第19話 グラス・スティエットとペリス・ジャックス。

今、プレナイトは真式の力の差で血の滲む思いをしている。

真式としての成長限界や願いの具現化の能力の事があるのでプレナイトは国を飛び出してスローライフをキメていたのにここに来て修行三昧になる。


もうアゲートがクッキーを作ってくるようになって2年が過ぎた。


「くそっ、なんだよアクィとイブの血筋にライブで勝てだと!?ふざけんなよ!」

そう悪態をつくが真面目なプレナイトは修行に打ち込む。


修行にと言っても術を使って限界値の更新をするのだが、手持ち無沙汰から村長に「…済まない、助けてくれ」と打ち明けて「頼むから人助けをさせてくれ」と言うおかしな状況になり、オッハー産の魔水晶から無限魔水晶を生み出すとヒールを付与して沢に沈めてディヴァント程ではないが飲めば元気になる水を用意したり、出産に立ち会って妊婦を救ったりしていく。


当初は3年間出し惜しみしていた事を悪く言う者も居たが、村長や救われた者達が理由があってマ・イードから来て目立てるわけもないだろうと言ってくれて最後にはずっと居てくれと言われるまでになった。


そしてパイライトはオルドスの指示でプレナイトの逃げ道を塞いでいく。

基本村ではプレナイトと呼ぶ事を命じられているのに、パイライトは「プレナイトがね!パパになってくれる為に頑張ってるの!強くなったらママと結婚して良いよ!って言われてるの!」とプレナイトが誰かを救う度になんで救う気になったかを聞かれるとそう答えていて、プレナイトは「パイライト…、また喋ったな?喋るなって言ったろ?」と文句を言う。

そもそもなんでスレイブがマスターの命令を無視できるのかを気にすると何回目かのオルドスチェックの時に「あ〜、それはミチト君の無限魔水晶で生み出されたからだよ」と説明された。


「ミチト君の無限魔水晶はマスターの命令よりも自身の命を優先するように作られていたからね」


まさかの言葉にプレナイトは「何?」と反応をする。


「だからパイライトちゃんはプレナイトの命令よりも、自身の命…自分の運命と位置付けてアゲートさんとの暮らしを優先してプレナイトの逃げ道を塞いでいるのさ」


この言葉に「マジかよ。ふざけんなよ」と言って悪態をつくプレナイトを見て笑うオルドスが「その顔、ライブさんとミチト君によく似てるよ」と言い、プレナイトは何か言い返してやろうと思い「コノヤロウ」とだけ言った。

確かにその顔はミチトとライブに似ている気がした。


プレナイトは5年前に比べたらあり得ないほどの実力になったがグラスにはまだ追いつけない。

それはグラスが今も悪の貴族を正してマ・イードの為に邁進している為だった。


オルドスチェックの後には決まって村に来るグラスとオブシダン。プレナイトはグラスに「お前、休んでろよ」と言うと「だめよ。私はスティエットですもの」と返される。


「おい!オブシダン!」

「僕も言っているんだけど困るよね」


アゲートも5年前の実力からすれば今は5年前のグラスぐらいの実力になっていて有能なグラスの右腕になっている。

だがアゲートをトートイの前には出していない。

これはオルドスに言われていて、この力をオッハーに送り出す事を邪魔する輩が出てしまうと言う理由だった。


オブシダンも自身を追い込んでいて転移術の雑用なんかは自ら名乗り出ていて、今日もグラスの代わりにアゲートをパイライトの元に送る。


「パイライト!」

「ママ!」


もうパイライトはアゲートをママと呼ぶ。

そして既成事実のように村を散歩して村民からも「ママに来てもらったのか?良かったなパイライト」と声をかけてもらえる程になっていたし、アゲートも顔立ちがナー・マステ人なので「色々あったんだろうけど諦めんな、早くこの村に来て幸せになってくれよな」と声をかけられるまでになっている。


遠目に見ていたオブシダンは「あれでは連れてきて連れ帰る僕達が悪党だ」と言って肩を落とすとプレナイトが「すまん。修行はしているがグラスの奴が更に先に行きやがる」と謝る。


「あはは、わかっているよ。凄い力だよね。それに村も随分と住みやすくなったね。治水に道や地盤の整備、来る度に見違えるよ」

「お前もかなり無理してるだろ?」

プレナイトがみればわかる。オブシダンは明らかに無理をしていて、失敗をすると人の身で成長限界を迎えてしまう恐れもあった。

オブシダンは困り顔で「そうでもしないとグラスが結婚しないんだ」と言う。結婚の単語にプレナイトは「結婚?見合い話か?」と聞く。


「ああ。トートイ様のご厚情とおじ様のお墨付きでね。ジャックスの次期領主、ペリス・ジャックスとね。僕も少し知っている相手だから言えるが悪い話ではないと思って居る。だがグラスは結婚でスティエットが不在になるとまた国が荒れるってね」

「グラスは…25だな。急がないとな」


「ああ、だから僕も強くなってスティエットを名乗りたい。おじ様はもう名乗れると言ってくれたがまだ真式ではない。フユィ・スティエットのように後天性のスティエットになれるように追い込んでいるよ」

の言葉にプレナイトが「案外名乗ったらなるかもな」と言う。


「え?」

「リナがスティエットを名乗った頃だろ?タシア・スティエットを妊娠したのは」


「あはは、そうかもね。前向きに考えるよ」

「そうしろ。とりあえず異変があればすぐ呼ぶからアゲートは置いて帰れ。俺も覚悟が足りないのかも知れない。3人家族をしてみる」


これがオブシダンとプレナイトの転機になった。


オルドスの支持を得てスティエットを名乗ることにしたオブシダンは1年後には真式になる。

そしてプレナイトはパイライトの笑顔とアゲートに後ろ向きな始まりで良いのかと問いかけて「夫婦を学びました。私はプレナイトを夫にしても良いと思っています。頑張ってくださいね。あなた」と返されて、この話でパイライトの母になりたいだけのアゲートなのだと思っていたが、キチンと自分との事も考えていたことに感謝をして更に成長速度が増した。



所代わりグラスの方は悩んでいた。

ペリス・ジャックスは悪い人間ではなかった。

ミチトのはからいでサルバンとジャックスの間を結ぶ岩山は整地された事で付き合いが生まれていて、パテラの孫はジャックスの娘を嫁に迎えていたし様々な付き合いが出来ていた。


だから嫁に行く事に不満はない。

いずれ自分も嫁に行くと思っていたし、オブシダンがいる以上、婿を取る訳にもいかない。

こんな時、姉コーラルなら婿を取ったかも知れないと思うとグラスは笑ってしまう。



今日は何度目かのデートになる。

毎回「次こそはお迎えにあがりますよグラス嬢」とペリスは言うが「ふふ、私はスティエットですよ?私からお邪魔します」と返してペリスの元に向かう。


そして通気術で守りながらペリスを連れて天空島に移動をする。

特別な人しか連れて行ってはダメと教わっていたのに連れて行く。

それはグラスの答えでもあったがグラスは気付いていない。

紺色達にはかまわないように頼んで天空島の縁に腰掛けて真下を流れる雲を見ながら「お話ししたいんです」と言う。


ペリスは聞き上手な上に真摯にグラスを知りたいと思っていて「お話しください」と言う。


姉のこと、兄のこと、ミッシンが攫われた時のこと、ツギハギにされていて自分の手で止めたこと、ナー・マステの地でハイガイ・レイジを討ってイノー・ブートを倒したこと、その時に助けたアゲートのこと。


全てを話した。


「私では無力だとしても支えたいです。もっと話してください」

このペリスの言葉にアゲートの話をする。


アゲートはスティエットであるグラスの力で生半可な術人間の力を凌駕していて、そのアゲートが「生まれ故郷に帰す」と言う形で知り合いの娘の母になる日まで何もできないという話をする。


「そこまでの力を持つ術人間をお任せできる人というのは?」

ペリスの質問にグラスは他言無用を頼んでマ・イードに絶望して国を捨てたスティエットの話しをした。

驚きながら話を聞いたペリスは貴い者としてプレナイトに申し訳ない事をしてしまったと言った。


話した以上、グラスが心配なのはアゲートの事とプレナイトの事だったので「陛下に言いますか?」と聞く。ペリスは首を横に振って「言えません。間違いではない…。だから言えません。ただお会いしてご挨拶はしたいですね」と言った。


「挨拶…ですか?」

「はい。グラス嬢を妻に迎えたいので頑張ってくれと言いたいです」

権力や戦闘力が不要であれば邪魔になるスティエットを真摯に妻に迎えたいと言うペリス。

グラスはその事に驚いて「ペリス様…」と返した。


ペリスは優しく微笑んで「私は本気です。あなたの貴さの半分もないかも知れませんが男を磨きます。どうか私と結婚を前提にお付き合いください」と言った。


「ありがとうございます。ですが今の話を…」

「わかっています。何年先になっても構いません。お待ちしております。納得をしてからジャックスにいらして下さい」


ペリスはそう言って天空島から落ちる。


「ペリス様!」

グラスは慌てて追いかけるとペリスは「ありがとうございます。私が嫌ならこのまま見捨てていただいて結構です。どうぞ秘密を知った口を封じてください」と言う。


「いえ。私こそよろしくお願いします」

グラスはかつて姉が見本を見せてくれたように空中遊泳を楽しむと王城に降り立ってそのままトートイに婚約の報告をした。

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