第33話 〈アコ〉を送る

《ラング》の町に着いたら、ちょっとした騒ぎになっていて、皆集まってきている。


状況の説明は、〈ハズ〉が上手く話をしてくれて、僕が怒られることは無かった。良かった。


〈クルス〉と〈サトミ〉も駆けつけてくれて、〈アコ〉と三人で長い間話し込んでいた。

〈アコ〉の心の良いケアになったんじゃないかな。


 次の朝、《ハバ》の町へ向けて出発した。遺骸が腐敗する前に届ける必要もあるけど、〈アコ〉達を早く家族の元へ返してあげたいからな。


〈アコ〉の馬車と遺骸を乗せた荷馬車に、護衛が4人、僕も馬車に同乗していく。

説明役の〈ハズ〉も同行する。

嘘を吐くときは、徹底して吐く必要があるからね。


馬車の座席は、向かい合わせになっていて、片方にメイドの子が、もう片方に僕と〈アコ〉が並んで座った。

〈アコ〉もメイドの子も、昨晩は殆ど眠れなかったのか、話す元気もないようだ。

ぼーとした表情で、座っているだけだった。


昼食休憩の後は、メイドの子が眠気に負けて、馬車の座席で眠り込んでしまった。

眠れるなら眠った方が良いんだろう。


「〈タロ〉様、私達を助けて頂いて本当に有難うございます。

助けて頂け無かったら、私はどうなっていたと考えると、今でもゾッとします」


「〈アコ〉、もう気にしないで、お礼はもう十分だよ。助けるのが、間に合って本当に良かったよ」


「それと、私が人質になったばかりに、〈タロ〉様を、危険な目に遭わせてしまいました。申し訳ないです」


「前にも言ったけど、〈アコ〉の所為じゃないよ。

〈アコ〉を助けられたら、少しくらいの危険は何てことないさ。

それに〈アコ〉は、自分の方が危険なのに、僕に逃げるように言ったじゃないか、あの窮地で自分より僕を優先するのは、普通の人では出来ないよ。

〈アコ〉は、とても心が優しくて、勇気がある素敵な女性だよ」


「もぉ、〈タロ〉様、私を褒めすぎです。良く覚えていませんが、夢中だったんです。

〈タロ〉様は跡継ぎですし、大切な人ですから」


「〈アコ〉に大切な人と言って貰えて、嬉しいよ」


「何度でも言えますよ。〈タロ〉様は私の一番大切な人ですわ」


〈アコ〉は僕の目を真直ぐに見て、嬉しいことを言ってくれる。

ただ、〈アコ〉の顔を良く見ると疲労の色が濃い気がする。あんな目に遭ったんだ当然だよな。


「〈アコ〉も、疲れているだろう。眠った方が良いんじゃないか」


「〈タロ〉様、お気遣い有難うございます。私は昨晩少し眠れましたので、大丈夫です。

  でも、ちょっぴり〈タロ〉様に、もたれ掛かっても良いですか」


「もちろん良いさ。幾らでもどうぞ」


「それじゃ、お言葉に甘えますわ。

 ふぅ、〈タロ〉様に触れていると、凄く安心出来るのです。

 私が正しい場所に居るっていう感覚なのです」


 「僕が正しい場所なの」


 「そうです。〈タロ〉様は、私の正しい場所なのですよ。うふふ」


 「良く分からないけど、〈アコ〉が安心出来るなら何でも良いや」


 「うふふふ、〈タロ〉様の横は、とっても明るくて心地良い場所ですわ」


 〈アコ〉は、安心したのか、僕にもたれて眠りについたようだ。


 野営は街道の中間に設けられた、見晴らしが効く広場で行った。

 馬車の中で、〈アコ〉とメイドの子が休んで、後の者が、馬車の周りで警戒する態勢だ。

 昨日襲撃されたばかりのため、皆安心して眠ることは出来ない。

 交代で見張りについて、順番に睡眠をとるのは、端から考慮していなかった。

 一日くらいの徹夜は問題は無いとの判断だ。


 野営は何事も無く終わり、早朝に出発して、夕方には《ハバ》の町に着いた。


 《ハバ》の町は、《ラング》の町の二倍ほどの大きさで、王都には及ばないものの、城壁も領主館も、それなりの規模を誇っている。

《ラング》の町よりかは、随分と発展していて、伯爵領だけのことはある感じだ。


 門番の衛士に事件の顛末を説明して、領主館に通された。

 護衛の遺骸は既に同僚の兵士達によって、然るべき所へ運ばれている。

 盗賊の遺骸は証拠のため提出し、メイドの子も、両親に引き取られていったようだ。


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