第26話 ザップ・ナーヨとグラス・ジャックス。
王都に戻ったコーラルはスーゴイとヘマタイトに報告に向かう。
スーゴイは「早速の活躍、ご苦労だった」と労ったがヘマタイトは「ヴァン君のお手柄ですよ。大叔母様はもう少し思慮深くなってください」と労いもせずに苦言を呈した。
そして横のヴァンを見て「ヴァン君、ありがとうございました。隠し扉の件も何よりもジーフーからの情報収集では助かりました」と感謝を伝える。
「えへへ、役に立てて良かったよ。じゃあお給料に色付けてね」
「ええ、構いません。それにしても単身で術人間を生み出すなんて…」
ヘマタイトとヴァンが話している横でコーラルは不服そうにヘマタイトとヴァンを見る。
正直面白くない。
ヴァンは話の後でコーラルを見てニカっと笑い「でもさコーラル、やっぱり俺たちって良いチームだよな」と言った。
コーラルは想定外の言葉に「え?」と言ってしまう。
「だってさ、ジーフーが暴れてもコーラルなら俺を守れるだろ?」
「ええ、あれくらいなら」
「だから俺もズケズケと話しかけたんだしさ、コーラルが居るからできる事だし、コーラルが強いお陰だからヘマタイトがお給料に色付けてくれたらなんか美味しいもの食べようよ」
「…ええ、そうね」
コーラルは今まで会った事のないタイプのヴァンに怒気は消えていく。
ヴァンはコーラルに話しかけた流れでヘマタイトに「なあ、ヘマタイトに質問しても良い?」と話しかける。
ヘマタイトは「なんです?案外ヴァン君の質問は怖いのですが…」と言って少し警戒をする。
「昨日さ、ヨシ様とアクィ様の話を海底都市で聞いてて思ったんだけどさ、禁術書に光線術とかあるのはなんで?あれ、ミチトの伝説の中では『恐らくオオキーニの首都を天空砲で焼き払った時に焼失してる』ってあったよ?」
「ああ…オルドス様がエーライ様に頼まれた事になっていて…」
「事になっていて?」
「アプラクサス・アンチ氏経由でエーライ様からの依頼として失われたオオキーニの禁術書をもう一度書いて貰ったんですよ」
この答えに納得をしたヴァンは「へぇ、コーラルは光線術とか使えるの?」と聞くとコーラルは首を横に振って「いえ、使えないわ」と返す。
「じゃあ,見させて貰えば?ダメなのかな?光壁術とか天空砲を受け止めるとか書いてあったし、ほかにも使える術なんかがあるかもよ?」
ヴァンの言い分は間違っていないのでコーラルは「…ヘマタイト?スーゴイ様?」と確認をする。
ヘマタイトは「スティエットであれば閲覧可能です。大叔母様も行かれますか?」と言い、スーゴイも「構わないぞ、コーラルよ」と言う。
「ありがとうございます。じゃあこの後で国営図書館まで行ってきますね」
ここでヴァンが「あれ?コーラルって古代語と古代神聖語読めるの?」と気になって聞くとコーラルは首を横に振る。
「ザップ・ナーヨ様はヨシ様と同じくご存命で、中央室とディヴァントを青色様と往復なさってるのよ」
「え?ザップさんって生きてるの!すげー!コーラルと居ると凄い体験ができるよ!ありがとう!!」
「大叔母様、今はザップ様は週に数回のご出勤で、今日は丁度居る日ですよ」
「あら、ちょうど良かったわ」
国営図書館に行くとザップ・ナーヨは中央室で原書を読んでいてコーラルとの再会を喜んでくれる。
「やあ、あのトウテからの名乗り上げは聞いていたよ。アクィさんの再来だね」
アクィの再来と言われたコーラルは嬉しそうに「ありがとうございます」と返事をする。
「禁術書が読みたいんだって?まあ君達真式は僕が読み上げても理解出来るからね」
そう言ったザップはヴァンを見て申し訳なさそうに「流石に君を中央室に案内は出来ないんだ。ごめんね」と言う。
ヴァンも「いえ、別に平気です。俺はこれを読んでますから」と言ってミチトの伝説を見せる。
ザップは本当に本が好きなのだろう。本というだけで顔を近づけて「その本君の?」と聞く。ヴァンは「はい。貰い物ですけど…」と返した。
「じゃあコレも読んでみて、出来たら読み比べしてよ」
ザップが渡してきたのもミチトの伝説だったが40年前に加筆修正等がされた物だった。
ヴァンが「これ…」と言いながら訝しむと「ふふ、監修の名前を読んでご覧」と言う。
「ザップ・ナーヨ…ザップ様」
「そう、この僕と…」
「グラス・ジャックス」
「そう、コーラルの妹さんさ」
これにはコーラルが慌てて本に向かって「え?グラスですか?」とザップに聞くとザップは嬉しそうに「奥付に一言書いてあるから先に読むかい?」と聞いた。
「はい」と答えたコーラルは本を手に取る。
[伝説となった高祖父。彼の伝説、人となりは全て尾ひれが付いて誇張された物だと思って居たが、生き証人達の言葉や彼自身に触れて伝説は本物と知れた。彼の生き様の誇張を共に直してくれたザップ様のご厚意にこの場をお借りして感謝申し上げます。
グラス・ジャックス]
「これ…」
「彼女が45年前に僕の元を訪れてね。ああ、僕は天空島の紺色と命を共にしたいと言った妻の為にヨシさんと同じように万命共有の身だよ。スティエットの…君達のお爺さんの事を聞いてきたんだ。ヴァン君、君みたいにスティエットの本を持って教えてくれと言ってね」
まさかザップの所で聞けるとは思わなかったグラスの軌跡にコーラルは嬉しい気持ちになる。
愛した妹の生きざまは少しでも知りたい気持ちだった。
「グラスは…」
「彼女は20歳の時に2度ほどスティエットの言葉を聞いたそうだ。コーラルさんなら方法はわかるよね?」
「転生術ですか?」
「そうだよ。そしてここだけの話だとロスさんの元にも声だけ聞かせてくれたそうだよ」
「プレナイト…」
「おお、知っていたのかい?凄いね。そこでスティエットの人となりを知れたから興味を持ったと言ってね。伝説を読んで僕とヨシさんで本当は違うと説明して、それを聞いたグラスさんは直して正しい伝説を出したいと言ったのさ」
コーラルはこの言葉にグラスらしいなと思い、もう会えない妹を偲んだ。
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