第57話 〈クルス〉の髪の匂い

 立って食べるのもどうかと思って、小屋で食べることにした。


 リンゴ飴のリンゴは、やっぱり酸っぱいけど、甘いものが無いこの世界では、周りの飴が大層甘い。


 酸っぱいのと甘いのとが合わさって、十分御馳走だ。


 二人とも、美味しそうに食べている。


 石焼き芋も、ゆっくりと長時間焼いたおかげで、ねっとり甘くて普通に美味しい。

 量が取れれば、名産になるかも知れない。


 〈クルス〉は、リンゴ飴でお腹が一杯らしくて、石焼き芋は〈サトミ〉にをあげるようだ。


 〈サトミ〉は、「〈タロ〉様、おイモ、すんごく美味しいです」と食べる勢いが凄い。


 小さな体に良く入るなと思っていたら、〈サトミ〉が突然、


 「もうお家に帰ります」


 と言い出した。


 「えっ、もう帰るの。まだ早いよ」


 と返したが、


 「用事を思い出したんです。失礼します」


 と少し青い顔で、ドアを開けて出て行こうとする。


 「〈サトミ〉、大丈夫か。家まで送って行こうか」


 と言うと、


 「な、なんでもありません。〈タロ〉様、〈サトミ〉に、近づいたら嫌です。

 後ろにいたらダメなんです」


 と言って急ぎ足で帰っていった。


 〈サトミ〉は、一体どうしたんだろう。


 〈クルス〉に聞いたら、


 「そんなに、気にしなくて大丈夫です。

 きっと、食べ過ぎてお腹を壊したのだと思います。

 明日になれば大丈夫ですよ」


 とのことだ。


 確かに、石焼き芋を二つと、リンゴ飴は食べ過ぎだな。


 〈クルス〉と二人きりになったので、〈クルス〉との会話を楽しもう。


 「〈クルス〉、王都の学校の試験勉強は、はかどっているの」


 「えぇ、順調ですよ。

 受験する他の人のことは、よく分からないですが、多分大丈夫だと思います」


 「そうか、〈クルス〉は頭が良いからな。〈サトミ〉の方はどんなもんだい」


 「私なんか、たいしたことはありません。〈タロ〉様の買い被りです。

 〈サトミ〉ちゃんの方は、本を一杯読んでもらっています。

 小さな子に、本の読み聞かせも、してもらっているのです。

 読み聞かせは、私よりも上手なんですよ。

 急に勉強しろでは、続かないと思って、負担が少ないことから入っています。

 それと、読む力は勉強の基礎ですから。読み聞かせも読む力を強くします」


 「へー。〈クルス〉は流石だな。良く考えているな」


 〈クルス〉は、少し赤くなって、恥ずかしそうに、


 「〈タロ〉様、嬉しいのですが、私を褒めすぎだと思います」

 と言って、モジモジしている。


 「そうだ。〈クルス〉、その後体の調子はどうだ」


 「もうすっかり、元気になりましたよ。

 ほら、見て下さい。

 身体にもお肉がついてきました。

 もう棒の様じゃありません」


 と言って、スカートをちょっぴり捲って、足を見せてくれた。


 ほんとだ。


 〈クルス〉の足は、まだ、ほっそりしてるけど、以前に比べれば、脂肪も付いてきて、ふっくらと女性の足になってきている。


 〈クルス〉の足をじっと観察していたら、〈クルス〉が顔を真っ赤にして、


 「あの、その、〈タロ〉様、スカートを捲って、私の足をもっと見ます」

 と言ってきた。


 捲りたいのはやまやまだが、〈サトミ〉の勉強で世話になっているから、あまり負担をかけるのは止めておこう。


 それに、あわよくば、そろそろ違うことをしたい気持ちも強い。


 「凄く嬉しい申し出だけど、〈クルス〉に悪いから、遠慮しておくよ。

 そうだ、その代わりに、また髪を触らせて欲しいな」


 「本当によろしいのでしょうか。私は、髪を触って頂くのは嬉しいのですが」


 「〈クルス〉が、嬉しいなら決まりだな」


 〈クルス〉は、触りやすいように、僕の方に向いて、少し近づいて来た。

 お互いの服が、触れるぐらいの近さだ。


 僕は、〈クルス〉のサラサラした、真直ぐの髪を両手で触り始める。


 「〈タロ〉様、私の髪の触り心地はどうなのでしょう。

 自分では、良く分からないのです」


 「そうだな。

 〈クルス〉の髪は、サラサラしてて、とても触り心地が良いし、良い匂いも漂ってくるよ」


 「有難うございます。

 でも、匂いには自信がありません。匂わないでくださいね」


 「そんなことは無いよ。良い匂いだ」


 僕は、〈クルス〉の髪に、鼻を直に付けて、〈クルス〉の匂いを吸い込んだ。


 石鹸と少し汗の匂いと、そして、果物のような、女の子の髪の匂いがした。


 「やっ、いやです。

 〈タロ〉様、止めてって言ったのに。意地悪しないで下さい」


 〈クルス〉は、口では嫌と言ってるけど、逃げようとはせずに、僕に匂いを嗅がれるままになっている。


 この状態のまま、僕は、〈クルス〉の髪を触り続ける。


 〈クルス〉の口からは、「ふー、ふー」って、溜息のような声が漏れている。


 もっと、根元の方まで〈クルス〉の髪を触っていたら、また、耳先を触ったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る