第19話 中年猫の頼み

部屋で寝ようとしてたら、突然、中年猫が現われた。

 一mほど離れた空中に浮いてやがる


「なんだ。なんだ。人の部屋に、ノックも無しに侵入するとはどういう了見だ」


「申し訳ない。緊急事態なんだョ。頼みがあるんだョ」


「ハァー、無断侵入して、おまけに頼みことだと。ふざけてるのか」


「ふざけてなんかないョ。至極真面目な話だョ。困っているんだョ。助けてくれョ」


「どうしてお前を助ける義理があるんだ」


「この町を守護しているじゃないか。それと助けてくれたら、豪華な特典を与えるョ」


「特典てなんだよ。普通は宝物とか黄金だろう」


「エッ、特典が好きなんだろう。信じられないくらい吃驚する特典だョ。

 「天智猫」にしか与えられない特別なものだョ。誰も持っていないものだョ」


「それはどんなものだ」


「今は教えられないョ。頼みを叶えてくれてからだョ。子猫と母猫を保護して欲しいだョ」


「子猫と母猫? 何故、保護がいるんだ。お前が面倒見てやれよ」


「母猫が年老いて弱っているんだョ。このままじゃ子猫も助からないんだョ。

 「天智猫」は猫と違って、栄養を取得させる方法がないんだョ」


「アー、嘘つくなよ。何か栄養を取らないと生きていけないだろう」


「嘘じゃないョ。神獣を形作っているのは魔法だョ。

 空間に存在している魔素を取り込むことによって保たれているんだョ」


「それなら、魔法でネズミとかを捕まえれば良いんじゃないか」


「「天智猫」は守護するものだョ。攻撃する魔法は無いんだョ。

 猫と違って、ネズミとか餌は取れないんだョ」


「カー、使えないヤツだな」


「ムッ、失礼な。しかし、今は許そう。早くしないと死んじゃうョ」


「何故、僕に頼むんだ」


「言葉が通じるのは君しかいないョ。

 経済的にも、場所的にも猫を飼う余裕がある。

 おまけに自分以外に面倒を看させることが出来るョ」


 中年猫が勝手なことをほざいていやがる。


 が、領地の中では、僕が猫を飼う余裕が、一番あるのは確かではあるな。

 〈サトミ〉に猫の世話を押し付けても多分怒らない。

 スキルがあるから動物の世話は得意だと思う。


 何かろくでもない物かもしれないが、特典も気になる。

 子猫と母猫を見殺しにするのは、やはり気が咎める。


 中年猫の計算づくの作戦に引っかかるのは癪だが、ここは恩を売っておこう。

 古人曰く、「情けは人の為ならず」だ。


「子猫と母猫を見殺しには出来ないと、僕の心がシャウトするよ。

 仕方がない。何とかしよう。無垢な少年の心に付け込むとは、計算高いヤツだ。

 ただ、上手く世話が出来なくても、責任は取らないぞ」


「おお、有難い。感謝するョ。決して計算なんかしてないヨ。誤解だョ。

 世話は君の婚約者に頼んだら心配する必要はないョ。

 特典は期待してくれて良いョ」


 やっぱり、僕より〈サトミ〉をあてにしてたな。


 〈サトミ〉のスキルも知っているって事は、町を守護すると言いながら、あちこち覗いているんじゃないのか、疑わしい。

何せ中年だからな。


 それから、中年猫が先導して、細い路地の奥で子猫と母猫を保護した。

母猫は痩せ衰えて、子猫はお腹が凹んで、ピィピィ泣いていた。

 ほんの僅かでも保護が遅れていたら、危なかった気がする。


 館で飼うのは説明が面倒だし、〈サトミ〉も来にくいだろうし、改修した小屋で飼おうと思う。

 小屋を改修しておいて良かった。先見の明がある。流石だな。


 早速、母猫にミルクを与えて、子猫と母猫を使い古しの毛布に包んであげた。

 母猫がミャーって鳴いて、子猫はウトウトしだした。


 もう夜なので、今日のところはこのぐらいか。

 明日は〈サトミ〉を連れてこよう。

 反応が楽しみだな。


 中年猫はこれで安心ですと、しきりにお礼を言ってきた。

 猫達を見守る目も優しくて、コイツにも良いところがあるようだ。


 去り際に、目を瞑りながら僕の胸に肉球を当てて、何やらゴニョ言っていた。

「天智猫」のお礼の仕方なのかな。


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