第9話 グラスの思い出。
海底都市から出る方法は姓以外でミチトが珍しく言った遺言でスティエットを名乗らずとも、術の適正を持つスティエットの子孫は皆小さい頃から親達に教わって天空島からの落下訓練と海上と海底都市の往復訓練を行う事を命じられていた。
転移術に関しては難しい場合には親が同伴をしたり、朱色や金色がつれて行ったりしていた。
高所恐怖症の子供もいるがミチトの遺言「皆、楽しいから沢山やろう!」に従って行った。
グラスも真式として4歳の時に8歳の姉コーラルと6歳の兄オブシダンに連れられて天空島から落下をしながら海底都市に顔を出して伝説の人達に挨拶をして心躍った。
そしてヨシは新たなスティエットが生まれるとミチトの遺産から水着を用意して渡し海遊びをさせる。
グラスは大好きな姉と兄との訓練が楽しくて仕方なかった。
帰りは迎えにきてくれた術適性のあった父と母と共に帰れるので倒れるまで訓練ができた。
何遍も転移術で天空島に赴き、通気術を使って体を馴染ませてから落下をする。
ミチトの飛行術で空中遊泳を楽しみ、最後は浮遊術で落下速度を緩める。
そして海上から水の術と風の術で海底都市まで沈んでいく。
初めはコーラルの庇護下で、次はオブシダンの庇護下、そして3回目には真式として術を理解したグラスが1人でやってみせる。
そしてその後は3人で笑い声を上げてはしゃぎながら訓練をする。
「ミチトお爺様の言う通り楽しいわ、姉様!兄様!」
「ああ、楽しいねグラス!」
「そうよ!訓練は楽しいの!ミチトお爺様もアクィお婆様もイブお婆様も素晴らしい人!嘘はつかないわ!」
そうして力尽きて親達が呆れながら迎えにきてヨシと朱色に感謝を伝えてからサルバンへと連れて帰る。
グラスはそれを思い出して、皆で海遊びをして楽しかった過去を振り返りながら海上を目指す。
「姉様…、姉様が居たらって考えてしまう。ごめんなさい、私は弱いスティエット…。「愛の証」も思い通りに振れないスティエット…」
グラスは呟きながら泣いていた。
自身の不甲斐なさを悔やんでいた。
姉なら、無限術人間真式として自覚してから前向きに溌剌と剣に打ち込み術に打ち込んだコーラルなら…。
自慢の姉だった。
コーラルを思い出すと一番に出てくるのは真式ではなかったが鍛えに鍛えて姉に引けを取らない兄オブシダンとの一幕だった。
父や母はそんなオブシダンに「過去のスティエットでも後天性の真式が居たから、オブシダンはそれなんだろうな」「オブシダンは真式になれたら皆の分までサルバンを守ってね」と優しく声をかけて居た。
コーラルも「ふふ、私も楽しみに待っているわ。そうなったら一緒に貴い者としてサルバンだけではなくマ・イード全ての人々を救いましょうね!」と声をかけるとオブシダンは照れながら「姉様は本当にアクィお婆様みたいだね」と返す。
コーラルは嬉しそうに「本当!?」と聞き返して、その顔からオブシダンは地雷を踏んだ事に気付いてしまったと言う顔で「姉様、落ち着いて」と言うがコーラルは何度言われても嬉しいアクィに似ているという言葉に反応を示して満面の笑みを浮かべて「どこが?」「似ているかしら?」と聞いて、最後には父母に「似てるって言われたわ!」と報告をする。
そんな自慢の姉は14歳の時に謎の病気で倒れた。
近年術使い達がその病になると術を放てなくなるようになる。
だが問題は術人間だった。
術人間は体内の術が無くなると生命活動を止めて術を生み出そうとする事が判明した。
真式なら限界を迎えて限界値を更新しようとするがそれすらも起きなくなる。
そうなれば息もしない。食事も摂れない。
死しかなくなる。
コーラルの父母は懇意にしていたオルドスを頼り、コーラルは初めは家族が貯めてくれた魔水晶の術を吸収する事で誤魔化していたが、これでは何もできないとして未来に希望を託す事にした。
治療法が見つかるその日まで明石で作った石棺の中で眠りに付き、断時間術で石棺の時を止める。
もうグラスは20歳。
姉は14歳で眠りについたので姉が妹になってしまった。
オルドスの勧めで秘密の聖地となったスティエット村の跡地に廟を建ててそこに石棺を祀った。
墓荒らしを恐れてスティエット村の跡地は禁足地にしてだれもお参りに行けなくしたのでグラスは家族5人揃った絵を見て姉の無事を祈っていた。
今、そんな姉が居てくれれば力強く導いてくれただろう。
貴い者としてプレナイトの不安や不満なんかも背負って道を示しただろう。
もしかしたらあの力強い目と声でプレナイトに援軍を求めてスティエットにした上で貴族達からの重責から守り抜いたかも知れない。
もしかしたら伝説のミチトのように、グラスと共にレイジを討って、その足でオブシダンの敵も共に討ってくれたかもしれない。
「でも姉様も今は病と戦われている。私がやるしかないの」
グラスはそう呟くと海から上がる。
浜辺に居た釣り人は海から出てきてどこも濡れていないグラスを見て目を丸くしていた。
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