修羅場の葬式

第6話

 案の定、通夜は修羅場と化した。まず持って美樹が運転する車で真由美も乗り合わせた。車の中には私たち以外にも美樹の娘が乗り合わせていた。集まりの時にも良く来ていて小学五年生の彼女は大人しく座っていた。


 でも流石に娘も同席かと思ったら夫が見てくれなくてさーと美樹は笑いながらいう。

 真由美は意気消沈している。いつものメイクの濃さは全くない。


「わー、これ入れるかしら」

 美樹が運転していた車が減速しはじめた。遠くからわかるが葬儀場の前には何人か、マスコミが駆けつけ、小学校にあった取材車もたくさん。


「何があっても奈々子のことは話さないようにしようね」

 真由美が私の右手を握った。美樹は娘の顔を庇うように、私たちもできるだけ伏せた。

 シャッターが大量にたかれ眩しかったし、何かレポーター達が叫んでいたが無視をした。私たちが何をしたのか? わたしたちに聞いてどうなるの。

 私たちが知りたい! 奈々子がなぜ……って。


 葬式は家族葬に近いが、美樹が奈々子の家族と繋がりがあったおかげで私と真由美も参列できた。

 中はもう地獄と修羅場。先に奈々子の両親と親族、奈々子の夫と子供、奈々子の夫の親、親族達が揉めていた。


「おたくの娘が、夫以外の男と死んだなんて……なんて恥晒し!」

「申し訳ありません」

「こないだも学校のPTAで倒れて……恥ずかしいったりゃあらしない!」

 奈々子の両親にヒステリックに叫ぶのは夫の母親であろう。夫は黙ってはいるがなんとも言えない顔をしつつも残された子供達2人のそばに寄り添っていた。子供達はずっと泣きじゃくっている。


 奈々子のお母さんは何回か見たことがあり、奈々子に比べて気さくで明るかったが言われっぱなしでもう頭が下がってばかりだ。謝って謝って……娘が死んで一番辛いだろうに。

 親族の1人が私たちに気づいて場を取り繕おうとしたが……。

「姉さんも姉さんよ! 奈々子ちゃんをあのまま逃して離婚させてればこんなことにならなかったのよ!!!」

 これまた奈々子のお母さんが女性に言われているが、姉さんということは奈々子のおばさんだろうか。


 ……そうだ、2年前。突然メールが来たっけ。奈々子から。

「しばらく夫から逃げます。子供たちと」


 夫は見た目からして優しそうな人でエリートサラリーマンであったが、最低なモラハラ野郎だった。最初は奈々子から夫からこんなことを言われてさ、とサラッと発言をした瞬間、それを聞いてた私と友人一同でありえないでしょ、と言い放つと奈々子は顔が青ざめた。いや、私たちが取るリアクションである。その後彼女は泣きながら色々されたことを話すととんでもない男だったと。


 そしてそのあと奈々子の旦那をバーベキューで呼んだら尚更彼の悪態は露呈した。

 最初は良き夫の姿を見せていたが、だんだん本性が現れた。わたしが奈々子に焼けた肉を食べなよ、と促して彼女がたくさん皿によそうと夫がやってきて

「おい、やっぱりお前は一人っ子だな。まずひとのをよそってからだろ」

 と発言した。それを聞いた真由美がすかさず切れて

「は? なにそれ。一人っ子関係ないわ」

 と。普段は男性に関して免疫がなくて自分から声をかけられないのに、この時はカチンと来たのか大声を出した。

 美樹も夫に対して嫌味な顔をした。


 それ以降、夫は集まりに来なくなった。


 今も奈々子の夫はいい顔をしている。彼の親達は奈々子の親達に狂乱してるが。

 義親達も奈々子を執拗以上に干渉し、いじめ抜いてきた。

 美樹や真由美の職場にもわざわざ赴き声をかけてきたりして迷惑だったらしい。SNSで名前を検索してチェックしてるから気をつけてね、と奈々子から聞いたこともあった。


 実際SNS自己顕示欲満々な真由美のSNSは義母に毎日チェックされて、数回ほど病院のネットの口コミ掲示板に明らかに義母の書き込みがあってあまりにも悪質だったため、病院も真由美に同情して消してもらったというのは奈々子は聞いてないようだが私は知っている。


 そんな中で奈々子は子供を連れて逃げたのだが、市役所側が拒否をしたため逃げ遅れ連れ戻されたのだ。

 これも真由美から聞いたのだが奈々子は今までされたことや言われたことを全部書いたものを提出をしたどころか、子供を出産して子供の健康診断の際に何度も保健師に夫と義父母のモラハラを訴えていたのにも関わらず……。


「大変申し訳ありません、お見苦しいところを……宜しかったら奈々子と会ってください」

 夫はしおらしくわたしたちに歩み寄ってきた。私たちを見て少し嫌そうな顔をしてたがいい夫を演じきってた。腹が立つ。そばに子供達がいるからことを荒立てたくない。


 私たちは奈々子の眠る棺まですすむ。そして遺影はいつ撮った写真だろうか。ぼやけた無表情の彼女の写真であった。


 母になると写真は撮られなくなる。

 遺影でさえも彼女は雑な扱い、いつもの家族の扱いもわかるものだった。

 棺の中は本当に奈々子なのだろうかという疑問しかなかった。全身ぐるぐるの白い包帯で……。

 そういえばニュースでは全身を強く打ち、との表現があった。そして崖からの転落。包帯の下の状態はもう想像を絶するものだろう。

「本当に、奈々子なの……」

 美樹は膝から崩れ落ちた。彼女の娘は遠くにいたが、真由美も連鎖するように泣いた。

 私は頭が真っ白になった。その時であった。


「あんたがっ、あんたが、あんたらがっ奈々子をこうさせたの!!!! あんた達と家族にならなかったら奈々子は幸せだった!!!」

 真由美が夫や夫の両親に対して大きく泣け叫んだ。


「まっ、なんてことを!!!」

 義母がめくじらを立てて応戦する。奈々子の夫は制止させる。

 美樹も立ち上がって

「いくら今回のことが同乗者の責任の事故であっても……奈々子に対する日頃のあなた達の態度は許せませんっ!! この事故がなくても奈々子は死んでた、いや……もう心は死んでいたわっ」

 と言い放った。2人がこれほどまでに奈々子のことを……私は何もいえず、でも同意見だ。奈々子の夫と義親を睨むが下の方を見ると小さな子供達が怯えて泣いている。


「もうお帰りください!!!!」

 とうとう奈々子の夫は声を荒げた。そして私たちは外に出ることにした。


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