第16話 オブシダンの闇。

オブシダンが帰還したのはひと月後で、その顔付きはガラリと変わっていた。

余りの兄の変容にグラスは「兄様?」と言ってしまう。

オブシダンは変わってしまっていても変わらない笑顔で「やあグラス、変わったね」と言った。


「兄様こそ顔が怖いわ」

「…そうだね。僕は自分の限界を見たよ。口惜しかった…」


オブシダンはこの世の地獄を見ていた。

ロムザ領には人間牧場が出来ていて、出荷間近の子供達が居た。

中には若干1歳で「低年齢での術人間化は可能か」というコンセプトで術人間にされていた子供や幼い時にツギハギにすれば拒否反応も起きないという仮説に基づいて6人の子供がツギハギにされていた姿も見た。


妙齢の女達は連れ攫われ、金で買われて子を産むだけの存在にされていた。


オブシダンが乗り込んだ時、正午にも関わらず当たり前のように女から行為を強要される男もいた。ロエスロエで壊された男は機械のように腰を振り続けていた。


オブシダンは力不足を呪う。

帯同した第三騎士団は勿論、王都の誰もが偉業だとオブシダンを称えた。


オブシダンは個人としては十分すぎる成果を見せた。

だがオブシダンが見ているものは別だった。


模式を救い、敵を倒す。

その2つを1人でやり切りたかった。


模式の保護を優先し、戦闘を第三騎士団に任せたが負傷した者もいた。

どうしても保護すべき模式を前面に出され暴れられると手出しできない分傷を負ってしまう。


その傷は自分が負う何倍も苦しかった。

レイザーはほぼ何もなかったがバグは更に酷いものだった。


エグゼ・バグは身体に障害を持つ娘をひと山幾らの端金で買い漁り、ロエスロエで壊して自分の性欲を満たしてから術人間化をして性技術を仕込んでバグ領の主産業にしようと画策した。


特権剥奪をされて息子のシリィ・バグが当主になった際には術人間で傭兵部隊を作って売りに出そうとしていたとして特権剥奪されていた。

エグゼの甥が当主になりなんとか繋いできたバグ領だったが今度はその子孫が格安で術人間を生み出す事を産業にしていて、更に人間に模式の部品を付けてのツギハギが生み出せないかの実験を行なっていた。


これが成功すれば若い術人間のパーツで年老いた人間を若返らせられると言って終わりのない実験に明け暮れていた。


オブシダンが心に更に深い傷を負ったのは、乗り込んだ時、1人の少女は殺されかけていた。

少女は自身の腹部がとられた事を理解していてずっと右手は腹部を取り戻そうと探していた。


オブシダンに語りかけた最後の言葉は「おなか…探して…」だった。


オブシダンは自身が真式なら、直結超転移術が使えていれば、そもそも第三騎士団を不要としていたらこの少女は殺される事が無かった。

殺される前に助け出せた。


その怒りで目に映る全ての敵を小規模のインフェルノフレイムで骨も残さずに焼き殺した。

第三騎士団に言わせればその全てが真式と同じ、スティエットの姿だった。




そう、この失態はオブシダンが招いていた。


自分は真式ではないからできない。


そんな事を思っていて試す事もしなかった。

オブシダン・サルバンの実力なら直結超転移術も使えていた。


オブシダンはサルバン家のスティエットだけではなく他のスティエットの軌跡も追うべきだった。

「やっぱり僕は術は苦手だよ」と言いながら人の身で術を使い、不慣れな分を全て剣技と拳技で補ったタシア・スティエット。

真式のトゥモ・スティエットに負けたくないと努力で追いついたジェード・スティエットは人の身でミチトの術を理解して真式とは違う方式で放ち、他の家族にもそれぞれに適した術を授けていた。


結果として心に傷を負い、サルバンに帰ってくると妹はスティエットとして開花して王都を正し、模式のマスターになり、更に成り行きとはいえツギハギを生み出していて、真模式にしてしまっていた。


これが決定的な傷になりオブシダンは心があっても力が無ければ意味がない。力こそ全てと思うようになっていた。


だがその心を見せればスティエットとして目覚めた妹は兄オブシダンを許さないだろう。


オブシダンは心を欺く事にした。

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