第22話 砦の違和感。

洞窟の存在は60年経っていても知られていて、兵士達も「我々は砦と呼んでいますが確かに我々は探索していません」と言う。


グラスの時とは違い、上から入るとそこそこ豪華な作りにはなっていた。

だが完全に廃墟になっていて人の気配はない。


朽ちた通路の真ん中でコーラルが「説明は出来るかしら?」と聞くと兵士は「はい。まず地下一階が居住区で、地下二階に厨房等があります」と答えた。


ここでヴァンが「地下二階なのは匂いとか煙とかの問題かな?」と聞くと兵士も「はい。地上に近ければ遠目で煙なんかがみえますから恐らくですが…」と意見を言う。

そのまま、「地下三階が武器庫と…」と言って言葉に詰まるとコーラルが「大丈夫、私達は存じています」と返した。


レイジ家の汚点については在籍している兵士には言いにくいものもある。

兵士は「ありがとうございます」と言った後で「イノー・ブートの作業場になります」と言い、もう1人の兵士が「そして大きく下がって地下四階に港があります」と言った。

ヴァンが「コーラル、一度全部をグルッと回ろうよ」と提案しコーラルが「ええ、そうしましょう」と言って動き始める。



地下一階から順番に回っていき、地下三階に入るとすぐにヴァンが違和感に気づき口にする。兵士達は半分気付いていたが確証がない事と、立場的に話せないでいた。


「コーラル、埃の積もり方がおかしいよ」

「…確かに…」

上二階は年季の入った埃の積もり具合だったのに地下三階は上二階に比べてそうでもない。


「ここはどのくらいの頻度で来るのかしら?」

「来ても年に一度です」

「海賊船のような船を見かけた時なんかは潜伏場所に使われないか確認の為に入ります」


「その時は全部の部屋を回るのよね?」

「はい。中までには入りませんが扉を開けて中を見ます」


「じゃあ地下三階の埃が少ない理由がわからないよコーラル」

「ええ、やはり何かある…」

ヴァンが気にしたのは地下三階の埃が上二階に比べて少ない事だった。

そしてイノー・ブートの作業場に入るとアクィが違和感を口にしてヘマタイトに確認をさせる。


アクィの「コーラル、ヘマタイトに聞きなさい。薬品や設備は回収したの?」という言葉にコーラルは慌てて確認をすると記録上は魔術師のイノーが死んでしまい薬品なんかはどう扱ったらいいのかわからず、またイノーが独自に作っていた場合に始末に困るので自然消滅を願って全部放置したとレイジ家と王都の記録に残っていた。


ヴァンが「自然消滅?なにそれ?」と聞くと兵士が「薬品は長期間放置すると効果が変わってしまったり無害や効能が無効になる事があるので放置です。更に、ここは海底の洞窟で湿度もありますからすぐにダメになると先人達は判断したのでしょう」と説明をした。



長い階段を降りて地下四階に降りると今度は兵士達が異常に気付く。


「小舟…、こんな物は前回来た時はありませんでした」

港には小船が接岸されていて流れ着いた訳ではなくキチンと杭にロープが付いていた。


「ヘマタイト、聞こえる?やはり何が居るわ」

「大叔母様?一度王都に戻りますか?」


「平気よ。下手に体勢を整えて相手に逃げられるとロクな事にならないわ。ただヴァンとレイジの2人は逃した方が良くない?」

「いえ、二手に分かれた時に相手が2人以上だと大叔母様の足止めとヴァン君の襲撃に使われると話になりません」

コーラルはヴァンと兵士を見て「ちっ…、それもそうね」と言う。


だがそうなると問題は謎の潜伏者がどこに居るかになる。

コーラルに検知術を使わせてもう一度上から下まで探索したが何も見つからない。


コーラルは苛立ちながら「もぬけの殻?」と呟くと兵士が「だとしたら上の出入り口が解錠されているか小舟が無くなっているはずでは?」と意見してもう一人の兵士が「船が2個とか」と言う。


「そうなるともう手に負えないわ、心眼術で見ようかしら…」

このコーラルの言葉にヴァンが「心眼術を使う前にさ…。コーラル、この島の全部とか俺に見せてよ」と言った。


「えぇ?何かあるの?」

「あるかもしれないだろ?」

そしてヴァンは素人丸出しの無茶振りをしてコーラルは「細かい制御とか頼まないでよ」と言いながらもヴァンの要求に応えていく。


「コーラル、俺が居るのはどこ?」

「じゃあ、地上の入り口は?」

「二階の端の部屋って…」


全部見たヴァンは「変だよココ」と言った。


「変?」

「うん。地下一階も地下二階も島に合わせた目一杯の広さなのに三階は少し残してる」


この発言に兵士が「島の反対側は波で削れていて鳥の住処になっています」と説明をする。


「じゃあ地下四階は?作業場があるからってそれにしてはわざと深く下がってるし、地下四階って水没してるよね?」

この疑問に兵士は「それは…」と答えに詰まる。


「ヴァン?何が言いたいの?」

「隠し部屋とかあるんじゃない?」


この言葉にコーラルは偽装壁の術を疑うがヘマタイトが「術者が居るとすればイノーですが奴はもう死んでます」と言う。


その言葉に唸るコーラルにヴァンが「コーラルって結構ダメダメだよな」と言って笑う。

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