第7話

「私ら、もう出禁だよねー」

「また病院の口コミサイトに書かれるかも」

「銀行にもクレーム入れてきたんだけど相手にされてないみたい。上司もこの間対応して懲りたし、それでモンスタークレーマー認定だからなんとかなったわ」


 真由美と美樹はせいせいしたようだ。美樹の娘は黙って歩いている。一度聞いたが、美樹は一年ほど引きこもりだったようだ。詳細は知らないが今は普通に通っているがその時の苦労話はいっさい美樹は言わなかった。


 今普通に学校に通えってるからいい、ということなのか。


 わたしは美樹に家まで送ってもらった。

「またなにかあったら連絡するわ……」

「美夜子も元気で。間違っても首括らないでね」

 真由美は朝、あんなに泣いていたのに葬式での大爆発で線がプツンと切れたのか、ブラックジョークがいつものようにこぼれた。


 美樹も笑っている。美樹の娘は笑っていない。


 車が去っていった。後ろに手をやって中指を突き上げた。


 部屋に戻ろうとするとドアが開いていた。鍵かけていなかったっけ……?

 いや、電気もついているし下駄箱に見慣れた大きな靴。


 リビングにいた。

「お、黒のワンピ似合うじゃん」

 翔太が肌着とボクサーパンツでソファーにその大きな体をだらけさせアイスクリームを食べていた。

「しばらく無理じゃなかったの」

「息抜き」

 はぁ、と私はため息しかつけなかった。あ、塩を巻くの忘れた。玄関に戻ろうとすると後ろから翔太に抱きつかれた。


「黒のワンピ、セクシー。黒のストッキング……ほつれてる。ねぇ、ストッキング破るプレイしたい」

 なによ、そのプレイ……対応としたらそのまま床に押し倒されてストッキングを無理やり破かれ……。


 玄関という場所、黒ワンピ、黒ストッキングのほつれにいつも以上に翔太は興奮していた。


 私はとにかく床にあたる背中が痛かった。


 私たちは行為を終えて先に翔太がシャワーを浴び、その後私はシャワーを浴びた。頭も体も洗ってスッキリした。


 寝室に行くと翔太はボクサーパンツを履いてリラックスしていた。このままお泊まりコースなのだろう。

「出たか」

「うん」

「すっきりしたやろ」

「まぁね」

 私は彼の横にいくと彼は左腕を差し出してくれてそれを私は、枕にする。たくましい彼の左腕。厚い胸板。太い首、浮き出る血管。ドキッとする。


「葬式行ってたんか」

「うん……塩でわかった?」

「線香の匂いと喪服で」

 黒色のワンピと黒色のストッキングを見て興奮していたくせに、喪服だとわかってはいたのね。


「……もしかして大崎奈々子の葬式か」

 私はびっくりした。翔太の口から奈々子のフルネームが。でもそれは時の問題であるとは思っていた。


「そうよ」

「……年が同じだから同級生か」

「うん、高校の時の友達」

「ふうん」

 彼が聞きたいことはわかってるし、しばらく会えないとか言ってたのに私のところに会いに来た理由が分かった。


「大崎奈々子のことについてなんか知ってることはあるか?」

 さっきまで盛って、私に甘え、激しく愛してくれた翔太は全く目付きが変わった。

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