第4話 目覚め

意識を覚醒させてから、おそらく3カ月ぐらい経ったと思うが、俺には劇的変化が現れていた。

まず目が見えるようになってきた。ぼんやりとしているが、周りの風景や、特に至近距離まで近づいてくるママの顔がしっかりと認識できるようになっていた。

また、全く自分の意思では体を動かす事が出来なかったのに、今では手足を思い通りに動かす事が出来るようになっていた。

相変わらず、体全体を動かしたり、移動したりは出来ないが、以前に比べると雲泥の差だ。


「あ、あ」


言葉も少しだが発することができるようになったので、少しだが意思表示を出来るようになっている。

周りを見るとそれなりに立派な部屋である事がわかる。以前魔界で住んでいた居城の部屋とは趣きが違うが同レベル以上の部屋であるように思える。

天界が、俺の想像を超える生活水準なのでなければ、恐らく、俺の家は標準より裕福なのではないだろうか。


意識がはっきりしてきたので、魔族の時に使えていた魔法を使おうと何度も試みてみたが、何故か発動しない。言葉を上手く発せられないからなのか、赤ん坊の為魔力不足なのかよく分からない。


「おぎゃー、おぎゃー。」


「あらあら、ファルエルちゃんどうしたのかしら。お腹が空いたんでちゅか?おっぱいあげますね。」


「んぐ、んぐ。」


「オムツも一緒に変えましょうね。」


俺は、おっぱいで生きている。それを理解してからは、抵抗感は無くなり、生存本能に身を任せて、おっぱいを腹一杯飲むことにした。

おしりをふきふきされて、オムツを替えられる事も諦めの境地をさらに通りこした段階でむしろ快適になってきた。羞恥など遥か昔に飛び越してしまった。

今の俺に出来ることはおっぱいを飲んで寝ること。それだけだ。

ママに毎日世話をされているせいか、ママへの愛情のようなものも感じるようになってきた。

ママがいれば不思議と安心感が生まれ、ママがいなければ何とも言えない不安感に襲われるようになってきた。

ママが天使なのはもう理解できた。そしてパパも天使だ。つまり俺は天使として生まれ変わったという事はもう理解出来ている。正直意味がわからないがどうしようもない。今更死ぬわけにもいかず、悪魔に戻れるわけでもない。

葛藤の末に俺は自分を納得させる事に成功した。天使として生まれたなら仕方がない。俺がこの天界を制覇するしかない。魔界の王は魔王様だ、それでは天界の王は誰だ?大天使が偉いのは分かるが王かと言われると違う気がする。とりあえず俺は天王を目指そうと思う。天王なんてものがあるのかはわからないが天王になって魔界に凱旋するしかない。

それしかないが、今はそれどころではない。とにかくおしっこが漏れる。


「オギャー、オギャー、オギャー」


「ファルエルちゃんオムツですね。交換しまちょうね。」

俺の今の生活はこの後2ヶ月ほど続いたが、その間に時々ママが外に連れて行ってくれた。

外に行くと行っても抱っこをして家の周りを散歩するぐらいだが、ずっと家の中にいるよりはずっと良かった。

しかも目が大分見えるようになって来たので外の景色もしっかりと見ることができた。

魔界とは全く違う風景がそこにはあった。まず明るい、しかも妙に清々しい。

あまり近くに家がある様には無かったが、何人かの天使には遭遇したが、皆一様に、ママに恭順している様に感じる。

どうもママは結構偉い天使のようだ。

ということはあのパパも多分偉いのだろう。時々やってきて暑苦しいスキンシップを繰り返してくるが、不思議と拒否反応が薄れてきて今はスキンシップを取られても、それほど嫌な感じはしない。

もちろんママへの感情とを比較するとアリと象ぐらいに違うのだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る