異世界日常
@maylin3
転生者編 1.はじまり
「早く起きなさい、遅刻するわよ!」
母親に起こされて気が付いたときには時計は7時45分を指していた。高校生になって2年目の俺は、そろそろ進路について考えなければならない時期だった。しかし今はそれどころではない、学校に急いでいかなければ!起きて早々に着替えて俺は朝ご飯を食べずに家を出た。家から学校までは電車で通うほど遠くないので、自転車で通っている。交差点に出たとき、信号は青く点滅していたが、成績に遅刻をつけるわけにはいかないので、急いで交差点を渡ろうとした。その時すでに、視界はやけにゆっくりとしていた。なんだろう、この感覚?視界の端から老人の運転するプリウスが、もの凄い勢いで走ってきているのに気が付いた。車側の信号機は赤く点灯しているので、老人がブレーキとアクセルを踏み間違えたのだろう。いや、今はそれどころではない、このままでは轢かれてしまう!頭の回転は速いが、体は思うように動かず、もう後戻りはできない。俺、こんなところで死ぬのか・・・?体に強い衝撃が走ると同時に、俺の意識は消えた。
なんだか身体が冷たい。
「君、大丈夫かね?」
声が聞こえて、目が覚めた。目の前には白衣を着た茶髪の男性が、荷物を背負ってこちらをのぞき込んでいた。
「あの、あなたは?」
「私はメルドの研究員だよ、この遺跡の調査に来たんだ。それで、君はどうしてこんなところに?」
俺は確かに轢かれたはずだが、体には何の痛みも無い。俺は死んで転生したと考えるのが妥当だろう。そして言葉は通じるが、ここは異世界の遺跡のようだ。遺跡の中は文字の書かれた石板があったり、それを照らすように光る石が地面や壁に埋まっている。。しかしどうしよう、正直に起きたことを話すのはなんだか良くない気がする「僕も遺跡に興味があって来てみたんですけど、ここに来た時に眩暈がして、倒れていたみたいです。」
とっさに嘘をついてしまったが、仕方がない。転生してきました!はマズいだろう。
「そうだったのか、ここはモンスターが現れることもあるから、気を付けたほうがいい。」
そういうと研究員は、荷物の中から白く輝く石の入った瓶を取り出し、振り始めた。なにをしているんだろう?しばらくすると、中に入っている石が青く輝き始めた。あの人は何をやっているんだろう?それに光る石なんて、見たことないぞ。
「やはり魔力反応があるな。」
研究員はそう呟くと、瓶を鞄の中へしまった。今魔力って言ったよな?この世界には魔法があるってことか!?ワクワクしてきたぞ。でも困ったな、これからどうしようか。やっぱり街へ行って、これからどうやって生きていくのか、考えないとだよなぁ。
「おじさん、メルドの街へはどうやって行けばいいの?」
「この遺跡を出てまっすぐすすめば街道があるだろう。そこを右に進めばいい。それとおじさんじゃない、ロウドだ。」
「ありがとうロウドさん、それと俺の名前はマサユキです。」
マサユキは遺跡を後にした。
遺跡の外には森が広がっていた。豊かな自然の香りがする。マサユキは都会ではなかなか味わうことのない光景に少し感動した。まずは街に向かいたいので、ロウドに言われた通りにまっすぐ歩いていくことにした。森の中には、興味深いものが沢山あった。木の根元に光るキノコが生えていたり、聞いたことのない鳴き声も聞こえた。10分ほど歩いていると街道に出た。広大な草原が広がっていて、太陽は徐々に昇っているように見えた。まだ朝方なのだろう。ロウドに言われた通り右に進むことにした。数分歩いていると、こちらに向かって歩いている3人組の姿があった。でっかい剣を背中に背負っている男と、黒いローブを着た魔法使いっぽい女性、鎧を着た背の高い男という、いかにも冒険者らしい組み合わせだ。異世界すげぇ!隣を横切ろうとしたとき、変な視線を感じた。なんだろうと思ったが、自分の姿をよくよく考えてみると、高校に着ていくはずだった制服を着ている。そりゃあ変に思われるよな。街についたら何かこの世界に合った服を購入しよう。そんなことを思いながら先へ進んでいくうちに、街が見えてきた。
異世界すげぇ!マサユキはついにメルドの都に到着した。街の奥に城壁が見える。ここは城下町だろうか。謎の果物を売っている露店があったり、焼き立てのパンを売っているお店があったり、人通りも多くかなり賑わっている。しかしこれからどうしようか。ここがどんな世界なのかなんとなく分かってきたが、服を買うお金も無いし、食べ物を買うお金も無い。働く必要があるな・・・。転生前はこれからの進路をどうするか悩んでいたが、図らずとも就職という選択に決定したようだ。まずはお金の稼ぎ方から探さないとな。マサユキは街を歩く同年代くらいの青年に声をかけた。
「あの、すいません、手っ取り早くお金を稼げそうなところを知りませんか?」
「見慣れない格好をしているな。この辺で手っ取り早く稼ぐなら、ギルドの依頼を受けるのが1番良いと思うぜ。」
学校の制服が目立っているようだ。マサユキはギルドの場所を聞くと青年にお礼を言い、ギルドへと向かった。ギルド、どんな場所なんだろう?
