第15話 〈サトミ〉に蜜柑を渡そう

 懸案になっているスカート捲りの件だが、色々考えたが、自然に出来る方法が見つからない。

 僕にとっては極自然な行為だが、許嫁達が不自然と感じるのを防げそうにない。


 ただ、少しでも進展させるために、シュチュエーションを整えることにした。

 二人きりになれる部屋を用意することだ。


 人目があるとやり難いし、やられた方も他の人に見られたら嫌だと思う。

 僕だけなら、それほど嫌じゃないという期待だ。


 館の部屋ではメイドの目がある。

 あの人達は仕事柄か、とても目敏い。

 油断出来ない。常時監視されている気がするくらいだ。


 それと、二人きりになれる施設は、先々是非とも必要だ。

 エッチなことの大半は、監視下でするものでは無い。

 二人だけの秘密にすけべだ。あっ、すべきだ。


 そこで放置したあった小屋を改修することにした。

 館と厩舎の間にある、元は外作業用の休憩小屋だ。

 小さいけど問題ない、二人入れれば良いんだから。


 執事の〈コラィウ〉に頼んだら、理由を聞かれた。当たり前か。

 仕方が無いので勉強に集中するためにだと言っておいた。

 苦しい言い訳だが、本当のことは言えない。

 それでも、改修は了承された。御子息様だからな。

 良かった。



 館に帰ったら、父親から折り入って話があると言ってきた。

 改まって話とは初めてだな。


 話の前にお土産があると、蜜柑を一杯渡された。

 黄色いツヤツヤの蜜柑だ。柑橘類の爽やかな匂いがする。

 まあ、食べてみなさいってことで、久々に食べる蜜柑は美味しかった。

 甘みが強くて、酸味も良いアクセントになっている。

 そう言えば、この世界で果物を殆ど食べたことが無いな。


「お父様、この蜜柑はどうしたの」


「〈タロ〉、良く蜜柑を知っていたな。

 勉強を頑張っているな。

 国の南端にある《タラハ》の町で買ってきたんだ」


「高級な物なのに有難う。美味しかったよ」


「それは良かった。買ってきた甲斐があったよ。

 それとだな、蜜柑はそんなに高くは無かったんだ。今年は大豊作で安く買えたんだよ」


「そうなの。まだ、沢山あるけどこれも貰っても良いの」


「ああ、良いとも、お父さんは今食べたから、残っているのは全部〈タロ〉のものだよ」


「有難うお父様。〈クルス〉と〈サトミ〉にもあげて良い」


「そうか、そうか、構わないよ。女性は蜜柑が好きだからな。〈サータ〉も好物だった」


「お母様も好きだったの。どんな人だったのかな」


「・・・うー。〈サータ〉は賢くて、暖かくて、美しかった。完璧な女性だった。

 蜜柑は思い出なんだ。今でも思い出すと辛いな」


 父親は、十年以上たった今でも、母親のことを引きずっているんだな。


「蜜柑の話はこれで終わりだ。〈タロ〉、呼び出したのは実はな」

 と父親が本題を話し出した。


 要約するとこんな話だった。


 大昔から、《ベン》島の領有を巡って、《アルプ》国と《インラ》国が争っている。

 今、《ベン》島は《インラ》国に取り返された状態だ。


 国王は、重臣や領主からの突き上げによって、この状況を放置して置けなくなった。

 《ベン》島の奪還作戦が決まって、《ラング》領にも挙兵の勅旨がもたらされた。


「〈タロ〉や、そういう事で、お父さんは戦争に行ってくる。

 あまり気が進まないが、国王の命令だから仕方がない。

 連れて行くのは兵長だけだから、政務には支障は無いと思うけど、留守を頼むよ」


「お父様、お役目大変でしょうが、くれぐれもお体ご自愛して下さい。

 留守は任されました。

 それで、出発はいつになるのですか」


「〈タロ〉は凄くしっかりしてきたな。お父さんも安心だ。出発は十日後の予定だよ」


 政務は普段から家臣任せだから問題ないだろう。

 しかし、《ベン》島の火の粉が、こっちまで飛んで来るとは思わなかったな。



