第12話 ハイガイ・レイジとイノー・ブート。

グラスは認識阻害術を使ったままメイドの後ろを歩いている。

そして洞窟が出来てからの事やメイドに関して聞いていく。

傍目にはメイドが夢遊病のようにブツブツと話しながら作業場を目指す形になる。


確認できただけでミチトの腕輪はここにはなく、数多くのナー・マステ人が模式にされてランク毎に分けられて出荷されていた。


言葉は悪いが出荷は可能で、代理マスターさえ任命すれば何の問題もない。


作業場に近付くと兵士に見つかってメイドは怒られるが眠っていて話にならない。

兵士達は皆訝しむが次の瞬間には認識阻害術を使っているグラスの手で気絶させられていく。


「殺す事はまだしない」

グラスはそう言うと倒した兵士の剣を全て凍らせてしまう。



作業場に着くと既にハイガイは中にいてイノー・ブートに進捗を聞いていた。

グラスは中に乗り込む事なく集音術と遠視術で中を確認する。


声の方を見ると数名の兵士と数名の模式が見えた。


青白い肌に濃い灰色の髪色の魔術師、こいつがイノー・ブートだろう、イノーが「順調でございます」と言うとひと目で貴族とわかる男が「助かっているぞ、必要な物があれば何でも言ってくれ」と言う。コイツがハイガイ・レイジで間違いないだろう。


「ありがとうございます。無限記録盤と無限魔水晶の在庫が心もとなくなってきました」

「うむ。それはレイザーとロムザが空白地帯のキャスパーを抜けてデススタンバイから取ってきたものを術人間と等価交換にしよう」


…領主不在で名前だけはキャスパーが残っているキャスパー領を抜けてオオキーニに行く、そうすれば足は付きにくい。


グラスが無限魔水晶と無限記録盤の出所を聞いているとハイガイが「出来はどうだ?」と言い、すぐにイノーの「Aランクが2体、Bが5体、Cが3体です」という声が聞こえてきた。


「そのうち子供は?」

「成人が4人、それ以外は年齢は様々ですが皆子供です」


「では無限魔水晶と無限記録盤を10セットとBランクの交換でいけるな?」

「はい」


「Aランクはこれ一つでレイジ領3ヶ月分の値がつく。助かるぞイノー」

「いえ、我々をお救いくださりありがとうございます」


聞いていて心乱される…怒りに支配される会話にグラスが見たこともない表情をしていると後ろからメイドを咎める声が聞こえてくる。

確かに扉の前で突っ立っていれば何事かと声もかかる。


グラスは声をかけた兵士がメイドの肩を掴むまで待って掴んだ瞬間に認識阻害術をやめると怒り任せに兵士の腹を蹴り抜いた。


すぐに兵士の口からキツイ臭いの吐瀉物が出てきたがグラスは気にする事なく扉ごと蹴り抜く為に「身体強化…、死になさい」と言った。


作業場の中は大きな部屋で2階分の高さに6部屋分の広さがある。グラスが開けた扉は2階に位置していてイノーとハイガイを見下ろす形になる。


グラスは立たせたメイドに隅で寝るか部屋に戻って寝るように指示を出すと作業場に入って中を見る。

中を見てグラスは息を呑む。


それは遠視術では見なかった部屋の隅に模式達が肌着を着せられた状態で30人は立ち尽くしていた。

皆マスターであるイノーの命令に従って立ったまま眠らされているのだろう。

置物に見えてしまう。


逆にイノーやハイガイからすればこの場に不釣り合いな背中まで伸びた濃いピンク色の髪色でブルーグレイのロングスカートに白いシャツ、ブルーグレイのカチューシャ姿のグラスは異質だろう。


そしてグラスが何者かを理解していない。

「娘!何者だ!」

「どこから入った!」


この言葉にグラスは「愛の証」を構えて「私はグラス・サルバン!そしてグラス・スティエット!スティエットの名に従い、サルバンの名の元に悪を討ちます!覚悟してください!」と名乗り上げた。



スティエットの登場に心穏やかでないのはハイガイもイノーも変わらない。

何とかこの場を切り抜けて証拠の隠滅、あわよくばグラスの始末を行いたかった。


「くっ…スティエット!?どうしてここが!イノー!認識阻害術は!」

「かけてあります!キチンとハイガイ様に見てきていただいた国営図書館の禁術書にあった悪魔の術にあった認識阻害術を使いました。だからこそこれまでも見つからずに…」


慌てふためくハイガイとイノーに向かってグラスは「甘いんです。私はスティエット。高祖父の名にかけて見破ります。それに付け加えてあげます。サルバンから子供を攫ったのはあなた達?あんな真似しなければ私は乗り出さなかったわ」と言った。


「サルバン!?イノー!」

「私ではありません。おそらくレイザーのクレズ夫人だと思います。この前Aランクの術人間を買い求めて自分用の術人間が欲しくなったと言っていました」


この会話で大体の筋道が読めた。


恐らくイノー・ブートとハイガイ・レイジから買い付けたAランクの術人間にミッシンを攫わせて、自分用の術人間が欲しいと言ってAランクを素体にツギハギを作って失敗をする。

グラスは「その術人間は男性?」と聞くとイノーは探るように「ああ…」と答えた。


「ならツギハギにされていたわ。そのツギハギが魔術師と貴族を噛み殺していた…」

「くっ…愚かな…ランクが上がればそれだけ再施術も難しくなると教えたのに…」


グラスは前に出ながら「まあ聞きたい事は聞けましたから、大人しく捕まるか、戦って死ぬかを選んでください」と言うが、当然素直に投降するわけもなくイノーは「目覚めよ術人間達!あの女を倒せ!」と言い、別の扉からハイガイを逃がした。

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