第3話

 私はこれは本当なんだと、事実なんだと震えた。その写真はぼやけていて足元には子供が写ってるからどこかのママ友とかが持っていた写真なのだろうか。

 昔は黒上のロングでゴスロリとまではいかないがお人形さんみたいな、どちらかといえば市松人形なんだが、子供が産まれてからはバッサリ切ってしまってショートにしてしまったのだ。

 彼女は面長だからショートは似合わないし、宝塚で言えば男役系の顔だし、かといってそめなかったからますます男っぽくなってしまったなと心の中で思っていた。しかもメガネをかけているから尚更。


 そんなことは言わないけど私や友達の集まりでは頑張って化粧してるね、と真由美がそうやって指摘してみんなが笑ってたのを覚えている。確かにそうだったかもしれないけどなんで笑ったのだろう。


 きっと自分でなく他人を吊し上げることで自分の欠点を隠す、愚かさを消す、真由美にとっては独身で彼氏もなし、歯科医とは言ったものの歯科医ではなくて歯科医院の受付だから安月給なのに見栄きってインスタ映えする高価なものを買ったり、ブランドの珈琲店で飲んだり、ランチをしたり、テーマパークに行ったり。


 ほとんど既婚子持ちの中で自由で身軽でいいでしょうアピールして寂しさを紛らわせているんだろう。


 でも朝イチからこんなど田舎の主婦の死を取り上げるのだろう暇なのかしら。

 ……そういえばあの釣り上げられた車、奈々子のでは無い。夫は確か高級車。あんな安物の車は乗らない。誰か友達? 家族? レンタカー?



『大崎奈々子さんは助手席に乗っており、運転していたと思われる男性は身元不明、交通システムによるとこの車が前日に近くのホテルから出て行くところが記録されており、二人が乗っていることが映し出されていました。この二人の関係性は未だわかっておりません』



 そういうことだったのか。隣にいた男、夫ではない男、父親でもない、男兄弟もいない彼女。


 誰なの。日本人全員、このニュースに釘付けだろう。


 他のチャンネル、そしてWEBニュースが一人の田舎町の専業主婦の謎の男との死に騒然となっている。

 誰なの、誰なの。


 なんか奈々子の家族の元に行くのがとても修羅場にしか思えない。


 子供もまだ小さいのに。自分の親だけでなくて相手の親も、そして夫……とても真面目そうな人だったけど……どんな思いでいるのだろうか。


 私は用意してあった服ではなくて箪笥から喪服はないか探してみる。


 ……あった……。最後に行ったのは親戚の法事だった。もう行きたくはないけど足の悪い父の代わりに運転していかなくてはいけなくて仕方なく行った。この喪服も安いものだが昔のものがサイズが入らなくて慌てて買った。一眼見ても安物だなんてわからないのはよかった。黒だったらなんでもいいって若い頃思ってたけどそうはいかないってわかってきた。年を重ねると。


 まぁ親戚の集まりだし、友達同士でだとバレてしまうであろう。

 親戚の集まりでは私がまだ結婚しないのかとか彼氏はいないのとか仕事は何してるとか、あと従兄弟たちの子供たちのうるささ、孫はまだかとかこんな年で産んだら何たらかんたら。

 従兄弟たちも二人産んでも3人目は、4人目は……


 うざかった。


 結婚してもしてなくても同じではないのか。喪服を見ただけで嫌な言葉が駆け巡る。


 取りあえず着て髪の毛もまとめて化粧もそこまでしなくていいだろう、マスクもするわけだし。


 メールがまた届いていた。……翔太だ。

『わるい、今夜は無理。』

 彼は刑事だ。私の恋人。少し年上だ。きっとこういう時は事件だろう。まさか奈々子の件でなのか。管轄も県内だし……て絶対に彼は担当した事件や事故に関しては口を割らない。真面目すぎる。


 多分この後もメールは返ってこないとわかってるから返さない。


 スマホを置いて大きな鏡の前で姿を映す。上にネイビーのコートを羽織る。


『通夜が今夜あります。会場は……』

 と連絡がくる、今夜……か。

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