第23話 ジーフー。
ヴァンに笑われたコーラルが「は?何が?」と聞くとヴァンは「なんての?術でなんとかする事ばかりだよ」と返す。
「じゃあヴァンならどうするの?」
「まあ俺も今回はコーラルの術頼みだけどね」
ヴァンが気にしたのは満潮時になぜこの地下四階が水没をしないのかだった。
兵士がそれに対して、港部分が堤防のようになっている事で水の流入を防いでいると言う。
「嵐の時とかってどうなの?」
「この作りでしたら中の空気が守ってくれるので水の流入はあり得ません。まあその代わり船が出せるのは干潮時に限定されますね」
兵士の説明に納得の行ったヴァンは「成る程ね〜。コーラル、水の術で地下四階を水浸しにしてよ」部屋中を指差しながら言った。
「え?」
「ほらほら、壁から床から全部だよ。俺と兵士さん達で変なところがないか見るからさ」
ヴァンに言われるままにコーラルは水の術を放つと隠し床が出てくる。
目立たない床の切れ目に水が飲まれていく事で気付けていた。
「あった…」
「へへ、俺と来て正解だろ?で?これはどうするの?水を流して水責めとかするの?」
これにはヘマタイトが相手を押さえたいから毒や罠なんかの有無を確認してから中に入って欲しいと言い、レイジ家にはヘマタイトから増援の打診をした。
意を決して隠し扉を開ける。
コーラルは心眼術で罠や毒の有無を確認し、兵士が前を歩く。
隠し扉の中は階段になっていて一度潜って登る形を取っていた。
一度潜る形のせいで随分と進んだ気がする。
しばらく行くと扉があった。
兵士は目配せをしながら扉を開けるとそこには1人の老人が居た。
老人は驚いた表情で「おほ?お客さんだ。いや?素体かな?」と言った。
「あなたは何者!?」
「おや、不思議な事を聞く。ここは私の部屋だよ?それに君達は知らないかもしれないがここはレイジ家が管理を任された…おや、兵士はレイジの家紋入りだね」
コーラルの質問に答えた老人は兵士の家紋を見て納得をする。
だがいくら待っても老人はコーラルの「何者か」の問いには答えない。
コーラルが苛立っているとヴァンが手で制しながら前に出る。
「ねえ、おじさんの名前は?」
「おや。こんな可愛い素体まで連れてきて君は何かな?」
「俺はヴァンって言って、こっちのコーラルの友達…この島の秘密を調べてて兵士の人に付き添い頼んだんだよ、港の船はおじさんの?」
「ああ、そうさ。あの船は私の物だよ」
「前に兵士さんが見回りに来た時はなかったって言うけど最近買ったの?」
「いやいや、あれはもう5年くらい使ってる船だよ」
「そうなんだ。それで?おじさんの名前は?」
「おお、そうだね。君は名乗ったから私も名乗ろうか、私はジーフーと言うんだ」
ジーフーと名乗った老人を見た時、コーラルがとある事に気付く。
「あなた…模式?」
「模式?何かなそれは?」
コーラルは恐る恐る「無限術人間…」と言うとジーフーは「おお、詳しいねえ。ああ、それで見てくるように言われたのか…」とまた1人で納得をした。
「あなたのマスターは?」
「ココに居るよ?」
「どこにも居ないじゃない!」
「居るのになぁ」
やはりコーラルはいきなりテンションが上がって王都に乗り込むくらいの浅慮・短慮なのだろう。思い通りにいかない会話にイライラしている。ヴァンが見かねてジーフーに手を振りながら「おじさん、ジーフーって呼ぶ?おじさんの方がいい?」と聞く。
ジーフーはいやらしい笑みで「私はもうお爺さんだからおじさんかな?」と言った。
「おじさんはココで暮らしてるの?」
「そうだよ」
「何年くらい?長いの?ご飯ってどうしてるの?」
「何年…、もう72年くらいかな?…そうか、私はもう78歳か…歳をとったなぁ」
「え?そんなにここに居るんだ!それでご飯は?ずっと魚?」
「はっはっは、久しぶりの話し相手は賑やかだ、魚ばかり食べても病気になるんだよ。船乗りなんかもよくなるんだ」
「あ、聞いたことあるよ!野菜とかフルーツ食べると良いんだよね!」
「おお、賢いなぁ」
「それで?ご飯はどうしてるの?」
「ここのキッチンで作っているよ。買い出しは月に一度で後は術で凍らせるから腐ったりしないのさ」
ヴァンが聞くと、ジーフーはおもしろいように質問に答えていく。
コーラルは自身と何が違うのかわからないが、ジーフーは楽しそうにヴァンの質問に答えていく。
「へぇ、72年もずっと?」
「いやいや、最初は沢山の人とお師匠様と暮らして居たが、お師匠様は死んでしまったんだ。私はお師匠様が連れてきてくれて弟子にしてくれたんだが、この建物の持ち主のハイガイ様にも内緒にされて居たんだ。資質を感じると連れてきてくれたんだが、ここは秘密らしくてね。ハイガイ様に紹介してくれる日に言われた通りここで待って居たらお師匠様は死んでしまったんだ」
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