第6話 【許嫁女子会(お友達)】

 〈アコ〉が子爵家を訪問した時は、三人が親睦を深めるという名目で、お茶会をすることになっている。

 今日が二回目だ。


「〈アコ〉様、お久しぶりです。お会い出来るのを楽しみにしていました」

 と〈クルス〉が切り出した。


「〈サトミ〉も楽しみにしてました」


「二人とも歓迎して頂いて有難う。私も、お二人に会うのが待ち遠しかったです」

 と〈アコ〉。


「早速なのですが、お二人にお聞きしたいことがあるのです」


「何ですか、〈アコ〉様」


「〈サトミ〉に分かるかな」


「〈タロ〉様のことなのですけど。

 今日お会いしたら、凄くしっかりされていました。

 こう言ったら何ですけど、前は随分と大人しい方だったと思ったのですが。

 お二人はどう思っていらっしゃいます」


「〈サトミ〉もビックリしてます。

 ほんとに大人しい、喋らない子だと思ってたのに、最近は喋るし、すんごく、しっかりしているよ。

 お父さんも、人が変わったようにしっかりされて、安心だと言ってたよ。

 階段で頭を打って、ネジがはまったんだろうと言ってる人もいるよ」


「ゴホン。

〈サトミ〉さん、三人の時には多少砕けても構いませんが、〈タロ〉様は敬って下さい」


「ごめんなさい、〈クルス〉さん。気をつけます」


「〈サトミ〉さんの言うとおり、〈タロ〉様は本当に変わったと、私も思います。

 自分から話しかけられますし、会話の内容もまるで大人のようです。

 一度に十歳くらいお年を取られた感じです。

 教会の〈ウオィリ〉教師も、勉強への意欲が違うし、理解力が段違いに上がったと仰っている様です」


「やはり、お二人ともそうお思いなのですね。 私の思い違いではありませんね。

 兵長さんも、〈ウオィリ〉教師も仰っているということは、周りの人の感じ方も一緒と言うことですね」


「そうなんです。〈サトミ〉の家でも、みんなビックリしてます」


「それと〈サトミ〉さん、〈タロ〉様は、階段から落ちられたのですか」


「そうなんです。

 〈サトミ〉がお父さんに聞いた話では、二十日ほど前に落ちられて、五日ほど目を覚まさなかったって言ってました。 頭を強く打たれたらしいです」


「それは大変なことがあったのですね。 でも、元気になられて良かったです。

 それにしても、頭を強く打って、悪くなる話は聞いたことがありますが、良くなる話は聞いたことがありませんね」


「〈アコ〉様の仰やるとおりですが、子爵家の重臣の中では、

 ― 頭部の激しい痛みが引き金になって、稀なことだが一気に成長された ー 

との結論になったようです」


「そうですか。 激しい痛みで一気に成長ですか。

〈タロ〉様、痛かったでしょうね。 お可哀そうに」


「〈アコ〉様、〈クルス〉が思うところ、これは私達にとっても良い兆しだと思います。

 正直に言いますと、以前の〈タロ〉様へ嫁ぐのは大変不安でした。

 あのような感じでは、子爵家の将来も、結婚後の生活も、ともに上手くいかない可能性が高いと思っていました。

 でも今は、何とかなるのではと思っています」


「〈サトミ〉には子爵家の将来は分かんないけど、〈タロ〉様とちゃんと喋れるようになって良かったと思うよ」


「〈クルス〉さんの言うとおりね。

 ダンスの練習の時も、前のように人形みたいでは在りませんでしたし、あの手遊びは楽しかったですわ」


「そうでした、楽しい遊びでしたね。

 結婚した後も、あんな風に楽しかったら良いですね。

 そこで、提案なのですが、よろしいでしょうか」


「提案ってなに。楽しいこと」


「〈クルス〉さんの提案を聞かせてください」


「数年後に私達は、一人の男性の正妻と側妻という関係になる運命です。

 複数の妻がいるため、妻同士の争いが起こる可能性が大きくなることは、ご承知だと思います。

 しかし、出来れば争いなど無く、暮らして行ければ良いと思っております。

 そのため、反目し合うのでは無く、互いを尊重する、取り決めを結ばせて頂ければと考えています。

 どうでしょうか」


「〈サトミ〉は賛成だよ。争いたくないもの」


「〈クルス〉さん、私も仲良くしたいわ。

 妻同士が争うと本当に酷いことに成るのは、身に染みて分かります。

 ただ、私には夢があります。 

 いつかお二人にお願いしたいと思っていたのです」


「エッ、〈サトミ〉に夢のお願い」


「取り決めと関係があるのですか」


「少し違いますが、関係はあります。

 思い切って言いますが、寂しい話ですが、私にはお友達が一人もいないのです。