 許嫁に蜜柑を配ろう。


 メイドには頼まずに、自分で渡すことにした。

 少しでも心証を良くして、好感度を上げようとするセコイ作戦だ。

 何事も小さなことからコツコツだ。


 〈サトミ〉の家を訪ねたら、皆、慌ただしく動き回っている。

 兵長だもの、そりゃ出兵の準備で大変だわ。

 〈サトミ〉は家にはいなくて、多分厩舎に居ると思うとの返事だ。

 忙しくて呼びには行ってくれないようだ。


 仕方が無いので、厩舎に行くと直ぐに見つかった。

 馬の世話をしているようだ。


「〈青雲〉、櫛ですくのは気持ちいい。お尻もすいてあげるね。

 良い子だから、〈タロ〉様の言うことを良く聞くんですよ。

 分かりましたか」


 〈青雲〉は僕の馬だ。

 青鹿毛で額に雲みたいな白斑があるので、何も考えずに〈青雲〉と名付けた、少し可哀そうな馬だ。

 大人しくて扱いやすいが、小柄で馬力が無い子供向けの馬だ。

 〈サトミ〉は、僕の馬の世話をしてくれているんだな。


「〈サトミ〉、有難う。〈青雲〉も喜んでいるよ」


「〈タロ〉様、こんにちは。〈タロ〉様も〈青雲〉が喜んでいるの分かるんですか」


「いや、僕のは想像だよ。〈サトミ〉は分かるんだろう」


「はい。〈サトミ〉は『敏覚』のスキルがあるから、大体分かるの」


「〈サトミ〉は役に立つな。動物の気持ちが分かるんだ」


「ヘヘェ、〈サトミ〉が役に立つって、褒められちゃった。

 馬の世話ばかりしてダメって、皆に怒られるけど、〈タロ〉様は怒らないし、嬉しいっていう気持ちが伝わってくる。

 〈タロ〉様好き」


 やったー!初好き頂きました。


「僕も〈サトミ〉が好きだよ。顔を見たくて会いにきたんだ」


 おー。この世界では、今一歩現実感が薄いせいか、歯の浮くような台詞がスラスラ口を吐いてくるな。

 自分の抱いている気持ちを、照れなくストレートに話せる。


「えっ、〈サトミ〉の顔を見たくて会いに来たって、〈タロ〉様ほんと」


 顔を赤くして、はにかんでいる。

 体をもじもじさせて可愛いな。


「本当だとも。〈サトミ〉が可愛いから、いつも〈サトミ〉のことを考えているよ」


 本当に何時も考えている。エッチなことが多いけど。


 〈サトミ〉はもっと顔を赤くして俯いてしまった。

 どうしたんだろう。

 まさか、エッチな妄想がバレたのか。

 多分言い方が直球過ぎたんだろう。

 そうに違いない。そうしておこう。


「そうだ〈サトミ〉、お土産を持ってきたんだ。蜜柑だけど食べる」


「わぁ、蜜柑ですか。〈サトミ〉まだ食べたことないです。

 珍しいものなのに、〈サトミ〉が食べて良いんですか」


「〈サトミ〉のために持ってきたんだ。遠慮しないで食べてよ」


「〈サトミ〉のためにですか。嬉しいです。食べたいです」


 〈サトミ〉と僕は、厩舎の柵に仲良く二人で腰かけて、蜜柑を食べた。

 〈サトミ〉は、上機嫌で美味しいそうに、蜜柑を食べてくれた。

 スキルがない僕にも、嬉しいっていう感情が伝わってきた。


「〈タロ〉様、ごちそうさま。とっても美味しかったよ。

 〈サトミ〉、こんな嬉しいの生まれて初めてだよ。一生忘れないよ」


「一生は大げさだな。また、何か美味しい物があったら持ってくるよ」


「ううん、〈タロ〉様が会いに来てくれるだけで嬉しいよ。

 次からもっとお話ししようね。今日は本当にありがとう。

 長いこと厩舎にいるから、おばちゃんに怒られるから、もう帰るね」


 〈サトミ〉は本当に素直で可愛いな。

 好感度も少し上がったような気がする。

 やっぱり女性にはプレゼントだね。


 それと〈サトミ〉の匂いで何かなと思っていた、正体が分かった。

 厩舎の匂いだ。

 匂いが付くほどここで過ごしているんだな。

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