第66話 胸の高鳴り
「この部屋は、詩歌を創作する集まりに、使っている部屋なのです。もう直ぐ、集まりが始まりますので、時間はあまりありません」
「そうか、〈アコ〉分かったよ」
「〈タロ〉様、ずっとお待ちしていました。お会い出来てとても嬉しいんです。
私の胸はこんなに高鳴っていますわ」
と言って、〈アコ〉は、僕の右手を取り、自分の胸にそっと沿わした。
僕は、エッって思ったけど、感心なことに声には出さず、〈アコ〉の胸の感触を確かめる。
〈アコ〉の胸は、やっぱり柔らかい。
掌全体が埋没しそうだ。
フニュっとした感触に右手が震える。
ただ、〈アコ〉の胸の高鳴りは、僕の手には感じられない。
胸が大きいから、脂肪が厚いんだと思う。
手の位置を変えなければならない。
胸の上の方に有った掌を滑らして、〈アコ〉胸の頂点の方までずらした。
でも、高鳴りは聞こえない。
冬服で生地が厚いから、残念ながら、尖がりも全然分からない。
でも、柔らかくて暖かくて、気持ちが良い。
「もう、〈タロ〉様は」
と言って、〈アコ〉が顔を桃色に染めて、僕を睨む。
「いや、高鳴りを感じようとしただけなんだよ」
「ダメです。時間が無いって言いましたよね」
と、僕の手を取って、自分のウエストの方へ持って行ってしまった。
「〈タロ〉様」
と言って、〈アコ〉は僕の腰に手を回して、上目遣いで顔を見詰めてきた。
僕は、〈アコ〉を両手で軽く抱き寄せて、〈アコ〉の唇にキスをした。
〈アコ〉の唇も柔らかくて、しっとりと濡れているようだった。
何かの花の香りのような〈アコ〉の匂いがした。
直ぐに〈アコ〉は、すっーと、僕の腕から抜け出して、廊下の様子を窺っている。
帰りも、無言の〈アコ〉の手に引かれ、部屋に帰り着いた。
ストレスが大幅に軽減されたので、この後は、楽しく会話をすることが出来たよ。
〈ハヅ〉が何とかならないものかな。
一晩寝たら良いことを考えついた。
良く考えなくても、騎士の〈リィクラ〉を遊ばさせておくのは、勿体無いということだ。
雇ったのだから、騎士の〈リィクラ〉に護衛をさせれば良いんだよ。
恩を感じているだろうし、少し位の我がままは、普通に通るだろう。
〈ハヅ〉に話したら、
「それはそうですね。なぜ気がつかなかったのだろう」
と言って、首を捻っていた。
ハッ、顔は良いけど、頭がそれほどでは無いからだよ。
早速、「南国果物店」に出発だ。
「南国果物店」は店の名前だ。
今、ピカッと思いついた。
何の捻りもなく、ズバンと一発真向直球蜜柑勝負だ。
想像で蜜柑を投げたら、ピシャとして、宿代の節約方法も思い出した。
今日は冴えに冴えて、冴えわたっているぞ。
「南国果物店」では、〈カリナ〉と〈リィクラ〉が、引っ越しの準備を汗を垂らして頑張っていた。
「おーい、精が出るな」
「ご領主様、お早うございます」
〈リィクラ〉が丁寧に頭を下げて挨拶してくる。
「ご領主様、お早うございます。
でも、変なことを言わないで下さい。
先日も言いましたが、同棲するではありません」
「〈カリナ〉、何か勘違いしてるじゃないか。この「精」は元気って言う意味合いだよ。
あっちじゃないよ」
困ったものだ。
僕と違って、あっちの事しか頭に無いようだな。
「ご領主様、すみません。早とちりで、本当に恥ずかしいです。穴があったら入りたいです」
また、微妙な。
〈カリナ〉は、平身低頭謝っているが、顔が真っ赤で目が泳いでいる。
〈リィクラ〉に、護衛の話をすると、
「ご領主様、誠にありがとうございます。新参者の私に近衛の役割を与えて頂くとは、死に物狂いで務めさせて頂きます」
と大感激していた。
続いて、奥の屋敷で、僕達も住むことを伝えても、「お手伝いカップル」改め「同棲カップル」は、
「ご領主様と一緒なんて恐れ多いです」
とは言うが、二人の仲を邪魔するなっていう感じじゃなかった。
本当に何もしないつもりか。同棲じゃないと言うのは本気なのか。
いい年をして、あきれたもんだ。開いた口が塞がらないよ。
僕達の家具や寝具の手配も一緒に頼んだので、明日の夜からは、ここで生活できるようだ。
明日は、〈リィクラ〉の護衛適性の確認と下見を兼ねて、入学予定の学校に行こう。
一応〈ハズ〉も護衛に付いてくる。
一緒に試験を受ける許嫁達に、道に迷うようなみっともない姿は、見せたくないからな。
王宮の南東側、官庁街に隣接して、学校が建っている。
学校は、貴族対象と平民対象が、それぞれ男女別にあるから、つごう四校存在しているようだ。
この四校を大きな壁で囲った、学園都市の体に造られている。
学園都市までの規模じゃ無く、学舎だから、学舎町か。
延々と続く黄色の高い壁の切れ目に、大きな門が開いているのが見えた。
門の左右には、英明を司る霊鳥ガルダが刻み込まれた、十mはある円柱が聳え立っているのが、象徴的だ。
いかにも、学び舎らしい門構と言える。
〈ハズ〉も「妹に聞いてはいましたが、凄いですね」と驚嘆して、目を白黒させているぞ。
門を入ろうとすると、門番の衛士に、身分を示すものの提示を求められた。
あっ、貴族章を思いっきり忘れたと、その場で固まっていたら、
〈リィクラ〉が衛士に、気安く「〈アカ〉、久しぶりだな」と声をかけて、にこやかに話し出した。
直属軍の兵士頭時代の知り合いのようだな。
〈リィクラ〉が、《ラング》伯爵家の近衛に仕官にすることになったと説明して、門はすんなりと通ることが出来た。
おぉ、いきなり役に立っているぞ。
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