第97話 選抜メンバー 

 〈ヨヨ〉先生も来るのか、後ろめたいことなど何もないから問題ないはず。

 後ろに当たっていただけのことだよ。不可抗力だ。


 良かった。〈クルス〉を呼べるのは正直有難い。

 何回も、〈クルス〉とも踊りの練習をしたんだ。


 〈アコ〉だけと、舞踏会で踊るのは、不公平な気がする。

 踊れなかったら、〈クルス〉は、きっとすねて泣いちゃうぞ。


 毎朝の稽古をこなしながら、「政務科」と「軍務科」の授業が続く毎日だ。

 両方とも面白みのない授業だ。

 まあ、授業が面白かったら、それは授業じゃない。

 糞詰まるのが正しい授業だ。間違った。くそつまらないだ。


 「商務科」の授業は、たまに入ってくるが、〈ヨヨ〉先生の「楽奏科」の授業はまだ先だ。

 「楽奏科」の前に、「武体術」の授業があったな。


 「学舎生の諸君、今までは身体作りと体力をつける教程だったが、今日からは、剣術の鍛錬も並行して行う。

 近衛や軍を目指している者は、精進して頑張るように。

 官僚を目指している者は、それなりに頑張ってくれ」


 模擬刀を持ってこいとの指示だったから、分かってはいたが、改めて聞く「鍛錬」は嫌な言葉だな。

 官僚希望は、適当で良いのか。領主はどっちなんだろう。適当だよな。


 「はい。先生、了解しました」


 皆、素直な良い返事だ。やっぱり、頭が良くて卒が無い優等生が多いんだろう。


 「それと、学期末に、一組と二組で対抗戦をするので、知っておいてくれ。

 五人の選抜戦で、古くからの慣習で公開試合になっている。

 他の学舎を初め皆が見に来るから、無様な試合にならないようにしてくれよ」


 一つの組が八人しかいなくて、選抜が五人というと、相当危ない確率でメンバーに選ばれるぞ。

 無様な試合をして、皆に笑われたら嫌だから、メンバーには選ばれたくないな。

 他の学舎も来るのか、来なくていいのに。


 〈アコ〉と〈クルス〉に、かっこ悪いところを見られたら、エッチなことがやり難くなるぞ。

 死活問題だよ。


 先生の掛け声で、まず素振りが始まった。

 我が二組の連中はどんな様子だ。


 〈ロラマィエ〉は、早朝稽古で、中々技量があるのは分かっている。

 素振りも、堂に入って気合の乗った、模範的な動きだ。

 こいつは選抜メンバーの有力候補だな。いや、もう決まりだ。


 〈アル〉はどうだ。一応形にはなっているが、素早さも力強さも、もう一つだ。

 こいつは、残念ながら選抜メンバーには厳しいか。


 〈フラン〉はどうだ。

 ありゃ、模擬刀を振っているというより、模擬刀に振られているぞ。

 素振りをしたことは無いだろうが、〈サトミ〉にやらしたら、たぶん〈サトミ〉の方が大部上手だと思う。運動神経が良いからな。


 〈フラン〉は、とても運動神経が良いとは言えないな。

 こいつの選抜メンバー入りは論外だ。


 後四人も、〈フラン〉よりはましだけど、そう変わらないぞ。

 体幹の力が弱いのか、模擬刀がブレまくりだ。真っすぐ振れていない。

 勉強ばかりして、鍛錬なんてしたことがないんだろう。羨ましいぞ。

 「それなりに頑張る」人達なんだな。


 だが、まずいぞ。これじゃ、僕が選抜メンバー入りしてしまう。


 「先生、先の戦争の英雄がおられるので、剣術の模範を見たいのですが、いかがでしょうか」


 「おっ、英雄の剣術か。どういうふうな形で、見せてもらうんだ」


 「不祥、わたくしめが、模範試合のお相手を務めさせ頂きます」


 「面白そうだな。やってもらおうか。皆の良い参考にもなるだろう」


 「おお、先生。ありがとうございます」


 あれ、なんか先生と「先頭のガタイの良いやつ」が話しているが、ここには〈リク〉はいないよ。

 今から呼びに行っても、授業時間内には間に合わないぞ。

 二人とも、バカじゃないか。


 「それじゃ悪いけど、〈タロスィト〉君、皆に模範剣術を見せてくれないか。

 頼むよ」


 「〈タロスィト〉君、僕が相手をするから、お手柔らかにな。ふふっ」


 あれ、僕なの。

 勲章は貰ったけど、僕のは、個人の武力で貰ったんじゃないよ。

 軍の指揮で貰ったんだよ。


 個人の武力で貰ったには、〈リク〉だよ。

 二人とも、間違っているよ。バカなの。


 「凄い。英雄の剣術が見られるぞ」


 と、他の生徒からは、次々に歓声が上がって大盛り上がり状態になってしまっている


 〈フラン〉と〈アル〉まで、「やった」と大きな声を上げている。

 どうせ、皆、僕を犠牲にしてでも、疲れる鍛錬をさぼりたいんだろう。そうに決まっている。


 あああ、この大盛り上がり状態の雰囲気では、何かしないと収まらないんだろうな。

 「先頭のガタイの良いやつ」は、自分から試合がしたいとは、どういう頭の構造なんだ。


 一人ボッチの可哀そうな、僕。

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