第17話未来、教習所に通う(2)

それでも、機嫌良く、教習所に通う

未来。

半ば、先生達は諦めていた。

教習所内で、縦列駐車の練習だった。

今日は、細川と言う、先生だった。


「又、今日も違う、先生なんですね?」


聞き流す、細川。


「はい、じゃあバックで、駐車するので

その白線の枠の中に、駐車して下さい。

ミラーだけだと、不充分なんで、窓を

開けて目視で、確認しながら、やって

下さい」


未来は窓を、開けて見るが、見え無いので

覗いていると、何時の間にか、上半身が

出ていて、ハンドルをお腹で、押さえて

確認していた。


「桜庭さん、お腹でハンドル、押さえるの

止めて下さい」


「だって、見え無いのに~」


「危ないです、もう、そこで止まって!」


先生は必死だった。

未来は、気にして無かった。

こうして、日々やつれて行く、先生達。

それを、聞いては大喜びする、peaceの

メンバー達。

何とか、中での実技が終わり、学科試験

だった。

未来は、一発で合格する。


「じゃあ、仮免許で路上を、走る様に

なります、その前に視力検査をします」


未来の順番が、やって来た。


「桜庭さん、穴の開いてる方向を

言って下さい」


「上、下、右、左」


と、言ってる未来。


「桜庭さん、あまり見えてませんね」


「えっ?私、先生の顔、ちゃんと見えて

ますよ!」


(当たり前だよ!こんな大きい顔、

みんなが見えてるわ、この女は~!)


「出来たら、本試験の前に、メガネを

作っておいた方が、いいですよ!」


「メガネは、困ります!育児の邪魔

です!」


(はぁ?大丈夫か?この女!免許を

取りに来てるんだろう?)


後は、放置する先生。

事務所では


「もう、手の付け様が、無いです、早く

頑張って卒業して、もらいましょう!」


「そうしましょう!」


妙な、団結力が生まれていた。

初の路上運転。

未来は案外、慎重なのでスピードは出さない。

すると、杉本先生が


「桜庭さん、今は何に乗ってますか?」


「えっ!先生は分からないんですか?

車ですよ、車!」


「分かってます!このスピードだと

歩いてるのと、変わりませんよと

言いたかったんです!」


「それは無いですよ!車の方が早いで…」


と、いい掛けると、歩行者に抜かれた。


「ねぇ?他の車にも、迷惑だし、もう少し

スピードを出して下さい」


「は~い」


そして、走っていると、雨が降りだした。

指示機の時は、ワイパーが出せるが

雨の時は、出せない。


「先生、雨ワイパー、ワイパー出して

下さい」


ワイパーを、動かす先生。


「桜庭さん、一人でして下さい」


「でも、そんな二つの車を、同時に

出来ませんよ!」


(はぁ~)


毎日、毎日、未来の話は、メンバーに

とって最高の、ネタだった。


「恭介、未来ちゃん卒業、出来るの?」


「分からない、卒業出来ない方が、本人

にも周りにも、いいと思う」


「恭介、未来ちゃんの車には、サイドに

大きく、未来って書いておけ、覚えて

貰って、みんなに避けて、貰え!」


「おっ!それいいな!未来には、それ位

しないと、危ないからな!本当に来夢と

斗夢が心配だよ!」


「分かる、分かる」


と、大笑いのメンバー。

そして、路上運転をしている未来。


「あそこの、カーブミラーを、見て

車が来て無いかを、確認して曲がって

下さい」


もう、指示機は出していた。

後は曲がる、だけだった。

ミラーを見て、未来が


「来て無いですね、行きます!」


「待って、待って来てます!ほら!」


「あっ、本当だ」


「ちゃんと見ました?」


「見ましたよ!」


「両方ですよ!」


「えっ?両方ですか?私こっちだけ

見てました」


(ガックリ)


違う日は


「今日は、路地の入った所を、運転

するので、歩行者、飛び出しに気を付けて

運転して下さい」


「はい」


順調に走っていた。

すると前に、恭介のお母さんを、見付けた

未来は窓を、開けて


「お義母さん~」


と、呼んで、手を振っていた。

お義母さんも、手を振る。

すると、家の生け垣の枝が、車にザ、ザ、ザっと、こする音がした。


「桜庭さん、運転の練習中に名前を

呼んで、手を振るなんて、もっての

ほかです!庭の枝に、こするわ、全然

駄目ですね!」


「でも先生、夫のお母さんですよ!

無視するんですか?これで嫁、姑に

問題が起きたら、先生が責任を取って

くれるんですか?」


(今は、教習所で練習してる、立場だろう?

何を言ってんだよ!)


と、心の中で叫ぶ、小林。

事務所では


「桜庭さん、卒検行けますかね?」


「………」


「まだ、高速が残ってましたね?」


「みんな、疲れてるみたいなんで、僕が

行きます」


と、一番若い、大川が言った。


「どうぞ、どうぞ!」


みんなの、譲り合いは凄かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る