第2話 ミチトの決めたこと。

無限術人間真式、オルドスやその身をダンジョンに変えた者達、天空島や海底都市の者たちは国政や治安維持等に過度の肩入れをしないかわり不可侵とする。

簡単に言えば国の存続に関わらなければ今世のトラブルは今世の人間だけで解決しろ。というもので、それもあって金色…金竜ことゴルディナはオルドスと共に王都を離れてラージポットに移住した。


そしてミチトはスティエットを名乗る事を孫達には選ばせることにした。

スティエットの重責、ミチトの再来を願われないように、ミチトは自分の生きた日々は始まりは別でも最後は自分の思ったままを生きた。

だからこそ孫達にはそれを強要しなかった。

強要したのは「スティエットではなく、皆は好きな名前を選ぶんだ」と言って、リナとアクィを失って自身の命の終わりを意識したミチトが妻ごとの子供を集めて話しかけた。


最初に呼ばれたのはリナとの間に授かった3人…タシア、シア、コードだった。


ミチトは47歳になっていたタシアを見て「タシア、もう見た目はお爺さんだね」と微笑みかける。タシアは「歳をとるとお父さんと同じだね。あんまり変わらないや」と微笑み返す。


ミチトはタシアに「本当だ」と言うとその横にいる。43歳になったシアに「シア、体の調子が悪いのに呼んでごめんね。身体が動けばちゃんと診て治してあげたかったよ」と申し訳なさそうに言う。

シアは昔のような力強さはないがリナに良く似た眩しい笑顔で「お父さんに会えるなら膝の痛みなんて気にならないわよ」と返す。


41歳になったコードには「コード、疲れてるみたいだね」と声をかけるとコードも少し情けなさそうに恥じるように「うん。でも平気さ、イブお母さん達にもお父さんはこの歳でもバリバリと悪い連中を痛めつけてたって教えてもらえたからね」と話した後で「お父さんのお世話…」と続けた。


ミチトは若い頃の無理が祟って介助が必要になっていた。

真式になるずっと前に行った常人を超えた身体強化や無茶苦茶なヒールも全てツケを払わされるように50代になってから顕著に現れた。


ミチトは首を振って「いいんだ。イブとライブがいるし、イブの分までロゼが、ライブの分までベリルが居てくれる。本当、皆に助けてもらって俺は幸せ者だよ」と言う。



こんな話の後でミチトは「今日は大事な事を話すよ。俺はもうすぐリナさんとアクィのところに行く。寿命だから仕方ないよね」と言う。


コードが少し困った顔で「…うん、でもトゥモが怒ってたよ」と言う。トゥモはアクィとの子供で42歳になる。


「まあトゥモは真式だけど俺には敵わないさ、トゥモが万命共有を使ったのを奪術術で邪魔したからまだ怒ってるかな?」

「悔しがってたよ」


「うん。初めてサンダーデストラクションをお父さんに乗っ取られた時と同じ顔だったよ」

「トゥモらしいなぁ」

ミチトが初めてトゥモのサンダーデストラクションを乗っ取った日、トゥモはいじけたミチトを髣髴させる表情で「パパ強すぎ」とぼやいていた姿を思い出すと、そこから子供達との日々を思い出して涙を流す。


涙を拭ったミチトは「俺の死後、イイーヨ達はエーライさんやモバテさん達と同じで子々孫々俺の子供達を守ると言ってくれた。でも俺はそれを断った。別にそんなものが欲しかった訳じゃない。さまざまな恩恵や責任はガムシャラに生きた結果だったからね。だから孫から先には別の姓を名乗ってほしいんだ。今はスティエットだから得られるもの、望まれてしまう重責が邪魔をする。それから解放してあげて欲しい。リナさんは元々リナ・ミントだった。だから君達の子達にはミントを、アクィとの孫達にはサルバンを…安心して、サルバンにはメロが渡りをつけてくれてある」と説明をした。


ここで長兄のタシアが「お父さん、イブお母さんとライブお母さんは?」と聞く。


「イブの本名はアイリス・レス。ライブの本名はヒスイ・ロス。今日まで秘密にしてきたんだ。もう俺はお爺さんでイブもライブもお婆ちゃんだから話そうって決めた。気になることは後でイブとライブに聞いてごらん」

「アイリス・レスとヒスイ・ロス」


「じゃあ、ジェードの子達には…」

「ああ、ロスだ」


ここでミチトはタシアが聞く前に「メロはスティエットでもいいし、サルバンでもいいと教えた。でもメロはトゥーザーが良いって言ってたよ」と教える。


「トゥーザー?」

「共同墓地に居るお父さんに似た人?」

「ああ、あれは俺の父さん、ファル・トゥーザー。スティエットは母方の姓だし、母はミトレさんと再婚をしてナハトと同じレイカーだからね」


「じゃあお父さんの言う通り、スティエットは孫達にどうするか決めさせるよ」

「ありがとうタシア」



この後でシアが「お父さん、真式の仕事ってどうするの?」と聞くとミチトは「それも皆決めてあるよ。スティエットを名乗る者、その中で俺の力を受け継いで無限術人間真式になった子は能力限界や戦いの引退を決めた時に俺のように大地の根と繋がって溢れる術を世界に流すんだ。しかしそれは強制ではない。その事は真式と決めてあるからアイツの指示に従えば大丈夫。アイツは嫌な奴だけどそこら辺はしっかりしてるよ」と説明をした。


ミチトは器用貧乏として可能な限り、死後の憂いが無いように、子供達が…孫達が困らないで済むように手を尽くしていた。


ミチトはこの話をメロを含めた10人の子供達にした。

ベリルは話しながら泣いていて「やだなぁもう、今すぐ死んじゃうみたいだろ?」とミチトに笑われていた。



ミチトはそれからすぐに亡くなった。

ミチトの葬儀、トウテには集まれるだけの人々が集まった。

ミチトより年上だった人は皆亡くなっていたが子供や孫達が来ていた。

真式を公言しているラミィとトゥモは泣きながら全ての力で国中を見張り、手薄になった王都を狙う連中を容赦なく消し炭に変えていた。


そして久しぶりに集まった家族達で今後の事、そしてディヴァント家が管理を引き受けていた財産分与、総資産の半分にも満たない金額で現存する子と孫達が平均的な貴族の暮らしを死ぬまでしてもお釣りが出るくらいの金額を配分して、残りに関してはイブとライブの存命中は2人のもので死後はディヴァント家とトウテ、そして各地に作った孤児院に配る事になっていた。

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