第10話 ミチトとの密談。
グラスは砂浜に出ると、あの時プレナイト…ミチトが術の使い方を教えてくれていた事を思い出す。
自身には思いもよらなかった超域…ラージポットからマ・イード、オオキーニ、オッハー、ニー・イハオ、ナー・マステの全てを一気に遠視術で見ながら心眼術で話に聞いただけのツギハギ事件に関わった貴族を炙り出し、しかも潜伏場所まで示す。
そしてプレナイト自身とも話をしているという中、伝心術でミチトが語りかけてきた。
「あ、グラス。聞こえているよね?動きで反応しないで、キチンと伝心術で俺に語りかけるんだ」
グラスは驚きながらも「ミチトお爺様?」と伝心術で返す。
「オブシダンはフユィみたいになってるから術の使い方を口で伝えると、「僕は真式じゃないから…」なんて言い出すだろうから伝心術にしたよ」
伝説のミチトであれば可能なことでも今のミチトの身体はプレナイトで、いくら真式だとしても能力差は歴然でグラスは心配のあまり「ミチトお爺様は…術量は…」と言ってしまう。
「平気だよ。足りない分は真式に出させたからさ」
道との言葉を聞いてグラスがオルドスに目配せするとオルドスは優しく微笑む。
「今回、敵は模式を使って人攫いをしたんだろう。国営図書館に遺してきた俺の認識阻害術を使ったか、斥候術だね。だから君達が見つけられない間に検知範囲から出てしまって手遅れになったんだ。遠視術も検知術も心眼術も全て込める術量を引き上げるんだ。君は真式だから意味は理解できるよね?それに君は優しいね…。ロゼみたいだ」
「ロゼお爺様ですか?」
グラスは自分の母の先にいたミチトとイブの息子をイメージする。
「うん。ロゼも真式だったんだ。知ってるかな?」
「はい」
「まあ、アイリスと俺の子だからね。でもロゼは先天性の真式だとはきょうだい達には隠したんだ。大きくなってそれぞれが自分自身に納得と満足をしたとき、真式になったと言ったんだ」
「…何故…まさか…」
ここで、この話が出るという事はグラスの想像通りだろう。
それを裏付けるようにミチトは「うん。フユィとジェードは自身が真式でない事に傷ついて居たからね」と言った。
「望めるのならタシア達は真式ではないけど強かったからそっちに憧れてくれれば良かったのに、俺が真式だから真式というものに憧れてしまった。
ジェードは真式にはなれなかったけど子供の頃から模式並には実力もあったし、人を導く才能もあったおかげで男の子らしく強かったから良かったんだけどフユィは違った。
だからロゼはフユィとジェードに真式?と聞かれて違うと答えて秘密にしていたよ。あの子の才能は凄かった。見事に隠しきっていた。家の中がギスギスしないように立ち回っていた…。トゥモ達ではロゼの本質は見極められなくてずっとジェードと同じ模式並の実力者と思わせていたからね」
そう言ったミチトは「グラス、君もだよね?」と続けた。
グラスは少し困った表情で「はい…真式である事が兄様を苦しめている気がしました」と言って今も悩んでいる兄オブシダンの事を思う。
ミチトはグラスの返事に「うん。ごめんね」と言った。
「お爺様?」
「俺が真式になって、アクィを究極の術人間にしてしまって、イブ…アイリスは無限記録盤との相性がいい完璧な術人間だったから、君たちにはその為に余計な苦労をかけているよ」
グラスはミチトの言葉に衝撃を受けていた。
ミチトの評判は無責任な人間の手で死後に誇張された人徳だと少なからず思ってしまっていた。
だが目の前にいるミチトはそんな人間ではなかった。
今この瞬間も3人の子孫にそれぞれに適した言葉をかけてくれている。
そして本心から申し訳ないと言ってくれている。
グラスは目に涙を浮かべて「お爺様、お会いできて幸せです」と言うとミチトは照れた声で「大袈裟だな。でも俺も君達に会えて幸せだよ。ありがとう。アクィのレイピアを使ってくれてありがとう。アクィもきっと喜ぶよ」と返した。
「お爺様、今はもう居ませんが姉様がアクィお婆様に憧れてレイピアに合わせた身体作りをしていました」
「えぇ?アクィに…」
ミチトの声は「なんでそんな真似をするのだろう?」というものだったがグラスには照れている風に聞こえていた。
「姉様なら聞きそうなことを伺っても良いですか?」
「何?」
「お爺様はアクィお婆様を愛されていましたか?」
「…そうだね。皆に言っていたけどタイミングが合わなかっただけで、俺はアクィとタイミングさえ合っていたら2人だけで添い遂げていたと思う。ラージポットに来る前、シキョウでの日々で俺がアクィの気持ちに気付いていたら、アクィが俺の性格を理解して回りくどい駆け引きをやめてストレートに来てくれていたら付き合っただろう。そしてアクィ・サルバンの高潔さに惹かれて、劣らないように相応しくいようと自身を高めたと思うよ」
グラスは聞けた言葉に感謝をして「ありがとうございます」と言うとミチトは「いや、さあ…心眼術も全ての術も更に上を意識するんだ」と言うと術の込め方、注意点なんかが自分の中に入ってくることがわかった。
「俺の使い方を教えた。グラスになら使えるよね?」
「…頑張ります」
「気負う事はない。剣技が苦手でもその剣には俺がアレコレ付与してあるから君を守ってくれるよ」
ミチトは本当にアクィを愛していたのだろう。
ミチトの全てが「愛の証」に込められているとグラスは感じていた。
グラスは再度礼を告げて会話を終わらせた。
あの感動を思い出して「やります!広域遠視心眼術!ダンジョン付近の洞窟を赤!ツギハギが居れば緑!」と言って見つけた洞窟はリプレスサウンドの側にあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます