第14話 グラス・スティエット。
目の前で摸式達が惨殺された事にショックを受け放心しているグラスに向けてイノー・ブートが放った光線術はグラスを捉えていた。
間違いなくグラスを射抜く。
目の前でイノーが光線術を放っていても、グラスは未だに切り刻まれた模式達のカケラにまみれて放心していて反応出来ていない。
イノーは勝利を確信した。
そして祖先、バロッテスを辱めたミチト・スティエットへの意趣返し、自身が闘神の子孫に打ち勝つ事の喜びに紅潮していた。
だがそんな淡い夢は次の瞬間に儚く打ち砕かれた。
グラスに向けて放たれた光線術は小さく強固な光の壁に阻まれた。
「何!?光壁術!?バカな!その女は放心…」
イノーが呟いた時、確かに聞こえた、「やらせる訳…ないだろ?」と…。
イノーは辺りを見渡して「だ…誰だ!?」と言うが姿は見えない。
だが声は聞こえてくる。
「お前には関係ない。ガタガタぬかすとピヨピヨ言わすぞ?アクィのレイピアが俺たちの子供を守る。お前の攻撃如きが届くわけもない」
イノーは懲りずに光線術やその他の術をグラスに放つがただの一度も光壁を突破出来ない。
そんな中、声がグラスに語り掛ける。
「グラス…、前を見ろ。立ち止まるな…」
「…え?」
「俺の声が聞こえるな?アクィのレイピアが守れるのはあと少し…、光壁術は術消費が激しい。「愛の証」の魔水晶でも限界が近い。さあ立ち上がってあの魔術師を殺すんだ」
「ミチト…お爺様?」
「そうだ。立ち上がれ!グラス・スティエット!」
力強いミチトの声にグラスは頭を振って涙を浮かべて「で…でも…模式達…私を…」と言うがミチトは「命を背負ったんだ!覚悟を持て!今ここで倒れて何になる!俺やアクィ!イブの分まで戦ってくれ!」と語り掛ける。
「わ…私、弱いスティエットで…」
「何を言う!十分に強い!今すぐ行動だ!貴族が逃げるぞ!」
グラスの中にミチトの言葉が反芻される。
「立ち上がれ!」「命を背負ったんだ!覚悟を持て!」「俺やアクィ!イブの分まで戦ってくれ!」「何を言う!十分に強い!」
この中で命を背負えと言った言葉と目の前の摸式達の亡骸がグラスに立ちあがる力とスティエットとして義務を果たす力になった。
グラスはゆっくりと立ち上がるとイノーを睨みつけて「許さない。奪術術」と言って術一つ放てなくすると一気に右腕を斬り飛ばして喉に剣を突き立てて殺した。
イノーを殺してミチトの声を探したがもう声は聞こえなかった。
グラスは切り刻まれた模式達の前で涙を流しながら「助けたかった…、ごめんなさい」と言って泣く。
生きている術人間は居なかった。
皆ピクリとも動かない。
だがその時、小さく声が聞こえてきた。
「マスター…」
グラスは慌てて模式をかき分けて自分が支配権を奪い取った模式を見つけ出す。
「あなた!」
「マスター…ご無事…ですか?」
「ええ、ええ!あなたのお陰ですよ!」
「良かった…」
そう言った女性の術人間は泣きながら「死ぬの…怖いです…」と呟く。
そのまま「死にたくない」「助けてマスター」と言った。
グラスはハッとなって術人間を見るともう一度「助けてマスター」とハッキリと言った。
だが女性の身体は腹部から斜めに下がなく、両腕も斬り飛ばされていた。
今生きているのは奇跡で、無限記録盤の相性や無限魔水晶の力かもしれなかった。
だがハッキリと生きたいと言われたグラスは覚悟を決める。
しっかりと女性の顔を見て「あなたの命を私に背負わせて」とグラスは言い、女性も「はいマスター」と言った。
グラスは女性の下半身を探すと両手を探した。
だが手はイノーがグラスに放った光線術やフレイムウェイブで焼け落ちていたし、もう一つの手は心眼術で見ても術気も何も残っていない死んだ腕だった。
下半身も右脚は膝から下がもう死んでいた。
グラスはバラバラになった術人間の中から年恰好の近い女性の手を見つけると心眼術で見る。まだ腕には術が残っている…生きた腕だった。グラスはまた別の腕を見つけると自分の術人間の横に置く。そして最後に右脚を見繕うと並べて深呼吸をした。
これからする事を思うと手が震える。
自身にやり切れるかと思うと逃げ出してしまいたくなる。
