第34話 〈ハバ〉伯爵

 控室で結構な時間待たされて、領主の謁見が始まった。


見の部屋は、赤色の壁に金色の調度品を数多く配置した、ケバケバした色合いの、目がチカチカするような部屋だった。


「次期ラング子爵家領主〈タロスィト・ラング〉殿、良く我が《ハバ》の町へ参られた。

歓迎しますぞ。

また、そなたの許嫁でもある娘の〈アコーセン〉を盗賊から救ってくれたようで、礼を言わせてもらうぞ」



「〈モンケィタ・ハバ〉伯爵様、お目通り頂き有難うございます。

幼き時以来ご無沙汰しておりました事を申し訳なく思います。

この度、〈アコーセン〉様をお救い申し上げたのは婚約者として、当然の事を行っただけです。

お気遣いなされないようお願いいたします」


「そうか。そう言ってもらうと随分と気が楽になるぞ。

それにしても、以前あった時より、随分と成長されたな。

〈アコーセン〉にはもったいないほどだ。

〈アコーセン〉の母親も、そなたに礼を言うのが当たり前なのに、気分が悪いと部屋に籠っている。困まったものだ」


「伯爵夫人も、あまりに急な災難に接して、気が動転しておられるのでしょう」


「そういうふうに、しておいて貰おうか」


「そうだ、私の妻達を紹介しよう。

妻の「ヨルワータ」と愛娘の「マルワータ」と「ワンワータ」だ」


「妻の「ヨルワータ・ハバ」と申します。

次期ラング子爵家領主殿、初めてお目にかかりますが、今後ともよろしく頼みます。

ご立派な青年ぶりで、子爵家も安泰ですわね」


「長女の「マルワータ・ハバ」といいます。同い年の十四歳です。

次期ラング子爵家領主殿、初めまして、よろしくお願いします。

素敵な殿方とお知り合いになれて、嬉しいですわ」


「二女の「ワンワータ・ハバ」です。十三歳になりました。

次期ラング子爵家領主殿、初めまして、よろしくお願いします。

〈タロスィト〉様はお強いのですね。頼もしいですわ」


伯爵の二人の妻の側室の方だ。僕は許嫁が三人だから、勝っているな。


側室は確か、宮廷貴族の男爵家の娘のはずだ。

美人でスタイルも良いみたいだが、化粧がケバいな。ここまで化粧品の匂いが漂ってくる。

十代の娘が二人いるのに、服も露出の多い、派手なものだ。


二人の娘も、親に似て美人で、均整がとれた身体をしている。

丈が短めの質の良い造りのワンピースを着ていて、足を大胆に見せている。

許嫁達以外の足でも、良いものはやはり良いな。


「「ヨルワータ・ハバ」様、初めまして、こちらこそよろしくお願いいたします。

「マルワータ」様と「ワンワータ」様も、初めまして、よろしくお願いいたします。

お二人とも大変愛らしい方で、伯爵殿もさぞご自慢でしょう」


「そうなのだ。良くお分かりだ。自慢の娘なのだよ。これから親しくしてやって貰えれば幸いだ」


「ええ、近隣で縁も深まりますから、より親しくさせて頂きますよ」


「紹介も終わったし、そなたたちも、疲れているだろう。

夕食と部屋を用意してあるので、もう下がって良いぞ」


拍子抜けするくらい簡単に終わったな。ほぼ側室達の紹介だけだ。

くどくど礼を言われるよりかは、時間の節約になると思おう。

食事を済ませて、部屋で休んでいると〈ハズ〉が部屋にやって来た。


「〈タロ〉様、どう思います」


「何かだ」


「さっきの食事ですよ」


「簡素だったな。酒もほんの僅かだった。

領地に帰ったら、兵士にまともな料理と、酒も沢山振る舞わなくてはいけないな。

〈ハズ〉には報償も出すよ」


「この伯爵家は常識が欠けています。実の娘を助けたのに、道理を外していますよ。

〈タロ〉様が、兵士に料理や酒を出すはめになるなんて、バカにしています。

 私の報償は気にしないで下さいよ」


「そうは思うが、そう言うなよ。〈アコ〉が無事なだけで満足だよ」


「その〈アコーセン〉様の実家がここですからね。


嫁いで来られたら、本格的に付合いが始まりますが、酷いことになりそうで今から怖いですよ」


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