第25話 ジーフー・ブートの最後。

コーラルは兵士を殴り殺した人間を見て「術人間?…何この違和感」と口にするとアクィが「コーラル!あれがツギハギよ!心眼術で命を見なさい!」と指示を出す。コーラルは絶えずアクィを起こしていたので咄嗟の会話も可能だった。

指示通り心眼術を使ったコーラルは愕然とした。


「な…なにあれ?1人の中に何人もいる…」

「お、お嬢さんは術使いだね。そう、これが72年の間、ずっと作り続けたツギハギだよ。これは私を襲ってきた海賊の1人、フービだよ。とはいえ…フービなのはどこかな?最初に傷だらけの左腕をお師匠様と作ったツギハギの腕と取り替えて……」


ジーフーはうんうん考えると「もう無いね」。あるとしたら頭の中だけだね」と言って笑った。


フービと言われたツギハギは見た目が30くらいの男にしか見えない。

ジーフーの言う通りだとしたらもう100歳近い人間ということになる。


だが若く見える、残っている部品が頭の中だけという事実から多数の人間が犠牲になっている事でコーラルはパニックになりながら新たに心眼術を使ってしまうと、確かに歳経た人間の命だった。


ヴァンはコーラルの異変を感じて後方からジーフーに話しかける。


「ねえ、残り2人は?何者?」

「おお、知りたいかい?この女の子はキーチン、素体はナー・マステ人さ、私は相性が合わなかったと言ってよく素材をちょろまかしていてね、それで産み出したんだ。もう…30年だから48才になるかな?」


「見た感じ若いのにうちの親より歳取ってるの?」

「そうさ、それでフービは術が苦手な術人間だけどキーチンは術が得意だから生み出した術人間が優れているとそこからどんどんツギハギにしていったんだ」


「じゃあ最後の人は?若そうに見えるけどその人もお年寄り?」

「おお、この子はクーポ。まだ6歳の子だよ。この前生まれたばかりでね、中々に出来が良かったから貰って大人の素体と組み合わせてあげたんだ」


「得意な事は?」

「ふふ、剣技だよ無限術人間は剣術も覚えるんだ。この子は若いから吸収が凄くてね」


紹介できることが嬉しいのだろう。嬉々と話すジーフーにヴァンは「ふーん…ありがとう」と礼を言う。

ジーフーがニコニコと「いやいや」と言っている横でヴァンは「コーラル、だってさ。よろしく」と言う。


「ヴァン?」

「だから兵士さんと俺は逃げるから、コーラルなら倒せるよね?よろしくねー」

この流れについていけないコーラルは「…え、えぇ…、そうね」と言って剣を構えなおした。



「コーラル、ヴァンに感謝しなさい。あなた飲まれていたわよ?」

「はい。本当ですね」


「おっと、お嬢さんが残ってヴァンくん達は逃げちゃうのか、追わなきゃいけないから退いてくれないかな?」

「退くわけないわ!我が名はコーラル・スティエット!貴い者の1人として貴方を止めます!」


コーラルのよく通る声で名乗りを聞いたジーフーは「スティエット…?スティエット…お師匠様の御先祖様の仇の…?」と呟く。


コーラルが「ええ、更に言えば妹がイノー・ブートを討った存在よ!」と言うと「お前が私からお師匠様を取った!お師匠様の御先祖様を苦しめた!」と怒鳴りながらジーフーはアイスランスを放ってくる。


