第27話 ヴァンと黒の邂逅。

話が長くなる前にコーラルはザップと共に中央室に入って禁術書の話になる。


「スティエットは本来ここに禁術を蘇らせて残す事は反対だったんだ。禁術に関しての口癖は「禁術は禁術だから中央室に秘匿されている。無いなら無い方が良いんだ」だったからね。でも皆の為にアンチ様のお願いを聞いてしまった事になっているが、真式さんの為にも協力した所まではよかったけど最後までいやいやだった事と、オオキーニの禁術書に関しては確定術を残さない事を条件に許したんだ」

「…お爺様らしいですね」


「スティエット自身、改竄術や数個の術は遺さずにスティエットの血族だけの口伝に変えてしまったよ」


ここでザップが「ふふ」と楽しそうに笑う。


「ザップ様?」

「いや、ここで真式さんと書いた日の事を思い出してね。スティエットは家族サービスを邪魔された事と、危険な術を残すことに不機嫌でさ、アイツは師事を仰いでいたウブツン先生に様々な本を読ませて貰っていたおかげで古代語と古代神聖語の方言までわかるから、シューザ・エシュー氏の真似をして全部織り交ぜて書こうとしてさ、あの日は本当に楽しかったよ。それを思い出したんだ」


こうしてコーラルは覚悟があると言ってオルドスとミチトの遺した禁術の全てを読んで理解をした。


「さっきの口癖の他でスティエットはよく言っていた。知れば使いたくなる。試したくなる。だがそれをすれば人ではなく最早化物だとね。コーラルさんがそうならない事を願っているよ」

「はい。心します」


コーラルの凛とした声と目力にザップが嬉しい気持ちになりながら申し訳なさそうに「僕は古代の人達と同じで世俗に関われない。中央室で禁術を求める者にこの言葉とともに禁術を渡すだけなんだよ」と言うとコーラルは深く頷いて「はい。ありがとうございます」と言った。



コーラルとザップが中央室に入っていき、ヴァンは読み比べを行う。


ヴァンの本ではミチトはマテ・ミントを治した事を自身からロキ・ディヴァントに売り込んで居たが、実際にはただ報告をしていて、それを聞いたヨシ・ディヴァントがお願いをしてミチトをダイモに連れて行っていた。


「へぇ、全くイメージ変わるや」

ヴァンがそんな事を呟いていると目の前に男が座って「前に座ってもいいかい?」と聞いてきた。


「良いんじゃないですか?」

ヴァンは素気なく返事をしてまた本に戻る。

ヴァンは気付いていないが座席は空いていて別に近くに座る必要はない。


次に見つけた大きな相違点は初めて城に行ったミチトはシック・リミールとバロッテス・ブートを挑発したとあったが、真実はシックが挑発する流れを作り、ミチトは質問に答えただけだった事、確かに答え方は間違っていたがヴァンの本では尊大な態度に見えていた。


「これなんか別人だ」

そう呟いた時、向かいに座る男が「リミールとの話かな?」と言った。


正に読んでいた部分だったのでヴァンは驚き「え?」と言いながら前を見ると、ここで初めて空席だらけなのに向かいに座られた事に気付いて目の前の男を見た。


男は黒髪黒マント、黒服の男で漆黒といった感じだった。

ヴァンは思わず「カラス…」と言ってしまうと、男は「ふふ」と笑った後で、「ファン・ガイマーデと同じコメントだな」と言う。


「父さん?」

「ああ、今回は色々助かったよヴァン」

父を知っていてヴァンに助かったと言う男を見てヴァンは「え?お兄さんは何者?」と聞く。


「どこから話そうか?とりあえずその本はナーヨさんも持ってるから借りると良い、もっと違いが出て面白いぞ」

男はザップの本を指さして笑いかける。


「うん。そうするよ。それで…」

「ああ、スティエット村の跡地からイブの回収を頼んだのは我々だ」


この発言で男が何者かを察したヴァンが「え?トゥーザー…黒…黒のトゥーザーだから黒いんだ」と納得をした。

目の前の男はトゥーザーを名乗って居るメロの子孫だった。男は「ああ。話が早くて助かる。ヘマタイトの暗躍は見兼ねていてな、コーラルを取られることは避けたかったんだ」と言った。


