第20話 グラス・スティエットの引退。
グラス・スティエットとペリス・ジャックスは相思相愛に見える。
仲睦まじい姿に皆2人の幸せを願うがいつになっても結婚をしない。
苛立つ周囲はペリス、グラス共に身体に問題があるのかを気にしたがペリスは「私がスティエットを名乗る女性の夫に相応しくないので男を磨く時間を貰っています」と返し、グラスは「まだ兄に全てを委ねるのは申し訳ありません」と言うだけだった。
だが2人の気持ちは固まっていて、グラスはプレナイトの所にペリスを連れて行った。
パイライトはアゲートがいない事に口を尖らせて不満を言ったがペリスがプレナイトに「私も早くグラス嬢をお迎えしたいのでよろしくお願いします」と挨拶をすると「そうだよマスター!」と援護射撃をする。
プレナイトは肩を落として渋い表情で「ったく…。やってんだよ」と悪態をつく。
「あらあら、頑張ってねプレナイト」
「お前こそ戦いに出るなよ。そうすれば俺の方が成長出来る」
「それはダメよ」
「くそっ」
だがそれから時間は過ぎてグラスが27の時にようやくプレナイトはアゲートの支配権の強奪に成功をした。
緊張で真剣な表情になるプレナイトが「アゲート…、覚悟はいいな?」と話しかけるとアゲートは「はい。やってください」と言って自分を見上げるパイライトに「パイライト、待っててくださいね」と言う。パイライトは「うん!」と元気良く返事をした。
強奪は1時間で終わった。
「心眼術!アゲートを赤!俺の術でアゲートを緑色に変える!」
そう言って術を放ったプレナイトは愕然とする。
スティエットの術人間、それも真模式の強奪は初めてで至難の業だった。
「く…そっ……、俺の術を弾くのか!?…グラスの奴…」
中々上手くいかない中、プレナイトは焦り、アゲートは辛そうな息遣いになる。
プレナイトは「くそっ!ふざけるな!なんとかしてやる!更に術の量を…」と言った時…。
「落ち着け、プレナイト。そうじゃない」
プレナイトの耳に聞こえた声はもう7年も前に自分の中で聞いた声だった。
「ミチト!?」
「落ち着け、考え方の問題だ。ライブは剣ではなくナイフを使っただろ?ナイフで剣を倒す時にどうする?」
「な…何言ってんだ」
「いいから言うんだ」
冷静になったプレナイトは「…回り込む。真っ向から当たるのはリスクが高い」と返事をした。その言葉にミチトは「そうだ。それと同じだ、真っ向からぶつかるな、回り込め」と指示を出す。
「回り込む…やってやる!」
「そうだ、弱い箇所を探せ、そして一点突破だ」
プレナイトは落ち着くとグラスの術を1箇所だけ破るとそこから剥がして自分の術を纏わせていく。
だがグラスの術は強力で生半可な話ではない。
プレナイトは高威力、高出力、一定の速度で術を当てていくととてつもなく疲れてしまうがその度にミチトがプレナイトに話しかける。
主にパイライトとの暮らしの事と妻との暮らしの事だった。
「なあ、質問してもいいか?」
「何?構わないけど余裕だね」
「妻と子の居る暮らしってどうだった?ミチトはリナが良かったのにライブとか居ただろ?」
「始まりはね、でも俺は家族と別々の日を過ごすようにもしたし、その度にライブとジェードとベリルの4人家族なんかも楽しんだよ。メロとの事もあの子ができる子だった事もあるけどキチンと家族をしてこれたよ」
「なあ…俺もできるか?」
「言って欲しそうな顔だね。ライブも中々言えないで言う時は照れて赤くなってたよ。そして俺に代わりに言えってさ」
キチンと家族を出来ていた話を聞いてプレナイトは「言ってくれ」と言った。
「仕方ないなぁ。大丈夫、プレナイトなら出来るさ。今晩は3人で料理を作るだけで楽しいさ、少ししたら別荘…は嫌かな?ヨシさんの所か紺色の所にお邪魔するといいよ。あ、行ったら皆によろしく言っておいてね」
