第3話 ミチトの死後。

ミチトの死後、荒れると思った国は言うほど荒れなかった。

それは子供達が睨みを効かせていて、術自慢の子達と武力自慢の子達がスティエットとして力を合わせる事でミチトと同じ仕事をしたからだった。


だが孫達の代になり、名を隠して生きるようになると「これなら」「これは?」と試すように悪事が繰り広げられた。


全ての始まりはこの布になる。

グラス・スティエットの目線で言えば姉コーラル・スティエットがまだ病名のない欠術病で確定された死から逃れる為に、死のギリギリまで万一に備えて術開発を行ったミチトの転生術でイブの姿を借りて断時間術で眠りに着いた後、布が流出すると愚かな貴族は今まで以上に無限術人間模式を欲した。


何かの為にと、キャーラ家とモブロン家、ドデモ家なんかは無限記録盤や無限魔水晶、魔水晶なんかを取り続けていた。

それらはミチトの時代と同じくアンチ家やチャズ家等で保管されていたが盗まれる。


マ・イード以外ではミチトの力でダンジョンとなった魔術師イニット・ホリデーはオオキーニの地で無限魔水晶と無限記録盤を守ってはいたが盗難にあっていた。



グラスやオブシダンの見解で言えばオオキーニはまだしも王都に関しては盗まれたかも怪しい。

圧力に負けて盗難という形で流出させた可能性もある。

そして王城に保管していたミチトが作った腕輪。これはラージポットのオーバーフロー時にディヴァント家に敵対していたカスケード・キャスパーがキャスパー派として出来損ないの模式を大量生産してミチト達にぶつけてきた。

ラージポットのオーバーフローの対処中でミチトが手を出せない王都やディヴァントに現れた出来損ないの模式が暴走しない為に押さえ込む為に作ったその腕輪が盗難にあった。


これはミチトに敵対して倒され特権剥奪をされたキャスパー派だったレイザー家の分家が、心を入れ替えた事で復権し王都で管理を任されていた物だが盗難にあう。


これでする事は一つしかない。

新たな模式を生み出す事。


かつてミチトはアプラクサス・アンチとシック・リミールに言った…。

「それです。ならば、それではと言われて無理矢理術人間にされる子供は嫌です」

「シックさんが手に入れた術人間がアプラクサスさんの術人間より強力ならアプラクサスさんは更に数を増やすか質の向上を目指す。

色々な方法を試すでしょう。老若男女、生まれ、食生活。宗教観。様々な事で最適解を探す。

言い訳は勿論「民のため国のため」です。

その為に犠牲になる人を貴族の方達は尊い犠牲と言うのかも知れませんね。

…でも偉い人たちは虐げられる人を人として見ていない。数字でしか見ないから明日のために尊い犠牲になれ…死ねと簡単に言えるんですよ」

この言葉通りになった。


今、マ・イードでは無限術人間模式を持つことが貴族達のステータスになっている。

止めて秘密裏に生み出されるよりは登録制にしようとしたがかえって事態は悪化した。


そもそも無限術人間の製法は国営図書館の中央室に残されているので貴族達には閲覧が可能でそれを読んだお抱えの魔術師が模式を生み出せる。


だが本質を理解しない魔術師の生み出した模式は暴走する。

それをあの腕輪で抑え込んでいた。


ミチトが生きていたら全ての貴族は殺されただろうというくらい悲惨な出来事はまだまだ続く。



ある時、模式の中にかつてのシヤ・トウテと同じく模式の身で真式になれる、真模式になりかけた。その真模式がマスターの為にミチトが生み出した融合術を理解してしまった。


これにより魔水晶を含ませた布の生成が可能になってしまったこと、そしてそこで終わらずに融合術の間違った使い方を閃いてしまった。


それは模式同士の身体を継ぎ接ぎしてしまう行為だった。


始まりは善意で、貴族達は模式の数ばかりを競う中、傷ついた模式を救う為に死んだ模式を繋げて治してしまったが、貴族達はそれを使って更に優秀な模式を生み出そうとしてしまった。


グラスは行わないが、仮に真式が行えば模式同士の融合術は高確率で成功して、拒絶反応もない。

だが未熟な魔術師や、自身が何をしているかも理解できない魔術師の施術では拒絶反応により暴走をする。


先程グラスが倒したツギハギは未熟な施術で起きた拒否反応によって生きる事を拒否して暴走を行い、完成を見届けに来た女貴族と術者を噛み殺した。



「たったこれだけの為にやっていい事ではない」

そう言ったトートイにグラスもオブシダンも頷く。


王都はこの件の初動を完全に間違えた。

すぐに通報のあった領地に第一騎士団を派兵したが、捕まえた人攫いの依頼者が騎士団員の近親者だった為に庇いあった。これにより大半の人攫い達は逃げてしまい、事態は更に悪化をした。


だがグラス達は姉、コーラル・サルバンが眠りについてまだ10年で大人しくサルバンに居た。

サルバンはミチトのお願いとして領土を南に伸ばしていてラージポットとの真ん中までサルバンになっていた。


領土が増える事はいいことばかりではない。

広くなった分だけリソースを割く事になり、スカロ・サルバンの子孫はスイーツの学校と孤児院、領地運営に、パテラ・サルバンの子孫は騎士団と防衛、そしてアクィの子孫達は全ての仕事に手広く関わっていた。


姉の事が心の傷になっていて行動できない部分もあったが、まずはサルバンを守ると決めていたのに、あの日…サルバン孤児院に居た1人の少女が遊びに出掛けて戻らなかった。


すぐにオブシダンとグラスで探したが心眼術でも遠視術でも見つけられなかった。


そしてグラスは兄オブシダンの許可を貰いグラス・サルバンからグラス・スティエットになり、トウテに行きアクィが子孫の為に残した宝剣「愛の証」を手に取って王都でスティエットとして生きる宣言をした。


グラスは姉コーラル程剣術には打ち込まなかった。

姉は高祖母のアクィを神格化していてアクィのようになりたいと言ってレイピアに合わせたトレーニングをしてきていた。


そして「愛の証」をオルドス立会いの元回収したグラスの元に密告があった。


「レイザー領で模式を集めツギハギを生もうとしている輩がいる」


事の真偽よりもまず行動をしたグラスはトートイから第二騎士団を借りるとレイザー領に乗り込んでツギハギを倒し、ミッシン・トウテの亡骸を見つけた。



グラスはため息をついた後で「トートイ様、私はスティエットとして不義を許しません。かつてのミチトお爺様同様、超法規的活動の許可をください」と言う。

トートイも頷いて「任せる。頼んだぞグラス・スティエットよ」と返しながらオブシダンに「そしてオブシダン・サルバンよ、回収した腕輪の管理を頼めるか?」と聞く。オブシダンは「御意」と答えると6つの腕輪を受領した。

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