 だから、もし良ければお二人にお友達になって欲しいのです。

 お友達と色んなおしゃべりをするのが、前からの夢なのです。

 一方的なお願いなので、もちろん、断って頂いて構いません。

 どうですか」


「えーと、〈アコ〉様は貴族で、〈サトミ〉達は平民だよ」


「そんなことは全然気にしないでください。忘れて欲しいのです」


「〈アコ〉様、実は〈サトミ〉さんも私も友達がいないのです。

 一緒に過ごしてくれる相手がいないのです。

 こんな二人と友達になっても仕方が無いし、イライラするだけだと思いますよ」


「まぁ、二人ともお友達がいないのですか。それでしたら、なおさらお願いします」


「〈サトミ〉は、お友達になるよ。

 ヘへッ、お友達になってほしいって言われたの初めて。

 うれしいな。

 でも、〈サトミ〉が変なこと言ったり、変なことしても怒らないでね」


「まぁ、〈サトミ〉さん有難う。

 でも、〈サトミ〉さんが、変なことを言ったり、したりするのですか」


「そうみたい。皆が変なこと言ったり、するって、〈サトミ〉のこと怒るの」


「まぁ、可哀そうに。

 私は絶対怒ったりしませんよ。

 だって、〈サトミ〉さんは凄く可愛らしいですもの」


「ヘへッ、〈サトミ〉って可愛いのかな。うれしいな。〈アコ〉様はすっごく色っぽいよ」


「い、色っぽいですか。 でも、有難う。

 それと、お友達だから、様付けは型苦しいわ。

 呼び方は。〈アコ〉ではダメかしら」


「〈アコ〉様を呼び捨ては無理。

 〈アコ〉さんも変だな。

 一個年上だし。〈アコ〉姉さんでどうかな。

 私は〈サトミ〉で良いよ」


「まぁ、〈アコ〉姉さんて、素敵な呼び方ですね。

 妹が出来たみたいで嬉しいわ。

 でも、もっと親しくしたいの。

 〈サトミ〉ちゃんでどうかしら。

 可愛いく「ちゃん」付けで呼び合ったらダメかしら」


「〈アコ〉様、〈サトミ〉が〈アコ〉ちゃんって本当に呼んで良いの」


「ええ、〈サトミ〉ちゃん。そう呼んで下さったら嬉しいわ」


「私は、〈サトミ〉よりもっと問題がある人間なので、お友達にはなれないと思います。

 ただ、取り決めの話をしたように、友達に近い、友好的な関係でありたいと思っています。

 〈アコ〉様それではダメでしょうか」


「いいえ、もちろんそれで構いません。

 〈クルス〉さん有難う。

 お友達は、本当は自然と出来るものだと、私も分かっているのよ。

 ただ、いつもお二人に会えるわけではないので、無理を承知でお願いしたの。

 断られたらどうしょうと、ドキドキしてたわ。

 良かった。

 〈クルス〉さんとも友好関係になれたから、私の呼び方は、〈アコ〉でどうかしら、同い年だもの」


「私も〈アコ〉様を呼び捨てには出来ません。

 〈アコ〉さんでどうでしょう。

 私は〈クルス〉と呼び捨てが良いと思います」


「分かりました。

 最初は〈アコ〉さんで良いですよ。

 私も最初は〈クルス〉さんって呼ばせて頂きます」


「最初? ずっとだと思いますが、分かりました」


「お二人とも私の望みを叶えて頂いて、本当に有難うございます。

 それと、〈クルス〉さんの取決めのお話を遮ってしまって、申し訳ありません。

 〈クルス〉さん、取決めはどう言うふうにしましょう」


「〈アコ〉さん、すでに友好関係になることを約束して頂いたので、取決めをしたのも同然です。

 お互いを尊重し合うことが重要だと思いますので、これから、三人で話し合っていけたら良いと思います。

 私の言った取決めはすでに結ばれたと考えています」


「〈サトミ〉は良く分かんないけど、二人と仲良くしたいな。いっぱい、お話もしたいな」


「〈クルス〉さん、分かりました。

 お話しをすれば良いのですね。

 先ほども言いましたが、私は前から皆でお話をしたいと思っていました。

 今からしましょうよ。

 何のお話をしましょう。

 ダンスのお話。それとも美味しいお菓子のお話が良いのかしら」


「〈サトミ〉はお菓子のお話が良いな」


「少し話が逸れています。

 でも、友好関係を築くには、それも良いのかもしれませんね」


「決まりですわね。

 お菓子の話を始めますわよ。

 《ハバ》の町の名産のお菓子よ。そのお菓子は・・・」


 ― それから、三人は少し遠慮勝ちに、でも、時が経つのを忘れて色々なお話をした。 〈アコ〉の従者に、「明日早朝に立つのでもう寝なくてはいけません」と注意されるまで ー


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