ヴァンは言うだけ言って立ちあがろうとする男に「そっか、でも何で自分で動かないの?」と聞いてしまう。

男は「盟約だ…」と言った所で「くそっ…ヴァンのリズムに乗ると答えてしまうな。本当は礼だけ言って帰るつもりだったんだ」と言う。


ヴァンがバツの悪そうな顔をするトゥーザーに「にひひ。まあ仲良くなろうよ。教えてよ」と言うとトゥーザーは立ちあがるのをやめて「まあいい、オルドスとリッパーとの盟約だ」と言った。


「リッパー?エーライ様の息子さんだっけ?」

「ああ、メロの血筋は本流のスティエットではないから、まあミチトとメロはハトコだから無関係ではないがな。だからメロは自分の子孫にはトゥーザーを選択肢に入れた。そしてオルドス達より一段下で行動する事を認めさせたんだ」


「何それ?」

「簡単だ、用がなければラージポットを離れられないオルドス。海底都市に座して動けないヨシ・ディヴァント、そして国営図書館中央室で望む望まぬを別に訪れた者に禁術を授けるザップ・ナーヨ。彼らは人より長い生を侵害されない為にもミチトが間に入って盟約を交わした。

我々トゥーザーは人と同じ身で死ぬからこそ直接解決には向かえないが一段下で手を下せるし暗躍が許されている」


「あれ?それじゃあヨシ様達もお兄さんを知ってるの?」

「ああ」


「スーゴイ様も?」

「勘がいいな」


「それで父さんに石棺の回収を頼んだの?」

「ああ、後は助かった。ジーフーの研究は世界を混乱させるから何とかしたかったんだ」


「あれ?知ってたの?」

「ああ、だが、表立っては言えないからな。スーゴイには報告をしたがレイジに落ち度もなく、視察にしてもナー・マステから連絡が回って隠れられては話にならない」


「見てきたの?」

「いや、俺達はメロの教えで徹底して術を鍛えるんだ、メロは「パパは平和に生きてと言ったの。でもそれはタシア達…その子供が幸せならそれでいいの。だからメロの子達が今生きられて幸せなのはパパやママ達、皆のお陰だから付き合って」と言って始まった事でな、だから術で色々見守っているんだ」


ヴァンは一気に質問をしてトゥーザーもそれに答えてしまう。

話していてトゥーザーも驚いてしまっていた。

一通り聞いたヴァンは「へぇ、凄いや。お兄さんありがとう」と言った。


「え?」

「いや、だからコーラルも助かったし、俺達が毎日平和なのももしかしたらお兄さん達のお陰かも知れないだろ?だからありがとうって言いたかったんだよ」

ヴァンの笑顔に何も言えなくなったトゥーザーは少し嬉しそうにはにかむ。


そして…「ヴァン、もう一つ頼まれてくれないか?」と言った。


「んー、良いけど何?」

「オッハーに渡ったロスの子孫との繋がりを得てくれ」


「オッハーも行った事なかったからいいけど、コーラルになんて説得しようかなぁ…」

「…オルドスに呼ばれた事にしろ、今本を読んで居たら声が聞こえたとな、オルドスは今の事も見ているから手を回してくれる」


ヴァンは何となく天を拝んで納得をすると「了解、そうするよ」と言った。

トゥーザーが「済まないな」と言うとヴァンは「良いって」と言って笑う。


「でも会ったこととかは内緒の方がいいの?」

「まあな、仮にコーラルとヘマタイトに言うなら明日以降にしてくれ」

ヴァンがわかったと言うとトゥーザーは帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る