「コーラル!切り伏せなさい!倒すのは女型のツギハギからよ!殺すなら一般的な術のみ!覚えられたら手間だわ!」

「わかりました!」

コーラルは一気に距離を詰めてキーチンに斬り込むがその剣を止めるのはクーポで剣は鋭かった。


「ちっ、強い」

「何言ってんのよ、スカロ兄様からしたら余裕の存在でしょ?」


「はい。その通りですね」

コーラルはそのまま身体強化で力任せに薙ぎ払う。


「立ち止まらない!術とツギハギが狙ってる!奪術術はまだ使っちゃダメよ!」

「はい!」

コーラルが「アイスランス!」と言えばキーチンは「ファイヤーボール!」と言って相殺してくる。


キーチンの術展開はそこそこ速い。

そして威力も申し分はない。


だが真式のコーラルからすればまだ遅い。

立て続けにアイスボールを放つとキーチンは苦しそうにファイヤーボールで相殺をする。

ジーフーは「本当に強いなぁ、お師匠様が手を焼く訳だ」と言ってタイミングをずらしてコーラルを術で狙う。


そして間を縫うようにフービとクーポが攻撃をしてくる。

「くっ、4対1だと決め手が出せない!ヘマタイト!捕まえるんじゃなくて殺しちゃダメ!?」

「構いません。やってしまってください」


「それなら!」

コーラルは一気に勝負に出るとキーチンのファイヤーボールをフレイムウェイブで飲み込みながら焼いてしまい、その勢いでフービに二刀剣術を放って細切れに変えるとファイヤーボールで焼く。


「焼けば繋げられないわよね?」

突然の事に驚くジーフーを無視してアクィは「何で二刀剣術をみせるの?」と怒る。


「…ふふ、アクィさん。アイツは剣技が得意な模式なんですよね?楽しみです」

「貴方まさか…」


クーポも剣を二刀流にするとコーラルに切り掛かってきて二刀剣術を放ってくる。

コーラルは基本的な六連斬しか見せていないのでクーポも六連斬しか放ってこない。


「ふふ、やり合うわよ!六連斬!」

コーラルは嬉々として六連斬を当てていく。


吹き飛ばされたクーポは更にムキになぁて加速をするがコーラルはそれを更に上回る。

暫く斬り合ってクーポの剣がボロボロになった所で「送るわ。さよなら…二刀剣術…十二連斬!」と言いながら剣を振るってクーポを細切れにすると即座に焼き払うと、そのままジーフーに剣を突き立ててサンダーインパクトを放って倒した。


たいした見せ場もなく倒されたジーフーは驚きの目でコーラルを見る。

そこにヴァンが近づいてきて「おじさん、おじさんが死んじゃった事を金持ちに伝えに行ってあげるよ」と話しかけてナー・マステで模式を買っていた金持ちの情報を引き出してしまう。


ジーフーはヴァンを見て「君は人懐っこいからきっとお師匠様も気に入ったかもね」と言う。


「本当?そう言えばさ、おじさんの術人間の作り方って残ってるの?凄いんだよね?遺した方が良くない?」

「ああ…、そうだね」


ジーフーは本当にヴァン相手では良く喋る。


「じゃあ覚えてくれるかい?術人間の作り方は知ってるかい?」

「俺は知らないから…コーラルわかる?」

「ええ、知ってるわ」


「じゃあ私は君に話すから、わからない部分なんかは後でお嬢さんに聞くと良いよ。術人間を作る際にはね、魔水晶と無限記録盤を身体に入れられるように術を流すんだ。それで同化可能になったら身体に入れて定着するまで術を流すんだよ」

「難しいけど頑張って聞いてるしコーラルわかるよね?」

「ええ、わかるわ」


「ふふ、君は本当に熱心に聞いてくれるね。君となら素晴らしい事がたくさん出来た気がするよ…。それでね、私とお師匠様の考えた方法はその作業を一度に済ませるんだよ」

「一度に?」


「そうさ、同化可能になるまでの術を込めたらね、定着可能までの術を更に込めるんだ。そうしたらそのまま上に乗ると身体に入って一気に定着出来るから私のマスターが私に出来たんだよ」


一通り説明を聞いたヴァンは「コーラルわかる?」と聞くとコーラルは「…ええ、物凄い方法だわ」と答えた。


「おじさん、コーラルが凄いって褒めてるよ」

「おお、…嬉しいね…じゃあ残す書面にはイノー・ブートとジーフーと書いておいてもらおうかな?」


「うん。ジーフー・ブートとイノー・ブートで書くように頼んでおくよ」

一瞬何を言われたかわからない感じだったジーフーは「わたしが…ブート?」と言って驚いた顔をする。


「だって話聞いてたらブートになれてたと思うよ。だから紙にはそう書いてもらうよ」

「嬉しいな…」


そう言って泣いたジーフーは「なんか君と話していると死ぬのが怖くなってくるよ」と言ったかと思ったらすぐに発火をして骨も残らなかった。

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