第94話 本を題名で買う

 話している間に、本屋さんに着いた。


 ここの本屋は、勉強の本というより、娯楽の本が中心の品揃えになっている。

 子供の絵本から、大人向けの少しエッチな絵物語まであるようだ。


 「〈アコ〉はどんな本を買うんだ」


 「〈タロ〉様には、言いません。秘密です」


 「えっ、秘密なの」


 「女の子の本ですから、言いたくありません」


 「〈クルス〉は」


 「〈タロ〉様、すみませんが私も秘密です」


 「なっ、〈クルス〉もなの」


 「〈タロ〉様は、向こう側の棚に行ってください。この辺りは女性向けですわ」


 「〈タロ〉様が、そこにおられると買えませんので、お願いします」


 なんなんだよ。エッチな本を買うつもりだな。欲求不満か、いやらしい。

 仕方が無い、僕もエッチな本を少し仕入れておこう。


 じっくり立ち読みが出来る雰囲気でもないので、題名で買うとするか。


 「春息吹の風のいたずら」「赤鳩の血はにじんでいた」「白鶴の股間のしみ」か、どれも趣のあるファンタスティックな題名だ。

 どの本が良いか迷ってしまうな。


 「緑農学苑の羞恥な獣」というのも、興味深い題名だな。

 しかし、この本は、一部のマニア向けの感じもする。危険な匂いがプンプンするぞ。


 「青燕の生毛は汗まみれ」、なんだこの本は、どこの誰がこんなの買うんだよ。


 金はあるんだ。全部買ってしまえ。

 ただし、「汗まみれ」は除くだ。


 〈アコ〉と〈クルス〉がいないうちに、素早く買うことが出来た。

 二人が言うように、親しい人が傍にいると、エッチな本が買えないのは理解した。


 〈アコ〉と〈クルス〉の方も、もう一か所ある勘定場で、素早く支払いを済ませたようだ。

 二人とも数冊の本を買っているようだな。


 「二人とも良い本があったかい」


 「えぇ、ありましたわ。前から欲しかったのがありました」


 「私も、良さげな本がありました。これで、同室の子にも貸せます」


 「おっ、同室の子と本の貸し借りするのか」


 「そうですよ。それで仲良くなるのです。

 選んだ本で、性格もある程度分かりますからね」


 そうか、〈クルス〉は、そうやって仲良くなろうとしているのか。

 《赤鳩》で、連綿と続く慣わしなのかも知れないな。

 寮生活を円滑にする、深くて効果的な知恵なんだろう。


 「〈クルス〉、もっと本を買わなくても良いのか」


 「これで十分です。あまり買っても置く場所に困ります。回し終えたらまた買いますよ」


 〈アコ〉は、まあ、社交性に問題が無いが、〈クルス〉は心配だから、つい確認してしまう。

 〈クルス〉だけに言ったからか、〈アコ〉が少し拗ねているような素振りを見せてくる。

 私には、どうして言ってくれないのという、少し淋し気な顔だ。


 早くも夕方になってしまったので、もう夕ご飯の時間だ。

 夕ご飯を食べたら、学舎へ帰らなくてはいけない。

 二人とも、十日間のお別れだ。非常に悲しい。


 昼食が遅かったので、あまり食欲もない。

 軽くつまめるような食事ということで、点心に近い形態の店を選んだ。

 僕達が残しても、〈リク〉が全て処理してくれるだろう。


 流行っている店で、店内は混んでいたが、一つだけ空いていたボックス席に陣取ることが出来た。

 ただ、狭い。〈リク〉の身体の幅が大きい。


 僕と〈アコ〉と〈クルス〉は、密着状態だ。

〈アコ〉と〈クルス〉が、〈リク〉とは距離をとっていることも影響している。


 だけど、そんな、〈アコ〉と〈クルス〉の態度がやけに嬉しい。

 僕と引っ付くのは全く嫌がっていない。

 むしろ、進んで密着してきているんじゃないか。


 色んな種類の餡を小麦の皮で包んで蒸した料理の、お任せコースを注文した。

 大きさは一口サイズで、餡には甘いものもあり女性に大人気のお店のようだ。


 テーブルの上一面に、四人分のコース料理が並べられた。

 配膳の手間を省いて、コース料理を一回で持ってこられるように、広いテーブルを使っているようだ。


 そのため、テーブルと椅子の間がかなり狭い。

 〈リク〉は身体が厚いから、相当窮屈そうだ。


 流行っている店が、コース料理を複数回に分けて配膳するのは、手間と時間の面でとても出来ないんだろう。


 「頂きます」と言って、まず僕が、大きなレンゲのようなスプーンで、小龍包みたいなのをすくって食べ始めた。


 「熱い」。中のスープが熱くて口の中を火傷しそうだ。

 慌てて僕は、口を開けて息をハウハウとして、冷ますのに必死になった。


 熱すぎる。舌が少し火傷みたいなったぞ。

 口を開けたから、スープが涎のように滴り落ちてしまってもいる。


 「もう、〈タロ〉様は、小さな子供のようにこぼして」


 と言って、〈アコ〉がハンカチを取り出して口元を拭いてくれた。


 こんな時は、〈アコ〉の方が〈クルス〉より早い。

 〈アコ〉は、僕の保護者的な感情を持っているようだ。

 胸もお尻も大きいから、母性も大きいのかも知れない。


 右手はレンゲを持っているから、〈アコ〉は左手で拭いてくれた。

 そうすると、右側のメロンおっぱいが、僕の左手に押し付けられる。


 相変わらずムニュっと柔らかい。幸せの感触だった。

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