第58話 〈クルス〉を泣かした

 「あっ、やっ、ダメです。耳を触るのは、止めて下さいと、前に言いましたよね」


 匂いを嗅ぐのを止めて、〈クルス〉の顔を見ると、白い顔が今は真っ赤に染まっている。


 僕は、好奇心に負けて、〈クルス〉の耳を、優しく撫でてみた。


 「キャッ、あっ、触ったら、ダメです。〈タロ〉様、止めて」


 〈クルス〉の訴えを無視して、〈クルス〉の耳の外側をなぞるように、撫でてみる。


 「いやー、〈タロ〉様、許して。おかしくなります。あっ、あっ」


 〈クルス〉の声が艶っぽいもの変わってきた。

 身体に力が入らないのか、上半身はソファーに力なく倒れてしまっている。


 何か、ゾクゾクしてきたぞ。

 精神も、本能が沸き立っているような感覚になっている。

 止まれないぞ。


 今度は、耳の中をくすぐる様に、撫でてみた。


 「キャッ、あっ、あっ、いやー」


 〈クルス〉は声にならない声を上げるしか、出来なくなってきたようだ。

 刺激から逃れようと、身体を弱弱しく、動かすことしかしない。


 足も、〈クルス〉の意図に反して、自然と艶めかしい動きになって、薄桃色のスカートが捲れ上がってきている。


 すでに、太ももの半ばまで、晒している状態だ。


 僕は、さっきの〈クルス〉の言葉を思い出して、〈クルス〉のスカートを右手で、ベロンと捲り上げた。


 〈クルス〉の太ももは、青白く艶やかに光って、前より大部ふっくらとした、女性らしい艶めかしいものに変わっている。


 今は耳への刺激が、堪らないのか、太ももをこする様に動かしていので、なおさら艶めかしい。


〈クルス〉が、今、履いてる下着は、子供用のパンツじゃなくて、大人の女性が履くショーツだ。


 白色は一緒だが、布の面積が小さくなって、隠されている部分が、随分少なくなっている。


 股のところの切れ込みも、角度がきつくなって、サイドも細いから、下半身の前面には小さな三角形があるだけだ。


 何より、肌にピッタリ張り付いて、〈クルス〉の下半身の形を浮き上がらせている。


 腰の部分についている、赤い小さなリボンの飾りが愛らしい。

 僕に見せるために、履いてきてくれたと思われる下着だから猶更だ。


 下半身をなめるように見てしまう。

 凝視するのは、どうかと思うが、見るのを止められないんだ。


 じっと見ていたら、耐えきれなくなったのか、〈クルス〉がスカートを直そうと、し始めた。


 僕は心の中で、

 「あと少しだけ。目に焼き付けたいんだ」と叫んで、

 〈クルス〉が直そうとしているスカートを、お腹が見えるまで強引に捲り直した。


〈クルス〉は、

「あっ、〈タロ〉様、これ以上は止めて下さい。お願いします。私、怖いです」

と言って、しくしく泣き出してしまった。


 ありゃ、これは、興奮してやり過ぎた。

 泣かしてしまったぞ。


 「〈クルス〉、ゴメン。もう見ないし、触らないよ」

 と言って、スカートを引っ張って、下半身が見えないように直してあげた。


 〈クルス〉は、まだ、両手で顔を覆って、細かく震えながら泣いている。


 僕は、〈クルス〉を抱き寄せて、「ゴメン。もうしない」を繰り返すしか無かった。


 〈クルス〉は、僕の胸の中で、暫く泣いた後、「私、怖かったんです」と言って、ようやく顔を上げてくれた。


 このまま、強引に手籠めにでも、されるんじゃないかと思ったんだな。

 何といっても、まだ十四歳だからな。


 僕にとっては、軽い気持ちでやったことが、相手もそうとるとは限らない。


 反省だ。

 大いに反省だ。


 〈クルス〉は、「〈タロ〉様、ごめんなさい。

 私、頑張りますが、急には無理なんです」


 と言って、しょんぼりして家に帰っていった。


 最近眠れない日が続いている。


 勉強も訓練も政務も、それなりにこなして、疲れているはずだが、眠りが浅い。


 〈クルス〉との関係が、気まずくなってしまったのと、戦争での心の疲れもあるのかもしれない。


 今日も夜中に目を覚ましたら、もう寝られなくなった。


 このまま、ベッドの上に寝転んでいても、ろくな考えが生まれない。


 外に出て、星でも見てみよう。

 この世界の夜空を、意識して見たことが無いから、いい機会だ。


 周りに明かりが一切無いので、手を伸ばしたら、星々に手が届くほど近い。

 月並みな表現だが、銀色と金色の宝石を、黒いシルクに撒き散らしたようだ。

 今にも天球から、僕に向かって、大小の星が降り注いできそうだ。

 星々の海が、僕の周りに満ちて溺れてしまう。


 夜空を見上げていたら、「ミィアー」と鳴く声がする。〈トラ〉と〈ドラ〉が、僕の足に爪を立てている。


 困ったやんちゃ坊主だ。

 坊主?。そういえば、雄か雌だか知らないや。

 お転婆娘なのかも知れないな。


 それと、身体のサイズが随分大きくなっている。

 もう若者猫だ。もう直ぐ大人だな。


 猫達を引きはがそうと、動いても、構わず足にじゃれ付いてくる。


 走ったら、猫達も走って、僕に飛びついてくる。


 雑学の本からの知識では、猫の走る速さは、時速五十キロで、百メートルを7秒程度で走るらしい。


 こうなりゃ、スキル発動だ。


 スキルで瞬間移動したら、猫達が吃驚した顔で見ている。

 間抜けずらだ、笑える。


 気を取り直した猫達は、また、足にじゃれようと追いかけてくる。

 僕は、スキルで逃げる。


 この追いかけっこを延々繰り返すことになった。

 猫達が飽きないんだ。


 興奮して「シャー」って唸りながらも、嬉しそうに飛び跳ねて、走って追いかけてくる。


 結局、夜が白みだす朝まで、付き合わされた。


 でも、猫達と遊ぶのは、頭が空っぽになるし、割と面白い。

 追いかけっこの勝敗は、僕の勝ちだったし。


 猫達は、さっきまでの勝負なんか、とうに忘れて、今は舌での毛づくろいに余念が無いようだ。


 結構、疲れた。

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