第13話 グラスvsイノー。

ハイガイの護衛についたのは数名の兵士と出来たばかりの術人間達で、イノーを守ったのは18人の術人間達だった。


8人はあまりだが10人の動きがいい。

連携も取れている。

何より術の精度が高い。


イノーの勝ち誇ったような「見たか!これがSランクの力よ!行け術人間達!目の前の女を攻め立てろ!」という言葉に18人の術人間は「わかりましたマスター」と返事をした。


恐らくランクは無限記録盤との相性。

これだけ数が揃ったのはナー・マステ人のポテンシャルだと言って考えを放棄してはいけない。

間違いなく50人に1人の逸材だとすれば単純計算で500人が犠牲になっている。

中にはこの前プレナイトが救っていたパイライトを彷彿させる年頃の子供までいた。



アイスランスの精度も高い、同士討ちも起きず連携も取れていてグラスを休ませる気もない。

これが数日前のグラスなら劣勢になっていたが今は違う。

ミチトに会い、ミチトの言葉に道を貰った。

胸を張ってスティエットと言えるように努力をする。


グラスは身体強化でアイスランスを放ったAランクの少女の前に立つと「私の術で支配権を奪う。私がマスターよ。返事をして」と声をかけながら支配権の強奪を行う。


すぐに少女はグラスの事をマスターと呼ぶ。


「し…支配権の強奪…。こんなに速いのか!?悪魔め」

「好きに言いなさい!私には覚悟があります!模式達の命は私が預かります!」


グラスは手早く回避行動を取りながら一気に距離を詰めながらAランク達の支配権を強奪し「ハイガイを追いなさい。でも無理はしないで、私が後から何とかします」と指示を出していく。


「はいマスター」

スレイブ達はそう言って1人、また1人と作業場を出てハイガイを追う。


10人の連携ならば問題無くなったグラスが支配権を更に奪おうとした時、イノーが攻勢に出た。



「光線術!」


その術はまさかの光線術だった。

後年オルドスがマ・イードを追われてオオキーニに身を寄せた時に生み出した術。


本来禁術書の術で何故イノー・ブートが光線術を持っているのかわからなかった。

光線術はミチトのアイスウォールでも防げない。

グラスはミチトとオオキーニのハーシャ王、ジャスパー・ワーティスとの戦いを知っていたので必死に回避をする。


「どこで光線術を!?」

「ふふ、ラージポットの無限術人間…あの不死者が旧トーシュ王に頼まれて失われたオオキーニの禁術書を蘇らせた。まあ条件として確定術は残さなかったから受肉術は無意味だがその中にあった光線術をハイガイ様に見てきてもらい、私はそれを読み取った!」


オルドスの書物なら古代語だがイノーはそれすら伝心術の応用で読み取っていた。

間違いなく天才の家門。


その後も光線術の支援攻撃が続く中、術切れが近いのかイノーは勝負に出た。

まさかのスレイブ越しの攻撃でスレイブを貫通してくる光線術にグラスは驚く。


「あなた!なんて事を!」

「勝てばいい!負けるなどあってはならない!」


スレイブの鮮血と苦悶の表情。

グラスは血が沸騰するのがわかる。


「許さない!アイスランス!」

「光壁術!」


グラスのアイスランスはイノーの光壁術に防がれる。

スティエットを名乗る真式のアイスランスでもビクともしない光壁術。

確かに天空砲すら受け止める光壁術なのだから仕方ないと言えば仕方ない。


「ちっ、狭い室内で放てる術がない」

「術人間達よ!あの女を取り押さえろ!」


近づいてくるSランクの1人を支配権の強奪で助け出して剥がしたがグラスには何体もの模式の支配権の強奪を同時にやる事は今はまだ無理だった。


その為身体を押さえられたグラスが「離れて!ダメ!」と言った時、イノーはグラスに向けてウインドブレイドを3回、それも縦横斜めと放っていた。



グラスが一瞬の間に奪術術の気で身体に纏わりつく模式ごとウインドブレイドを無力化しようとした時、剥がしたSランクのスレイブが飛び出してきてグラスを押し飛ばす。


突然の事に状況が理解できず「え……」と言ったグラスにスレイブは「マスター、守ります」と声をかけた次の瞬間、ウインドブレイドで模式達はみなバラバラになった。


飛び散る手足、胴体、頭、降り注ぐ鮮血。

生臭さと生暖かさ。


「あ…あ……あぁ…ああぁぁあぁぁあああ…」

グラスは目の前の惨状に言葉を失い放心している。

イノーは「ちっ…、Sランクが余計な真似を…だが好機!死ね!光線術!」と言ってグラスに光線術を放った。

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