ギルドの外観は、石作りの大きな家にギルド紋章の看板を付けたという感じだ。ドアは解放されっぱなしで、誰でも出入りは自由のようだ。とりあえず中に入ってみよう。中は受付と思われるカウンターと、依頼書が張られているボード、そして冒険者たちが飲み食いする大きなテーブルが並ぶスペースがあった。まだお昼前なのか、食事している人はいない。まずは、依頼の受け方をカウンターで尋ねることにした。「依頼を受けたいのですが、どうすればいいんですか?」
「依頼を受注されるのは初めてですか?でしたらまずは、ギルドに冒険者登録する必要があります。登録費用はかかりませんので、ご安心ください。」
(よかった、登録にお金がかかるんだったら詰んでたな)
「こちらの用紙に内容をご記入ください。」
(紙とペンを渡されたがこの世界の文字は書けないぞ・・・)用紙に書かれている項目は、簡単なものだった。項目は名前、年齢、性別、出身地、それと主な使用武器の5つだけだ。(ん?文字も読み書きできるぞ、助かった・・・)しかし出身地と主な使用武器って、どうしようか。受付のお姉さんに、まだ武器は使ったことがないことを伝えた。
「武器未所持と書いておいてください。」
なんだかゆるいような気もするが、しかしそれなら大丈夫だな。出身地はメルド(この街の名前)にして提出した。
「はい、承りました。それでは、こちらがギルドカードになります。依頼を達成されると、その功績に応じて階級が上がります。」
階級システムがあるようだ。E、D、C、B、Aの5段階で、俺は今Eランクになった。ついに俺も冒険者か、笑い有り、涙有りのワクワク大冒険が始まる!しかし今はそんなことより、依頼の方が優先だ。マサユキは受付のお姉さんに、依頼の受け方を教えてもらった。
どの依頼を受けようかな。Eランクの新人ということもあって、受けられる依頼に制限はあるが、それでも数はまあまあある。キノコの採集やスライム退治、荷物運びがあるが、とりあえずキノコ採集の依頼を受注することにした。場所は俺が来た遺跡方面の森とは反対方面の街の東側にあって、湖を囲むように木々が生えている森らしい。マサユキはキノコを集める用のカゴをギルドから受け取ると、すぐに森へ向かった。
森の入り口は、街の一番外側にある家から10メートルほどしかない。この森はモンスターも少なく、比較的安全な森らしいので、きっとこれくらいの距離間でも大丈夫なのだろう。森と言っても、湖までは人が歩けるくらいの道があるので、ここを通りながら目的のキノコを探していく。入って早々に、目的のキノコを発見した。ツヤのある赤色の大きな傘が特徴の、レッドキノコだ。サイズは握ったこぶしくらい。すごく安直な名前だなぁ、と思いつつ、1つ1つカゴに入れていく。これを10個ほどギルドへ持って帰れば、報酬がもらえる。(この感じなら楽勝だな)採集は順調に進んでいた。キノコが7個ほどあつまった時に、事件は起こった。
「誰か助けてくれ~‼」
助けを求める男の声が聞こえた。マサユキはカゴを持ったまま、声の聞こえる方へ走った。道を少し外れたところに、スライム3体に囲まれている涙目の男がいた。自分と同い年くらいだろうか?しかしそれどころではない、あのままでは食べられてしまいそうだ!マサユキは武器を持っていないので助けることができない!
