転生者編 2.図書館

お屋敷っぽい大きな建物があるが、どうやらここが図書館のようだ。規模も大きそうなので、ここならこの世界の常識を身に着けられそうだ。(とりあえず、中に入ってみるか)マサユキは、扉を開け、そっと中に入った。図書館の中は暗い赤色のカーペットが敷いてあって、足音が吸収される。本棚が沢山並んでいて、その中にビッシリと本が詰まっている。すごい量だ。それに2階もあるみたいだ。奥の方には司書さんらしき人がいて、他に本を読んでいる人がちらほらいる。まずは司書さんにここの利用方法を聞いてみることにした。魔法使いだろうか?藍色の帽子の下から銀色の髪が見える。今は本を読んでいるみたいだ。

「あの、すいません、ここに来るのは初めてなんですけど、利用方法を教えてもらえませんか?」

「はい!えっとあの、ここに置いてある本は自由に読んでもらって構いません。ですが、本を持ち帰ることはできません。それと読んだ本はあった場所に戻して下さい、片付けるのが大変ですので・・・。」

話しかけられて驚いたのか、少し慌てた様子ではあったが説明してもらえた。

「分かりました、ありがとうございます。」

マサユキはお礼を言った。なんだか街中で見かける人と、雰囲気が違っているような、そんな気がした。


図書館を歩きながら、どんなジャンルの本があるのか、調べてみることにしたた。歴史や文学、物語などがある中まず目についたのは、この世界に暮らす様々な種族について書いてある、図鑑のような本を見つけた。やっぱり人間以外も存在するようだ。獣の特徴を持つ獣人族。魔力の保有量が多い魔族。力の強い鬼族。自然に生きる精霊族など、ここに載っているもの以外にも、色んな種族が存在しているみたいだ。

(これはケモミミ娘を探すしかない!)

次は今いる場所の地理的情報を求めて、地図を探すことにした。見つけた、これは地図帳だろうか?今いるのはローヌ大陸という場所で、主にヒト族が暮らしていると書いてある。ローヌ大陸には、メルドの都以外にも大きな都市があるそうだ。貿易港エスナ。大陸の1番上にある街で、他の大陸と船でつながっているようだ。ここに行けば、他の大陸に渡るなら、このエスナという街まで行けば良さそうだ。あと必要な情報は、やっぱり転生についてか。こんなの無さそうだよな。そんなことを考えていると、すぐとなりに魔法についての本がまとまって置いてある場所があった。

(魔法って、俺にも使えるのか?)

初心者用魔法の本というのを手に取ってみた。中に書いてあったのは、魔力についての簡単な説明と、初級魔法の呪文がいくつか書いてあった。これ、俺にもできるのかな?そこで本棚の影から誰かがこちらを見ているのに気が付いた。誰だろう?

「あの、何か用ですか?」

「ひぇ、えっとその・・・」

受付にいた司書さんだった。

「魔法に興味があるのかなって、それ初心者用ですし。」

「魔法のことはあまり知らないんですけど、俺にも使えるのかなーと思って。」

「もしよければ私が教えましょうか?」

突然の提案に驚くマサユキだったが、魔法には興味津々というか、やっぱり憧れる。まだ魔法を見たことはないが、存在することにはなんとなく気づいていた。転生前は魔法はゲームやアニメでしか登場しなかったので、やはり憧れてしまう。この提案、受けちゃってもいいのかな。でも、他に魔法を教えてくれる人なんていなさそうだし、お願いしてみるか。

「お願いします。」

「決まりですね、こっちに来てください。」

マサユキは持っていた本を本棚に戻して、司書に付いていった。

「今更なんですけど、俺の名前はマサユキです。司書さんの名前は?」

「私の名前はシエラです。」

なんというか、とても可愛いらしい名前だと思った。


「シエラさん、この部屋は?」

「ここは図書館の倉庫です、ここにマサユキさんの魔力を測る道具があるんです。魔法を始めるならまずは、自身の魔力を測って、それから自分に合った魔法を勉強するんです。」

