第27話 〈サトミ〉と手を繋ぐ

 今日は、〈サトミ〉との約束を果たす日だ。

 猫達の世話は、〈クルス〉がしてくれている。

 農園まで散歩するだけという、簡単なものとなった。

 〈サトミ〉が、これが良いと言ったんだ。

 簡単過ぎるので、再度確認しても、〈サトミ〉はこれで良いと譲らなかった。


「〈タロ〉様、お早うございます。遅れてごめんなさい」


 〈サトミ〉は、髪にピンクのリボンを付けて、少しお化粧もしているようだ。

 両手で大きなバスケットも持っている。

 これはどうも、デートのお誘いだったのか。


「〈サトミ〉、おはよう。僕も今来たばっかりだから、全然遅れてないよ」


「そうなんだ、良かった。〈タロ〉様、早く行こう」


「〈サトミ〉、そのバスケット重いだろう。僕が持つよ」


「そんな、〈タロ〉様は貴族だよ。〈タロ〉様に、持たせられないよ」


「構わしないよ。女の子に荷物を持たせて、男が手ぶらじゃ恰好つかないよ」


「うーん、しょうがないな。じゃこれ、重たいけどお願いします」


 〈サトミ〉から、バスケットを受け取った。ちょっと強引過ぎたかな。

 結構重いぞ。中に何が入っているんだろう。


 ふと、〈サトミ〉の手を見ると、両手で持ってたバスケットが無くなって、手持無沙汰になっている。

 手が寂しそうに見えるな。


「〈サトミ〉、手を繋いでも良いか」


「ふぁ、手を繋ぐの。恥かしいけど、〈タロ〉様が、繋ぎたいなら良いよ」


 〈サトミ〉と手を繋いで、町をゆっくりと歩きだした。

 〈サトミ〉は、ピンク色に頬を染めて恥かしそうだけど、嬉しそうにも見える。


 道行く人が、物珍し気に見てくるな。

 この世界の人は、あまり手を繋いだりしないのか。

 同年代の子供達とも、何人かすれ違ったけど、こっちを見てコソコソと話しているようだ。


 〈サトミ〉はますます頬を染めて、僕の手をギュッと握りしめてきた。


 僕は可愛い〈サトミ〉と手を繋げて、頗(すこぶ)る気分が良い。

 顔が思わず、にやけてしまいそうだ。

 ただ、町の門を出る時、門番が微笑ましそうに見ていたのが、少し恥ずかしかった。


 丘の上まで、二人で歩いて行く予定だ。

 そこまでは、〈サトミ〉の小さなこの手を、僕の手で包んでいたい。

 だって、デートなんだから、ドキドキすることをしたいんだ。

 少し手を振っても、〈サトミ〉は手を離すような素振(そぶ)りは見せない。

 しっかりと僕の手を握って、一緒に手を振ってくれる。

 でも、横目で〈サトミ〉の顔を見たら、真っ赤な顔をして、俯(うつむ)いてしまったよ。


 農場までくれば、人影は殆どなくなる。

 遠くの畑で、働いている人が見えるだけだ。


「〈サトミ〉は、〈タロ〉様と手を繋げて、恥ずかしかったけど、とっても嬉しかったよ」


「僕も〈サトミ〉と手を繋げて、幸せだよ。〈サトミ〉、聞くけど、町の人はあまり手を繋がないの」


「えーっと、あまりつながないよ。つなぐのは新婚の人ぐらいかな」


 〈サトミ〉の元に戻っていた頬が、またピンクに染まっていった。


 丘の上は、小高い場所なので、農場や《ラング》の町が見渡せる。

 景色の良い場所だ。爽(さわ)やかな、風も吹いている。


 丘の上にある、ほんの少し窪んだ場所に着くと、〈サトミ〉がバスケットを開けて、準備を始めた。

 周囲からの視線を遮(さえぎ)れるこの場所で、お茶するようである。

 畳んであったマットを広げて、茶器を出して、お茶が入ったポットも取り出した。

 そうか、ポットが重かったのか。


「〈タロ〉様、お茶の準備ができましたよ。クッキーもあるので、食べてください」


「〈サトミ〉に全部任して悪いな。美味しそうなクッキーだな。頂くよ」


「〈サトミ〉がやりたかったんだから、気にしないで」


「〈サトミ〉、お茶も旨いし、クッキーも美味しいよ」


「ほんとに。ヘヘェ、クッキーは〈サトミ〉が作ったんだよ。嬉しいな」


