第18話  水車

「この川の水を何とか農地に引けないかな。農地が倍以上になるのにな」


「〈タロ〉様、残念ですが仕方ありませんだ」


 農長は端から諦めモードだ。

 魔法も使えないし、物理法則は曲げられないからな。

 物理か。


「農長、水車で水を上げたら良いんじゃないか」


「〈タロ〉様、失礼なことを言いますが、水車を置いて、回すだけじゃ意味がありませんだ」


「回すだけじゃなくて、水車に斜めの筒をつけたら、汲み上がるんだよ」


「ふーむ。〈タロ〉様、大きい水車なら地面の上に出ますが、しかし、そのまま川に落ちるのだけの気もしますが」


 執事の〈コラィウ〉も懐疑的だ。


「斜めの筒が重要なのですね」


 〈ハパ〉先生は理解が早いな。

 〈ハパ〉先生以外は、皆出来ないと思っているようだな。


「僕も思い付きで言ったし。皆も半信半疑だと思うので、一度水車の模型を作ったら良いんじゃないかと思う。

 誰か模型を作れそうな人を知らないか」


「模型ですか。それは良いですね。失敗しても、あまり費用が掛かりません。

 領民の〈コィジャ〉が、木工細工を生業にしていますので頼んでみます」


 模型で済むならと、執事の〈コラィウ〉が頼んでくれるようだ。


「しかし、〈タロ〉様は独自の発想をされますね」


「奇想天外ですな」


「本当に奇抜ですだ」


「ハハァ、僕の玩具で終わるか、皆が吃驚するか、楽しみだな」


 自分の発想じゃないので、少し気が咎める。

 校外学習で習ったのを、そのまま言っているだけなんだからな。

 まあ良いだろう。領地が豊かになれば、僕も皆もウハウハだ。


 領地の巡察はまる一日掛かって終了した。

 詳しい話は、それぞれ家臣からレクチャーを受ける手筈となっている。

 最後に、北側の状況を確認したところ、広大な土地が広がっているが、全くの手付かずとの返答であった。

 おまけに、遠くの火山からの火山灰も降り積もっている、一面の荒地のようだ。


 次の日、早速、領民の〈コィジャ〉の家に模型の作成を頼みにいった。

 執事の〈コラィウ〉が頼んでくれたんだが、筒の取り付けに関しては僕にしか説明出来ないので、直接会う必要があったんだ。


「水車の片側に筒を取り付けて欲しいんだ。

 筒の先が外側に向くようにして、数は多いほど良いと思う」


「こんな感じですか」

 〈コィジャ〉は簡単な図を描いて、確認してくる。


「そうだな、筒が水車の真上に来た時に、筒の先が真下に向くようにしてくれ。

 それと、もっと、筒の先が外側に向くように斜めにしてくれ」


「こうですか」


「そうだ。そうだ。良い感じだ」


「今までには無い水車ですが、何とか作ってみます。

 確かにこれなら、水を汲み上げることが出来るかもしれませんね。

 それにしても、御子息様は良くこんなことを考えられましたね」


「まあ、たまたまだよ」


 数日経って、模型が出来た。直径五十cmはある立派なものだ。

 筒も指示通り良い角度で、斜めに付けられている。

 木工細工の腕は確かなようだな。


 家臣に集合をかけて、農場の小川で実証実験をすると、水車はクルクルと機嫌良く回り、地面の方に水を吐き出し続けた。

 模型ではあるが成功だ。


「無事汲み上げたな。細工の腕が良くて良かったよ」


「上手くいきましたね。褒めて頂いて有難うございます。

 自分で作っておいて、何ですが、半信半疑でした」


「うあ、吃驚しただ。〈タロ〉様は天才様だ。これなら農地を広げられますだ」


「おー。汲み上げましたね。

 〈タロ〉様は、民衆とは違った発想をお持ちだ。上に立たれる者の才覚を持っておられる」


「タロ〉様の思考は、私達とは次元を異にされていますな。

 この水車があれば、農業生産が飛躍的に上がりますな」


 確かに僕は異次元なんだが、それは言わないでおこう。


「皆、褒めてくれて有難いが、まだ模型だ。本物を作ろう。〈コィジャ〉頼めるかな」


「私は構いませんが、費用が模型とは段違いですが、領主様の意向は大丈夫ですか」


「それは大丈夫だ。領地の発展に繋がることだ。遊びじゃないから、父上は怒ったりしないよ」


「分かりました。出来る限り早く作りますが、一月はお時間を頂きますよ」


「それじゃ、農長は水車を設置する適地を探しておいてくれ。水路も作り始めてくれ」


「分かりましただ」


 これで水車の件は終わった。後は本物が出来るのを待つだけだ。

 水路を張り巡らせるのは時間がかかるから、農地が増えるのはまだまだ先だな。

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