連れて来られたのは1階の奥にある部屋。古くなったイスや机、本棚などが置いてある。本当にただの物置だ。

「マサユキさん、これです。」

シエラは、水晶玉の様なものを持ってくると、机の上にそれを置いた。

「この水晶にマサユキさんが魔力を込めるんです。ほら、こんな風に。」

シエラは水晶玉に両手をかざして、目を閉じた。すると水晶玉の中で、火が燃え始めた。すごい!でもこれは魔力を測っているだけなんだよな。魔法ってどんな感じなんだろうか。

「私は火の魔法が得意なので、中に火ができるんです。さあ、マサユキさんもやってみてください。指先に見えない力を集めるイメージです!」

マサユキは、水晶玉に両手をかざすと目を閉じた。なんだか緊張する。深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。指先に魔力を集中させる。すると、水晶玉に変化が起きた。

「見えましたよ、マサユキさん。」

目を開けると、水晶玉の中に、小さな火の玉ができていた。どうやらマサユキは火の魔法に適正があるようだ。

「やりましたね!私と同じ、火の魔法が使えるようです。」

「俺、火が出せるのか!」

「それでは、まずは火の初級の攻撃魔法からお教えしましょう。とりあえず、外に出てやってみましょう。」

マサユキとシエラは図書館の裏側へ出た。


「魔法は、決まった呪文を唱えると使うことができます。試しにやってみますね。」

シエラは懐から小さな木製の杖を取り出すと、呪文を唱えた。

「ファイアボール。」

すると、杖の先に赤い火の玉ができた。サイズはテニスボールくらいだが、離れていても熱を感じる。シエラは火の玉を消した。

「火の魔法に適正のある人なら、この魔法は誰でも使うことができるはずです、マサユキさんもやってみてください。」

「すごい、俺もやってみます。あ、シエラさん、俺杖持ってないです。」

「では、私の杖をお貸しします。」

マサユキはシエラから杖を右手でしっかりとつかむと、目を閉じて魔力を集中させた。

「ファイアボール!」

すると杖の先に、火の玉ができた、だが。

「あれ?」

「おお、上手くいきましたね!でもなんだか」

「小さいですね、俺のファイアボール」

火の玉はゴルフボール程度のサイズだった。

「こ、これが、保有魔力量の差です!魔力は生まれた時から大体決まっていて、あとから増やすことは難しいと言われています。」

「つまり俺って、魔法向いてないのか・・・」

マサユキは落ち込んだ。

「で、でも、魔法の威力は保有魔力量だけでなく、その人のテクニックでも変わるんですよ、だから安心してください!」

マサユキはファイアボールを覚えた。

「でも、魔法を使うなら、何かしら杖が必要になりますね。」

ここでマサユキは思いついた。

「シエラさん、質問なんですけど、杖無しで魔法を使う事ってできないんですか?」

「一応は可能ですが、とてもむずかしいです。杖っていうのは、魔力のコントロールに大きく関わっています。杖なしでファイアボールを使おうとしても、まずファイアボールがうまく作ることができません。仮にファイアボールができても、相手に飛ばして攻撃するのが困難です。」「魔法を使うのに杖は必須なんですね。」

どうやら素手で魔法を使うのは無理そうだ。少し憧れてしまうが、魔法を使う時は大人しく杖を使おう。それと、魔法が自分にはあまり向いていないことも分かったので、戦闘スタイルは剣にしようと決めた。マサユキはシエラに杖を返した。

「シエラさん、今日は魔法を教えてくれてありがとう、とても勉強になったよ。」

「いえいえ、私も魔法に興味を持ってもらえて、とても嬉しいです。これからも魔法について気になることがあったら、ぜひ相談してくださいね!」

マサユキはシエラにお礼を言い、宿へと戻ることにした。


空はオレンジ色に染まり、もう陽も暮れそうだ。これからどうしていこうかな。この世界に来てから、憧れのゲームの世界に入ってきた様な感覚だが、これはゲームじゃない。俺はあのとき確かに車に轢かれて転生してしまった。とりあえず、これから餓死しないためには働いてお金を稼がなければいならない。それと明日はお風呂にも入りたいな。これからの生活に不安を感じると同時に、すこしワクワクしてきた。今日はゆっくり休んで、ぐっすり眠ろう。マサユキは宿に着くと、ベッドですぐに寝た。

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