第11話 魔術師の影。

グラスはリプレスサウンドの領域に入る。

そこには王都から管理を任された兵士がいたがグラスは認識阻害術を使って素通りをする。

兵士の胸を見るとレイジ家の家門だった。

その場でオルドスに確認を取るとレイジ家はリプレスサウンドの管理を担っていた。


「…まさか管理を任されたダンジョンで悪事を働くなんて…、もう少し裏を書くとかしないのかしら?」

グラスは呆れながら領域に入ってすぐに見えた森に入るとすぐに海に出る。


リプレスサウンド自体は干潮時に道が出てくる場所にある小島がダンジョンで、グラスの探していた洞窟はその隣の小島にあった。


心眼術で見なければわからなかった。

干潮時にのみ見える穴が洞窟になっていた。

地上はどこか空気穴のように出口があるのだろうが、そちらはメインの通路で真正面から乗り込んで、かつてのトウテ防衛戦のように集団自決を計られても困る。

グラスは海中を進み洞窟から中に入る事にした。


洞窟の中は広く、そして手が加えられていたようで中型船が入れるようになっていた。船着場ではゴロツキ共が宴会を開きながら「あの気持ち悪い実験とか何とか何ねーのかな?」と笑っている。その顔立ちからしてナー・マステの人間だろう。


「まあ魚獲って生きるより金はいいからな」

「まあ俺達はこう見えてレイジ家の海上部隊だからな」


「マ・イードはグッチャグチャなんだろ?なんでも闘神の子孫達は厄介事から逃げ出したから鬱屈した連中があの術人間ってのを求めて好き勝手やっても今の王様じゃ役不足で抑えきれねえって話だよな」

「ま、そのおかげで俺達はナー・マステで漁業してる小船から素体を集めてくれば後はこうして酒が飲めるし、レイジの奴は話は通じるから俺達の村民は襲わないで良いって言ってるしな」


言うだけ言って下品に笑い合うゴロツキ達。

そんなゴロツキを見て…グラスは怒りに震える。


なんて身勝手な連中だろう。


グラス自身、ラージポットでミチトに会って自身が変わった実感を得ていた。

尊敬する理解者に言葉を貰い、前へ出られるように、ストレートに感情を表せるようになっていた。


ブルーグレイのロングスカートに白いシャツ、ブルーグレイのカチューシャ姿のグラスはわざと姿を見せて驚かせてからゴロツキ共に眠りの魔術を使う。

この場に似つかわしくない格好で殺気を漲らせながら「『攫った人間はどこ?』」と聞くとゴロツキ共は魔術師と上に居ると言う。


「そう、わかったわ。利き腕は左かしら?左腕封印」と言って上階を目指す。

これで戦闘になってもゴロツキ共は役に立たない。



ここでグラスは情報不足に気付いてオブシダンに連絡を取る。

オブシダンはまだロムザ領に向けて進軍している最中だった。


「グラス?どうしたんだい?」

「レイジの洞窟を見つけたわ。レイジのことを何も知らないから聞きたくて連絡したの」


「グルで無ければゴナー・レイジが王城勤め、ハイガイ・レイジ、弟の方がダンジョン管理を任されている。まあ弟の方は気楽さ、この場合の特権剥奪は当主であり兄のゴナーだからね」


呆れるようなオブシダンの声にグラスは「兄様、超法規的活動は何しても平気よね?」と聞く。こんな攻撃的なグラスは見たことがないオブシダンは「グラス?どうしたんだい?」と優しく問いかける。


「ごめんなさい。ミチトお爺様にお会いして人柄に触れてからお爺様が粉骨砕身なされて手に入れた平和を台無しにした連中が許せなくて…。後は姉様が居たらって思ってしまったの」

「…気負う事はないよ。僕達はサルバンでレスでスティエットだろ?正義に準じよう」


グラスは「ありがとう兄様」と言うと認識阻害術のままで地上を目指す。

洞窟と言っても腕の良い魔術師や大工を抱えているのだろう。


通路は洞窟ではなくキチンと廊下になっていて開いている扉から見えた部屋は壁こそ岩肌だが部屋になっていた。


何か駆け足のメイドが居たので眠らせて事情を聞くと丁度ハイガイが領地から視察に来ていて宴の用意をしていた事、この洞窟について聞くとダンジョンが仮にオーバーフローをすると近くの村民やナー・マステに迷惑がかかるからと防衛目的でハイガイ・レイジが腕のいい大工を連れてきてお抱え魔術師のイノー・ブートと共にこの洞窟を作ったと言う話だった。


「『ブート!?バロッテス・ブート!?』」

「それは…言うとイノー様に怒られます。イノー様はブート家存続の為に自ら雇ってくださっていた当主を殺したバロッテスの代わりにレイジ家に自らを売り込みました」


バロッテス・ブートは無限術人間模式の製法、それも間違ったモノを世に広めてしまった。

それによりミチトの手で始末をされたが、オオキーニとの戦いで蘇らされてマ・イードに弓引いた存在だった。

だがバロッテスの見上げた所は同時に裏切り、確保されたエグゼ・バグ、モンキー・レイザー、エヌバー・ロムザ、エグゼはもともと術人間を勝手に生み出してディヴァントに攻め込んで特権剥奪の身であったがモンキー・レイザーとエヌバー・ロムザは家族にも無断でマ・イードを裏切ってしまうような人間だったが、収監され、処刑されるまでの間も無実を訴え「子供達の希望に沿っただけだ」と口を合わせ「現に決戦に参加もしなかった」と言い減刑を求めたが、バロッテスだけは最後までマ・イードと言う国の危うさとミチトの危険性を訴えて自身の行動は間違っていなかったと言って処刑された。

余談だがバロッテスはアクィを傷つけた事でスカロとパテラからフルパワーで殴られていたことはサルバンの中だけでは有名な話になっていた。


その後のブート家の没落は有名だった。

優れた魔術師の家門だとしても仕えた主人を殺し、国に弓を引けばいくらなんでも許されない。

弟子達は全てブート家を離れ、一からやり直す事になる。

プエルト・レイジはオオキーニの一件とは無関係だがアプラクサス・アンチとシック・リミールを毒殺しようとした罪でミチトに改竄された。その改竄は自分の利益よりも国に尽くす事を至上と思うようにされたことで、そのプエルトが国の為になるからとブート家に対してバロッテスの処刑以外の刑罰は与えない事を進言して受け入れられていた。


そこからレイジとブートの付き合いが始まり今に至った。


「『イノーはどこ?』」

「ハイガイ様に成果をお見せすると作業場に居ます」


「『ハイガイは?』」

「ハイガイ様はお茶を飲まれたらイノー様の所に行きます」


これはこれで悪くない。どうせなら全てを一気に片付けてしまいたい。グラスはメイドに作業場に案内するように言った。


だがメイドは作業場の前までしか行った事がない事を返してきたがグラスは気にしないと伝えて案内をさせた。

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