こんな時でも古い友人達への挨拶を忘れない辺りが父に聞いていた姿と一致して安心した気持ちになる。
「わかった。なあ…もしアゲートと結婚をしたらパイライトは喜ぶか?」
「勿論だ。命を背負え、幸せにする覚悟を持て」
これを持ってプレナイトはアゲートの支配権を完全に奪い取った。
アゲートは目を開けるとプレナイトに向かって「マスター…ありがとうございます」と言い、今日までマスターだったグラスに「グラス様、今日までありがとうございました」と言った。
「おう、お前もよく頑張ったな」
「おめでとうアゲート」
アゲートはパイライトを見て「パイライト、今日からママです」と言うとパイライトは「本当!ありがとうママ!ありがとうパパ!!」と言った。
パイライトが涙を流して2人に抱きつく。
本当の年はわからないがプレナイトの中ではもう11歳になっていた。
「待たせたな」
「ううん!平気だよ!」
パイライトは涙を流した後で待ってて!と言って駆け出すとすぐに村民を連れて戻る。
何事かと思えば2人の結婚式だった。
4年の修行で村はかなり住みやすくなっていて皆プレナイトに感謝をしていた。
照れるプレナイトは感謝と共にアゲートとの結婚式をした。
アゲートは支配力を下げても変わらない事にプレナイトは驚いていた。
これでグラスの肩の荷が降りると思っていたプレナイトとオブシダンはグラスが結婚をしない事に驚く。
グラスは「今までプレナイトに遠慮をしていた分を果たして兄様への引き継ぎです」と言うと広域伝心術で国中に向けて人攫いとそれを指示した貴族達に天罰を与えると宣言して国中にサンダーフォールを使って見せしめにした。
グラスが引退を決めたのはそれから数年し、アゲートが妊娠をした時だった。
それを聞いて「良かった。アゲートがお母さんになれなかったらと思って待っていたの」と言って「おめでとうアゲート」と言いながらアゲートを抱きしめた。
最後の引き継ぎが終わるとグラスは30になっていた。
引退の挨拶にラージポットを訪れたグラスはオルドスから「欠術病と名付けたコーラルの病を治せる特効薬を作ったよ」と言われるがオブシダンと両親と話をして「まだ模式達は虐げられているから今姉様を起こすのは可哀想だよ」と言ったオブシダンの言葉に父母も「それにグラスが16も年上ではコーラルも辛いだろうな」と言って時代が良くなるまで見送られる事になった。
「それが君達の決断なら私は何も言わないよ」
オルドスはこの時には既にオブシダンの心の闇を見ていて、オブシダンは早く本性を表して準備を始めたい為に、邪魔な姉が蘇らないように言葉を選び、邪魔な妹を嫁に出してしまおうとしていた。
グラスはキチンと気をつけをして「おじ様、ありがとうございました」と言う。その姿は少女の頃と何も変わらない可憐な女性そのもので戦闘や殺し合いなんてものとは無縁だと思えた。
「いやいや、全部グラスの頑張りだよ」
「ううん、リプレスサウンドで模式達が殺されて放心する私にミチトお爺様の声を聞かせてくれたわ。それにプレナイトも言っていたけどアゲートの支配権を奪う時、焦る自分にミチトお爺様の声が聞こえたって、全部おじ様のお力でしょう?」
「私は何もしていないよ」
「エーライ様との盟約ですね。これ以上は言いません。でもありがとうございます」
グラスはそう言ってから「愛の証」をトウテに戻し「アクィお婆様、私のような未熟者に力をお貸しくださってありがとうございました。次のスティエットが来るまでお休みください」と挨拶をすますとグラスは翌週にはジャックスへと嫁いだ。
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