第30話 〈アコ〉とダンス

 午後からは、また〈アコ〉とダンスの練習だ。

 正妻候補とは、パーティーに出席する機会が多くあるため、入念に練習する必要があるようだ。


 僕は〈アコ〉の腰に左手を添えて、〈アコ〉の左手を僕の右手で握りながら、ステップを踏み出した。


「久しぶりに〈タロ〉様と踊れて嬉しいですわ。よろしくお願いします」


「僕も〈アコ〉と踊れて、胸が高鳴っているよ。よろしく頼むよ」


 何ともクサイ台詞だが、口からこぼれるのが止められない。

 異世界転生はアイデンティティも崩壊させてしまうのか、怖いことだ。ブルブル。

 断じて、鼻持ちならないキザ野郎では無い。 


 立て続けにスカート捲りが達成出来て、調子に乗っているのが、自分でも分かる。

 が、あまり会えない〈アコ〉だから、強引でも、勢いに乗って、極親密になろう。

 なろう。なろうだから問題無い。


「まぁ、〈タロ〉様、胸が高鳴なんて、揶揄からかうっていらっしゃるのですか」


「揶揄ってなんかいないよ。〈アコ〉は美人で、スタイルも抜群だから、二人で踊れるのを楽しみにしてたんだ」


「そんな。私は大したスタイルではありませんし、美人なんてとんでもありませんわ。

〈タロ〉様は、お世辞がお上手ですね」


「悲しいな。〈アコ〉は信じてくれないんだね。心からの言葉なのに」


「まぁ、〈タロ〉様、本当にお上手ですね、うっかり信じてしまいますわ」


「やっと信じてくれたんだね。嬉しいよ。〈アコ〉は美人で、スタイル抜群なのが確定したね」


「もぉ、〈タロ〉様、これ以上はお止めになって。恥ずかしくて、踊れなくなってしまいます」


 〈アコ〉はそう言いながらも、頬をポッと薔薇色にして、満更でも無い様子だ。

 やっぱり、女の子は褒めないといけないな。


 〈アコ〉との会話を楽しみながら、練習をしていると、〈ドリー〉ダンス講師から新たな指導が入った。


「〈タロ〉様、〈アコ〉様、上達されましたね。正しく滑らかに踊れています。

 このステップはこれで十分ですので、次のステップを練習して頂きます。

 次は難しくなりますので、そのおつもりで。

 足の位置はここで、次はこう動きます。その次は・・・・」


 〈ドリー〉の言うとおり、次のステップは中々難しくて、二人は黙々とステップの練習を繰り返した。


「二人ともステップばかり気にして、足元を見過ぎです。

 顔を上げて、お互いの顔を見て下さい。

〈タロ〉様は、〈アコ〉様の身体をもっと引き寄せて、ちゃんとリードして下さい」


 〈ドリー〉は、無理なことを言うな。同時にするには難しい内容だぞ。


 〈アコ〉の腰に回している手に、若干力を込めて、ぐいって、〈アコ〉の身体を僕の方に引き寄せた。

 密着状態だ。


 〈アコ〉の胸が、僕の胸と接して、〈アコ〉の胸が大きいのがまざまざと分かる。

  マスクメロンくらいあるんじゃないかな。麗しのメロンおっぱいだ。


 顔を上げて、〈アコ〉の顔を見ると、とんでもなく近い。

 引き寄せたのだから、当然だけど、直ぐ近くに〈アコ〉の顔がある。

 息がかかりそうな近さだ。いや、少しかかっているぞ。


 〈アコ〉も顔を上げているから、二人で見つめ合うことになる。

 〈アコ〉の瞳は琥珀のように輝き、澄んだ泉のようだ。

 唇は小振りだが幾分肉厚で、ほんの少しあだっぽく、もう大人の女性の雰囲気を纏っている。


「〈タロ〉様、あの、その、もう少し力を緩めて下さいませんか。胸が苦しいのです」


「悪い。少し緩めるよ」

 メロンを潰してはいけない。


「〈タロ〉様、私の顔をそんなに見詰めないで。

 そんなふうに、見られたら恥ずかしくて堪りませんわ」


「ゴメン。〈アコ〉の顔が綺麗だから、眼が離せないんだよ」


「もぉ、〈タロ〉様、私をどうするおつもりですか。心にも無いことを仰って」


「そんなことは無いさ。さっきから言ってるけど、〈アコ〉はとっても魅力的で虜になるんだよ」


「あぁ、〈タロ〉様、強く抱き寄せて、甘い言葉を言い続けるのは、狡いです。

 こんな事をされたら、平常心を保てませんわ。おまけにずっと見詰めるなんて。

〈タロ〉様こそ私を虜にするおつもりですか」


「〈アコ〉を虜に出来たら嬉しいなとは思っているよ」


「〈タロ〉様が、こんな意地悪だとは思いませんでした。〈アコ〉はもう限界です」


 〈アコ〉は、顔を桃色に染め上げて、潤んだ目で、僕を見詰めてくる。

 唇が触れ合いそうな近さだ。


「キャー」


 ふいに〈アコ〉が態勢を崩して、倒れそうになった。

 僕は慌てて、〈アコ〉の身体を倒れないように下から支える。


「〈アコ〉、大丈夫か」


「〈タロ〉様、すいません。ふらついてしまって」


「足を挫いたりはしてない」


「大丈夫です。ただ、あの、その、私のお尻から手を離して頂けないでしょうか。

 もう立てますので」


 何だか柔らかい物を握っていると思ったら、〈アコ〉のお尻だったのか。

 離したくないな、もっとこの存在感のあるフニュとした心地良い感触を楽しみたい。


「〈タロ〉様、聞いていますか。もう、私のお尻を握らないで下さい。お願いします」


「悪い。直ぐに手を退けるよ」


 〈アコ〉は、真っ赤になった顔を、両手で覆い隠すようにしている。

 そんなに恥かしかったのか。照れてる仕草は年相応で可愛いな。


「〈アコ〉様がお疲れのようですので、練習はここまでです」


 こうして、ダンスの練習は、少しハプニングがあったけど、無事終了した。

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