「へぇー、〈サトミ〉が作ったのか。〈サトミ〉はクッキーを作るのが、とっても上手だな」


「ヘヘェ、また、〈タロ〉様に褒められちゃった。〈タロ〉様大好き」


「僕も可愛い〈サトミ〉が大好きだよ。ところで、これからどうするの」


「〈タロ〉様がイヤじゃないなら、ここでお話したいな。ここはお父さんとお母さんの思い出の場所なの」


「ほー、思い出の場所なのか」


「そうなんだ。お母さんは、〈サトミ〉が小っちゃな時に死んじゃったから、お父さんに聞いたの。お父さんとお母さんが結婚する前に、良くここで会ってたんだって」


「兵長も、青春してたんだな。あのゴッツい顔で口説いたのかな」


「もぅ、〈タロ〉様。お父さんには言わないでよ」


「分かったよ。兵長をこの話で、からかったりしないよ。ここは良い場所だから、僕の両親もここに来たのかもしれないな」


「あっ、〈タロ〉様、ごめんなさい。お母さんのこと思い出させちゃったね。自分のことばかり考えて、〈サトミ〉はほんとバカだな。ダメな子だよ」


「何言ってんだ。〈サトミ〉はバカなんかじゃない。お母さんを思い出すのは、全然悪いことではないよ。お母さんは思い出して貰って、きっと喜んでいるはずさ」


「〈タロ〉様、ほんと。お母さん、喜んでいるかな」


「だって、子供なんだから。〈サトミ〉も子供や孫に、時々は思い出して欲しいと思うだろう」


「うん。少しも思い出してもらえなかったら、〈サトミ〉はきっと寂しいと思う。〈タロ〉様の言うとおりだよ」


「そうだよ。〈サトミ〉は、心が優しくて、可愛くて、素敵な女の子だ。もっと自信を持ってよ」


「ふぁ、〈サトミ〉は、素敵じゃないよ〈タロ〉様、褒めすぎだよ」


「そうかな。僕は〈サトミ〉が、素敵な女子だと思っているよ。髪のリボンもとっても似合ってるよ」


「えへへっ、似合ってるかな。今日はちょっぴりおしゃれしたんだ」


「可愛い〈サトミ〉と居られて幸せだよ」


「ふぁ、そんなことばっかり言われたら、〈サトミ〉変になっちゃうよ。胸がふわふわ、しちゃうよ」


「それは良いな。もっと、もっと、胸をふわふわにしちゃえよ」


「もー、〈タロ〉様、違うよ。胸の中が、ふわふわしちゃうんだよ。胸じゃないよ」


「そうか、ゴメン。でも〈サトミ〉の胸が、もっとふわふわになったら、嬉しいな」


「やだ、〈タロ〉様、ちょっとエッチだよ。〈サトミ〉の胸をジーッと見ないで、恥ずかしいよ」


 〈サトミ〉は、顔をピンク色に染めて、両手で自分の胸を抱きしめて、必死に隠している。

 恥ずかしそうにしている様子が、実に可愛いな。


 〈サトミ〉のは、ふわふわと言うより、ぷにゅぷにゅって感じがする。

 ハァー、もっと見たいな。


「ゴメン。ゴメン。つい見ちゃったよ。もう見ないよ」


「うー、〈タロ〉様、ジーッとはイヤだけど、ちょっとなら、〈サトミ〉の胸を見ても良いよ」


 〈サトミ〉は、さらにピンク色が強くなった顔で、嬉しいことを言ってくれる。

 手も緩めて、胸を見せてくれるようだ。


 こんな風にされると、服の上から見るだけなのに、特別感があってドキドキする。

 〈サトミ〉は、堪らなく良い子だな。


 こんな風に〈サトミ〉と話していたら、あっと言う間に時間が過ぎて、もう帰る時間になった。


「〈サトミ〉、大分寒くなってきし、もう帰る時刻だよ」


「えっ、もうそんな時間。〈タロ〉様といると、びっくりするぐらい時間が早いよ。〈タロ〉様、今日はありがとう。とっても、楽しかった。一生の思い出になったよ」


「〈サトミ〉は大げさだな。僕も凄く楽しかったよ。また、来ようね」


 〈サトミ〉と僕は、後片付けをして、町へと帰った。

 もちろん、手を繋いでだ。

 〈サトミ〉は行きよりかは、恥かしくないみたいだった。

 手もしっかりと握ってきたし、僕に笑いかけてもきたよ。

 また、この笑顔見たいと、強く思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る