第7話 〈ウオィリ〉教師
翌朝、〈アコ〉が帰るのを皆で見送った。
「〈タロ〉様、〈クルス〉さん、〈サトミ〉ちゃん、お見送り有難うございます。
大変楽しい時を過ごさせて頂きました。お別れするのが寂しいです」
「〈アコ〉ちゃん、さようなら。〈サトミ〉も楽しかったよ。また直ぐに会えるよ ね」
〈アコ〉さん、道中お気をつけてお帰り下さい。また会えるのを楽しみにしております」
〈アコ〉、本当に楽しかったよ。しばらく会えないのが寂しいな」
〈タロ〉様、一つお願いがあるのですが、私は皆さんと違って普段会えないので、お手紙を頂けないでしょうか。
短いもので構いませんので、厚かましい願いですがどうかお願いします」
「うーん、手紙か。頻繁には書けないけど良いかな」
「書いて頂けるのですね。有難うございます。
それと、〈クルス〉さんと〈サトミ〉ちゃんの手紙も、一緒に送って頂けないでしょうか」
何だ、〈クルス〉と〈サトミ〉と手紙のやり取りをしたいのか。
平民では、手紙の送り賃は負担が大きいからな。
「〈アコ〉、分かったよ。〈クルス〉と〈サトミ〉の手紙は必ず同封するよ。
でも、僕の手紙は短くても怒らないでよ」
「もちろん、怒ったりしませんわ。〈タロ〉様、重ね重ね有難うございます」
「〈アコ〉ちゃん、〈サトミ〉いっぱいお手紙書くよ」
「私も書きますよ。〈アコ〉さんのお手紙もお持ちしています」
お別れを済ませて、〈アコ〉は帰っていった。
いつの間にか、許嫁達が随分と仲良しになっているな。
僕の日課は、許嫁達との楽しい日々の他は、勉強と鍛錬が占めている。
貴族の嗜みとして、ある程度の教養と武芸を修める必要があるらしく、午前中は教養を高める勉強を、午後からは武芸の鍛錬を強制されている。
約一年後には、王都の学校へ入学する予定となっており、そのための勉強と鍛錬を兼ねている面もあるようだ。
教養の勉強は、教会の教師が教えてくれている。
教師の名前は〈ウオィリ〉といい、五十歳は超えている男性で、
《ラング》の町に、教会団本部から派遣されている人だ。
勉強の内容は、文書の綴り方や地理や歴史が中心である。
他には、礼儀作法とか、一般常識など良家の子弟が覚えておくべき事柄全般も、勉強の対象となっている。
教会の関係者のため、当然、この国の主神である《アルプクカスト》神の教えは、最重要科目だ。
勉強を始める前には、神への祈りが必須となっているほどだ。
この世界の宗教は四信教というもので、
原始に祖神である《デキラスアウス》という神が
混沌の中からこの世界(大陸)を創造し、
その後に四神を生みだし、
それぞれの国を治めさせたというもので、
この四神の子孫が四種類の人類を構成しているということになっている。
四つの国はそれぞれ
北に《インラ》という、エルフっぽい見かけの人達が住んでいる国、
西に《トロヘ》という、獣っぽい見かけの人達が住んでいる国、
南に《オブア》という、爬虫類っぽい見かけの人達が住んでいる国、
東に私が今暮らしている《アルプ》という国となっている。
それぞれの国の人種構成は単一ではなく、程度の差はあるが少しだけ混住している状態にある。
四神はそれぞれ
《インラ》国を《インブラタスタ》という『知』を司る神が治め、
《トロヘ》国を《トロンヘイムラ》という『力』を司る神が治め、
《オブア》国を《オプアイブチブ》という『護』を司る神が治め、
《アルプ》国は《アルプクカスト》という『富』を司る神が治めている。
それぞれの国は、当然ながら四神のうち、
自分達の神を一番偉い・重要な神と位置付けて、
他の神は従神的に扱っているようだ。
暦は《ビァエスト》歴というものを使用しており、一年が六月に分かれている。
ただ、各月が、先月と後月に分かれていて、実質十二月とあまり変わらない。
一月は六十日と決められていて、先月も後月ともに三十日だ。
曜日の概念は無く、先月と後月の中日と最後の日が休養日と定められている。
十五日に一日しか休みが無い、労働者にとって厳しい世界だと思う。
産業が初期の段階で留まっており、依然農業が国の基幹産業になっていることから、暦は農作業に起因したものだ。
そのため、大きなお祭りは、三月の前月にある春祈祭(豊かな収穫を祈る祭)と、六月の後月にある秋謝祭(収穫を感謝する祭)の二回となっている。
因みに今は、一月の先月の十日目だ。「待月十日」とも表現し、季節は冬となる。
また、身分制度は【 王様を筆頭に、王家、貴族、平民、奴隷 】と大きく5種類に分かれている。
文明の程度が中世の段階を超えていないので、貴族と奴隷制がまだ残っているようだ。
正確な数字ではないが、王国民のうち、
貴族=10%、平民=80%、奴隷=10%の人口構成と言われている。
「公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵・騎士爵」
と定められている貴族制度の中で、
子爵は四番目のため、爵位の中間の位置といえる。
このような身分社会で、子爵家に転生出来たのは僥倖だと思う。
それと、この世界は異世界なんだけど、残念ながら人間は魔法を使えない。
魔法を使えるのは魔法生物だけで、魔獣や神獣と呼ばれ恐れられたり、敬われたりしている。
ただ、人間はスキルを持っていて、これは一人に一つだけ生まれつき備わっているもので、神の恩寵とも言われているようだ。
このスキルは有用なものから殆ど役に立たないものまで様々で、どれが備わるかは、運不運の要素が強い。
ただ、当たりと言われるスキルであっても、効果は微妙なものが多く、それだけで俺最強となるものでは無い。
また、大きな試練を乗り越えたり、物凄い経験をすると、スキルの位階が上がって、効果が大きくなるとされている。
過去に三段階位階が上がった人が存在していて、二段階で三倍、三段階ではさらに上乗せされて、相当な効果になるそうだ。
因みに、〈タロ〉君のスキルは『敏皮』と言う殺気を察知出来るもので、殺気を向けられると方向が分かるという、戦闘に於いてはまあまあのスキルである。
それと僕には、一定の距離を瞬間移動出来るというスキルも発現している。
知られているスキルではなく、チートスキルのようにも思えるけど、五cmしか移動出来ないとなると微妙としか言いようがない。
ただ、一人で二つもスキルを持つ人は過去に存在しておらず、バレルと色々面倒くさそうなので、二つ目のスキルは隠しておこうと思っている。
存在が確認されているスキル
・遠見=少し遠くの物が見える
・遠聞=少し遠くの音が聞こえる
・遠嗅=少し遠くの匂いを嗅げる
・強手=少し手の力が強い
・強胴=少し持久力が高い
・強足=少し足の力が強い
・敏覚=少し感情を感じ取れやすくなる
・敏皮=少し殺気を感じやすくなる
・敏舌=少し舌の感覚が鋭くなる
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