「頼む!なんとかしてくれ!」
(て言われてもなあ、武器持ってないんだし)そこ男の後ろに落ちている鉄製の剣に目が付いた。(あれだ!)マサユキはカゴを置いて走りだした。剣をサッと拾うと、男に当たらないように、スライムたちへと切りかかった。ぶしゃあ、とスライムなのに意外と切れる。切られたスライムは溶ける様に消えてしまったと。同時に、スライムの破片を落とした。どうやら1体倒せたようだ。相手を倒すと、アイテムを落とすみたいだ。残りの2体も同じようにズバッと倒していく。そして、男を襲っていたスライムは全て倒した。(ふう、なんとかなったな)マサユキにとって初めての戦闘は、人助けとなった。
「ありがとう、助かった」
「いえいえ、これくらい平気ですよ」
少し格好つけた。やはり人から感謝されるのは、嬉しいものだ。マサユキは心の中でグッと喜んだ。男に剣を返すと、お互いに軽く自己紹介をした。
「俺の名前はラルクだ。」
ラルクの服はスライムで汚れてしまっているので、メルドに帰りながらお互いのことを話すことにした。湖まで見に行く予定だったが、それはまた今度にしよう。ラルクは小さな村から街へ出稼ぎに来たという、マサユキと同じEランクの冒険者だ。さっきは依頼でスライム3体の討伐をしようと森に来たのだが、一気に3体も現れて、しかも後ろから不意を打たれたようだ。初心者ギルドメンバーだというのに、なんだかかわいそうだ。マサユキ自身のことは、異世界から転生してきたと言うわけにもいかないので、とりあえずケンジと同じようなものだと伝えておいた。
「そうか、お前まだ初めての依頼だったのか。なかなかやるな!」
帰り道の途中にレッドキノコを3つ見つけたので、自分の依頼も達成できた。達成報告をするため、二人でギルドへと戻った。
ギルドへ戻ると、沢山の人達がテーブルでお昼ご飯を食べている。朝から色々あったが、そんなこんなでお昼になっていた。そういえば朝から飲まず食わずだったことに気が付いた。でもまずは依頼達成の報告だ。
「お疲れ様です、こちらが報酬になります。」
マサユキは報酬として1100ギルを受け取った。初めての依頼達成なので、これでも報酬が上乗せされているらしい。優しいシステムだ。これだけあれば、今日1日は問題ないだろう。ケンジも、スライムを倒した分の報酬を受け取ったようだ。倒したのは俺だけど・・・。
「ラルクはこれからどうするんだ?」
「俺は風呂屋に行ってくる。スライムがまだ残ってて気持ち悪いからな。」
別れを言って、ケンジはギルドを後にした。さっきのスライムが気持ち悪かったのだろう。この世界はお風呂もあるのか、これは良いことを聞いた。さて、俺はこれからご飯を食べようかな。ギルドの中には厨房があって、今は3人で切り盛りしているようだ。てきとうな席に着いて、テーブルの上に置いてあるメニュー表を見ていると、ウェイトレスの女性がやってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
「キノコパスタと水を下さい」
「かしこまりました!キノコパスタと、ドリンクはお水ですね。」
あまりお金があるわけではないので、ドリンクは無料の水にした。ちなみにキノコパスタは150ギルだ。ご飯を待っているときに、周りの声が聞こえてきた。
「あの服どこのだ?」
「新人の冒険者だろう」
「武器は何を使ってるんだろう?」
なんだかかなり目立っている・・・。このあとは服とか買わないとなと思いつつ、キノコたっぷりのパスタを食べ終えた。
空腹を満たして、街の中にある服屋へと来た。理由は何といってもこの学校の制服が目立ってしまう問題を解決するためだ。あと、荷物の入るリュックサックなんかも欲しいな。お店の外観は、ファンタジーな家に、中の様子を見ることができる大きな窓ガラスが付いているといった感じだ。中には女性の店員が見える。扉を開けると、カランカランと音が鳴った。
「いらっしゃいませ。」