忌避した行為を否定したくなる。
「ミチトお爺様、姉様…私に覚悟と力を…」
グラスは自身の考えを否定したい気持ちを必死に押さえつける。
そして何遍も自身が支配権を強奪して自分を救おうと身を呈した模式の「死にたくない」「助けてマスター」と言った言葉を反芻する。
「心眼術!この子の身体を赤!手足が同じ色になるまで術を送ってこの子を繋ぎ止める!融合術!!」
グラスは教わったわけでもなく融合術を理解して放つ。
それは真式だから出来る事。
今この場では自分にしか出来ない事だった。
手足は長さが違っていたが繋がって同じ色になった所で「長さを整える!余分な肉は適正な場所に行きなさい!」と言って手足の長さを整える。
同じナー・マステ人でも肌の色なんかは微妙に違ってしまっているが同じ手足にしか見えないように直していく。
「…失敗なんてさせない。私はグラス・スティエット!スティエットの名の下に必ず成功させます!無事に治ったら目を開けて私をマスターと呼びなさい!」
10分もするとツギハギとなった模式は目を開けて「マスター、ありがとうございます」と言った。
グラスは涙を浮かべて「生きてくれてありがとう」と礼を言うと女性も「いえ、ありがとうございます」と言った。
グラスは自分より少し年下に見える女性に名や歳を聞くと流石はSランクなのだろう名前は覚えていて「アゲート、17歳です」と答えた。
「アゲート、ごめんなさい。私の術人間としてついてきて」
「はいマスター」
グラスはハイガイを追う。
無意識に心眼術と検知術を使うとハイガイは地下から船で逃げようとしていた。
未だに逃げきれていないのは兵士達の剣を凍らせておいたりゴロツキ共の利き腕を使えなくしていたからだった。
「逃がさない!転移術!」
グラスが港に着くとハイガイは船に乗っていて、グラスが支配権を強奪したAランク達はゴロツキ達と戦闘をしていた。
Aランク達が弱いわけではなく、ゴロツキ達は船の中や別の場所にも居たようでかなりの人数が、Aランク達を足止めしていて、その間に船は出港しようとしていた。
グラスに気付いたハイガイは血にまみれたグラスに気付き「現れたな、血まみれの悪魔…いや…魔女め!」と言う。
グラスは意に介さず「イノー・ブートは倒しました!諦めなさい!」と投降を呼びかけるがハイガイは「うるさい!逃げてしまえばこちらのもの!後の事などどうとでもなる!」と言い返してきた。
「なるわけがない!」
「なるさ!今のマ・イードは腐り切っていて自浄作用なんて無い!私の件で兄ゴナーがどうにかなると思うか!?兄を排除すれば誰がその仕事を代わる!我々から無限術人間を買っていた連中は?その当主はどうなる!」
確かに第一騎士団は視察に出ても団員の家族や知り合いなんかは全て見逃してきた。
その事を思うと、下手をすると全員が代替わりをする羽目になる事は想像できた。
そうなれば国は荒れる。
サルバン、カラーガ、ドデモ、モブロン、ディヴァント、アンチ、リミール、チャズ…それ以外の正義の貴族達が残ってもどうすることもできない可能性もある。
だがグラスは覚悟をしていた。
「覚悟はあります!今すぐに投降をするなら命は助けます!」
だが港を守るゴロツキ達もハイガイも止まらなかった。
向かってくるゴロツキ共を見て「…アゲート!ゴロツキ共を制圧しなさい!」と指示を出すとアゲートは「はいマスター!」と言って前に飛び出すとゴロツキ共を術で殺していく。
グラスはその間に前に出ながら「ハイガイ・レイジ、逃がしません!氷結結界!」と言った。
グラスの氷結結界は海を凍らせて船をその場に繋ぎ止める。
「ば…バカな…、海が凍った…?お前達!何とかしろ!」
ハイガイがそんな事を叫んだ時、グラスは「アイスバイト」と唱えて船を粉々に噛み砕くと海に落ちたハイガイ達に向かって「海龍生成、引き千切れなさい」と言って水で龍を生み出すと海に引き摺り込む。そして龍の腹の中…水流を生み出してゴロツキ達とハイガイを引きちぎった。
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