう。


 それだけ、嬉しかったんだと、思っておこう。

 触らぬ神に祟りなしって言うからな。後で身体は触るけど。


 古着のことは、〈カリナ〉に頼むしかないな。

 次に「深遠の面影号」が、蜜柑とイモを運んできた時に、《ラング》の町に持ち帰るよう頼んでおいた。


 帰路が空荷じゃ勿体無いので、《ラング》や《タラハ》の町で、古着を売ろうというビジネスだ。

 往路の荷でも、帰路の荷でも利益が出る、のこぎり商売をすることにした。


 少し儲けを増やさないと、戦勲で貰った褒賞金も目減りする一方だからな。

 新しい店の改修費や〈アコ〉と〈クルス〉の服代でも、結構使った。


 王都の最先端ファッションだと触れ込めば、まあまあ売れるだろうとの獲らぬ狸だ。


 それと、〈カリナ〉とは、春に売る南国果物の最終調整だ。

 前から、検討していたが、本日結論を出した。

 検討、協議ばかりでは前に進まない。神輿を上げて、前進、直進、行進だ。


 そんなに高級な物では無く、大量に収穫されるものを候補にあげていた。

 高級な物は、腐ったり傷ついたりして、破棄となった場合のリスクが大きすぎるためだ。

 〈南国果物店〉の規模では、このリスクを吸収しきれない。

 高すぎて、売れない恐れもある。


 大量に収穫されるものを選定するのは、やはり王都は人口が段違いに多いのと。

 リピーターを作るためにも、売り切れました、再入荷もしませんとは言いたくないためだ。

 客の期待を裏切れば、信用を無くしてしまう。

 商売は信用第一と相場が決まっている。


 結果、ライチとバナナを販売することにした。

 当然、メインはバナナだ。


 栄養価が高くて、カロリーは低い、栄養補助食品として優秀だと思う。

 おまけに、美容効果も高くて、ストレスも軽減してくれるらしい。


 ただ、食べ過ぎると、尿路結石や高カリウム血症を発症する可能性が高まるので、注意が必要だ。

 尿路結石は、大事なあそこに、角がある1cmもある石が詰まるという、想像を絶する激痛を引き起こす病気だ。


 考えただけで、あそこがギリガリ痛い。

 〈アコ〉〈クルス〉、今直ぐに、あそこをさすってくれ。


 くれぐれも、食べ過ぎないようにしよう。


 店では、栄養価が高いが、太りもしないし、美容効果もある、素晴らしい果物と売り出す予定だ。

 幸せの黄色で、食べるのが手軽なバナナは、ふふふふふ、売れるぞ。


 悪い部分は言わないが、食べ過ぎるほど安い値段では売らないので、問題になることは無いはずだ。グフフフフフ。


 船で運ぶ関係で青いまま収穫して、輸送する計画にいている。


 追熟が必要なのがネックだが、船倉の中で炭を焚くことで解決出来そうだ。

 船倉の中を酸欠状態にして、エチレンガスを発生させる手筈となっている。


 輸送と追熟を同時に行う。二兎を追う者は一兎をも得ずだ。

 あっ、これじゃ拙いな。一石二鳥だ。

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