店内には店員さんと俺しか居ないみたいだ。なんだか気まずい気がしたが、そんなことを考えているのはきっと俺だけだろう。早速、自分に合う服を探し始めた。予算は限られているので、とにかく安い物ものにしよう。(街で見かける男性が着てそうな服は、と・・・)緑の服に目が留まった。(コレだ!)値段もあまり高くないので、決定した。ああとは緑の服に合いそうなベージュのズボンをテキトウに選んで、試着してみることにした。転生前は服なんて親が買ってきたものを着ていただけなので、なんだか新鮮な感じがする。店内には簡単な試着室があるので、店員さんに頼んでそこで着てみることにした。
「お似合いですよ!」
(嬉しい)
「これ買います。」
マサユキは清算を済ませ、そのまま着ていくことにした。
「この辺りに鞄を売っているお店はありますか?」
「そこの公園の向こう側にありますよ。」
店員さんに場所を聞いて、そのまま鞄を買いに行くことにした。
公園は小さな子供達がおにごっこやおままごとなどをして遊んでいる。球技は無いようだ。あとは、木の棒を剣に見立ててチャンバラをしたりだ。どこの世界も、以外にも子供の遊びは共通しているようだ。そういえば、この世界に来て今まで見たのは全て人間だが、エルフやらケモミミ族やらはいないのだろうか?少し気になったので、また今度この街の図書館にも行ってみよう。公園を抜けると、鞄屋らしき建物が見えた。
扉を開けると、なんだか薄暗い店内だった。壁にはいくつもの鞄が掛けられていて、肩からナナメに掛けるタイプの物や、リュックサック型の物がある。お店の奥には工房っぽい部屋があって、そこにおじいさんがいた。なんだか作業をしている。鞄作りだろうか?集中しているみたいなので、買う鞄を決めてから購入することにした。リュックサックタイプの物が動きやすそうなので、その中で一番安い物にしよう。目についたのは、棚に飾ってあって、一番下に置いてある小さなリュックサックだった。丈夫な革製ではなくて、柔らかい布製だ。容量は小さいが、その分値段が控えめで、今の自分には丁度いいかもしれない。鞄を手に取ると、おじさんに、
「この鞄買います。」と言った。
「代金はそこの机の上に置いておいてくれ。」
振り返らずにそう言うと、おじさんはまた作業に戻った。あまりしゃべらないタイプのようだ。マサユキは言われた通り代金を置いて、店を出た。
店の外に出ると、早速ギルの入った袋と、制服を鞄にしまった。うん、いい感じだ。スペースは制服で半分以上占めているが、無いよりは良いだろう。これでやっと、この世界の住人らしくなった。陽は傾いてきている、今は3時くらいだろうか。ラルクが言っていた風呂も気になるが、まずは今夜泊まる宿探しをした方がいいな。ギルドの近くには宿屋がいくつかあって、冒険者はそこで泊まる人がほとんどらしい。ギルドの方へと向かうことにした。向かう途中、お風呂上りのラルクと出会った。
「よう、また会ったなマサユキ!」
手に串団子を持ちながら、元気な声でこちらに近寄ってきた。
「今晩の宿探しか?冒険者初日のお前はギルも大して持ってないだろうからな、オススメの宿があるぜ。」
ラルクが宿屋を紹介してくれるみたいなので、とりあえず案内してもらうことにした。
場所はギルドの裏の通りにある、2階建ての宿屋だった。料金はリーズナブルだが、食事やお風呂が無いらしい。しかし、ギルも残り少ないので、今晩はここに泊まることにした。ラルクには外で待っていてもらった。中に入るとおばあさんが受付をしていた。
「すいません、部屋は空いてますか?」
「一晩150ギルだよ。」
部屋の空きがあることを確認すると、料金を支払って部屋のカギをもらった。机とイスに、ベッドが置いてあるだけの、狭い部屋だ。でもまぁ、野宿よりはマシだろう。本当はお風呂に入りたいが、ギルがほとんど残っていないので、今日はお風呂は無しだ。まだ夜までは時間があるので、街の中を散歩して、今日は早いうちに眠ろうと決めた。
「いい宿だったろ?」
「今夜はゆっくり眠れそうだよ、ラルクはどこに泊まるんだ?」
「俺はもう少しお高いところにな」
ギルには余裕があるのだろう。
「俺は図書館に行こうと思ってるんだけど、も一緒に行くか?」
「俺はいいや、ああいう場所苦手なんだよな。」
ラルクとはここで別れ、一人で図書館へと向かうことにした。
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